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「君がウォルターの婚約者か」
頭を下げたアイリスの前に立つ男性が言った。
「お初にお目にかかりますヴィクトリア・ガードナーと申します」
さっき広間に入って来られた時にもすごいオーラを感じたけど、今も凄いわ。
国内の錚々たる貴族がずらりと整列した歓迎式典。その中でも格別の存在感を放つのは東国の王太子ラウルだ。
国王と王妃、第一王子ベンジャミンと妃コルネリア、第二王子ステファン、第三王子ウォルターへ挨拶をした後、ウォルターの婚約者ヴィクトリアへの挨拶ため、今アイリスの正面に立っている。
「ラウル・バッハシュタインだ。こちらは私の婚約者のカルロッテ」
アイリスが顔を上げると、明るい金の髪を後ろで束ねた翡翠色の瞳の精悍な青年ラウルと、ふわふわした琥珀色の髪と同じ色の瞳の美女カルロッテがアイリスを見ながら微笑んでいた。
カルロッテとアイリスが挨拶を交わし、ふと気付くとラウルがじっとアイリスを見ている。
…え?何?何か、すごく見られてる?
私、何かおかしな事をしたのかな?
アイリスが内心ドキドキしていると、ラウルはふと片眉を上げた。
「……」
何を言うでもなく、しかし何かを言いたそうな雰囲気を出しながら、ラウルはアイリスから視線を外すと、にこやかにアイリスの隣のセラフィナに挨拶をする。
何だったの?今の。
アイリスが不安に思いながらセラフィナと反対側の隣のウォルターに視線をやると、ウォルターはほんの少し眉を顰めてラウルの方を見ていた。
-----
歓迎式典を終え、王宮のヴィクトリアの部屋へ戻って来たアイリスとセラフィナはホッと息を吐きながらソファへ座る。
「疲れたでしょう?アイリス」
ケイシーが淹れた紅茶を飲みながらセラフィナが言った。
「正直、すごく。でもセラはそうでもないみたいね。やっぱり慣れてるから?」
「そうかしら?でもそうね。慣れてるのは大きいかも」
「さすが王女殿下」
「明日は晩餐会、その次の日には夜会、その後はラウル殿下はベンジャミンお兄様と東国との国境の銀の採れる連山へ視察に行かれて、戻られるのは十日後。その間もカルロッテ様は王都に残られるから気は抜けないわね。ラウル殿下が戻られたら夜会があって、その後送別式典。それで約二週間の滞在を終えて帰国されるの」
セラフィナが指を折って日数を数えながら言う。
「東国から来られて、王都に来て、また東国との国境近くへ行って、また王都に戻られるの?」
そう不思議そうにアイリスが言うと、セラフィナは頷いた。
「効率悪いわよね。でも銀の連山にはこの国と東国とを馬車で行き来できるような道がないのですって。徒歩や馬でなら通れるらしいけど…」
なるほど。それはカルロッテ様と一緒にそこを通って帰国するのは無理だわ。
コンコン。
とノックの音がする。
ケイシーが扉の方へ行く間にアイリスは眼帯を手で触って確認し、前髪を手で撫で付けて目を隠した。
扉の向こうにはウォルターとラウルが立っていて、ケイシーが扉を開けて頭を下げると、ウォルターが部屋に入って来る。
「ヴィクトリア、ラウル殿下が少しヴィクトリアと話したいと言うんだ。部屋に入れても良いかな?」
ソファから立ち上がったアイリスに、申し訳なさそうにウォルターが言った。
「はい」
アイリスは頷く。
まあもう扉の向こうまで来られてるのに、国賓の東国の王太子の面会申込みを断れる筈もないわね。
ラウルは、部屋に入るとツカツカとソファの側に立っているアイリスの方へ歩いて行くと、頭を下げたアイリスの目の前で立ち止まった。
「……」
無言でじっと見つめられている視線を感じながらアイリスは頭を下げ続ける。
「ヴィクトリア、だったか?」
「はい」
「顔を上げろ」
「はい」
アイリスがゆっくり顔を上げ、ラウルと目が合うと、ラウルは片眉を上げた。
「これのために東国に来るのを拒んだのか?ウォルター」
ラウルは顎でアイリスを指すと、アイリスの後ろに立っていたウォルターへ言う。
え?これ?これって私…じゃなくてお姉様の事?
「ラウル殿下、私の婚約者をこれ呼ばわりするのはやめてください」
少し怒ったようなウォルターの声。
「従兄弟殿が我が国とこの国との友好よりも優先した女なのだからどんな絶世の美女かと想像していたのだがな」
ラウルはアイリスの頭の先から足の先まで視線を往復させた後、顎に手を当てて言った。
え?そりゃ私もお姉様も「絶世の美女」って程の美女じゃないだろうけど…割りと失礼な物言いじゃない?
でもこの言い方じゃ、まるで…
「ラウル殿下!」
「ヴィクトリア」
ウォルターが憤って言うが、ラウルは気にする様子もなくウォルターの言葉を遮って言った。
「ウォルターと一緒に銀の連山への視察に同行しろ」
「君がウォルターの婚約者か」
頭を下げたアイリスの前に立つ男性が言った。
「お初にお目にかかりますヴィクトリア・ガードナーと申します」
さっき広間に入って来られた時にもすごいオーラを感じたけど、今も凄いわ。
国内の錚々たる貴族がずらりと整列した歓迎式典。その中でも格別の存在感を放つのは東国の王太子ラウルだ。
国王と王妃、第一王子ベンジャミンと妃コルネリア、第二王子ステファン、第三王子ウォルターへ挨拶をした後、ウォルターの婚約者ヴィクトリアへの挨拶ため、今アイリスの正面に立っている。
「ラウル・バッハシュタインだ。こちらは私の婚約者のカルロッテ」
アイリスが顔を上げると、明るい金の髪を後ろで束ねた翡翠色の瞳の精悍な青年ラウルと、ふわふわした琥珀色の髪と同じ色の瞳の美女カルロッテがアイリスを見ながら微笑んでいた。
カルロッテとアイリスが挨拶を交わし、ふと気付くとラウルがじっとアイリスを見ている。
…え?何?何か、すごく見られてる?
私、何かおかしな事をしたのかな?
アイリスが内心ドキドキしていると、ラウルはふと片眉を上げた。
「……」
何を言うでもなく、しかし何かを言いたそうな雰囲気を出しながら、ラウルはアイリスから視線を外すと、にこやかにアイリスの隣のセラフィナに挨拶をする。
何だったの?今の。
アイリスが不安に思いながらセラフィナと反対側の隣のウォルターに視線をやると、ウォルターはほんの少し眉を顰めてラウルの方を見ていた。
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歓迎式典を終え、王宮のヴィクトリアの部屋へ戻って来たアイリスとセラフィナはホッと息を吐きながらソファへ座る。
「疲れたでしょう?アイリス」
ケイシーが淹れた紅茶を飲みながらセラフィナが言った。
「正直、すごく。でもセラはそうでもないみたいね。やっぱり慣れてるから?」
「そうかしら?でもそうね。慣れてるのは大きいかも」
「さすが王女殿下」
「明日は晩餐会、その次の日には夜会、その後はラウル殿下はベンジャミンお兄様と東国との国境の銀の採れる連山へ視察に行かれて、戻られるのは十日後。その間もカルロッテ様は王都に残られるから気は抜けないわね。ラウル殿下が戻られたら夜会があって、その後送別式典。それで約二週間の滞在を終えて帰国されるの」
セラフィナが指を折って日数を数えながら言う。
「東国から来られて、王都に来て、また東国との国境近くへ行って、また王都に戻られるの?」
そう不思議そうにアイリスが言うと、セラフィナは頷いた。
「効率悪いわよね。でも銀の連山にはこの国と東国とを馬車で行き来できるような道がないのですって。徒歩や馬でなら通れるらしいけど…」
なるほど。それはカルロッテ様と一緒にそこを通って帰国するのは無理だわ。
コンコン。
とノックの音がする。
ケイシーが扉の方へ行く間にアイリスは眼帯を手で触って確認し、前髪を手で撫で付けて目を隠した。
扉の向こうにはウォルターとラウルが立っていて、ケイシーが扉を開けて頭を下げると、ウォルターが部屋に入って来る。
「ヴィクトリア、ラウル殿下が少しヴィクトリアと話したいと言うんだ。部屋に入れても良いかな?」
ソファから立ち上がったアイリスに、申し訳なさそうにウォルターが言った。
「はい」
アイリスは頷く。
まあもう扉の向こうまで来られてるのに、国賓の東国の王太子の面会申込みを断れる筈もないわね。
ラウルは、部屋に入るとツカツカとソファの側に立っているアイリスの方へ歩いて行くと、頭を下げたアイリスの目の前で立ち止まった。
「……」
無言でじっと見つめられている視線を感じながらアイリスは頭を下げ続ける。
「ヴィクトリア、だったか?」
「はい」
「顔を上げろ」
「はい」
アイリスがゆっくり顔を上げ、ラウルと目が合うと、ラウルは片眉を上げた。
「これのために東国に来るのを拒んだのか?ウォルター」
ラウルは顎でアイリスを指すと、アイリスの後ろに立っていたウォルターへ言う。
え?これ?これって私…じゃなくてお姉様の事?
「ラウル殿下、私の婚約者をこれ呼ばわりするのはやめてください」
少し怒ったようなウォルターの声。
「従兄弟殿が我が国とこの国との友好よりも優先した女なのだからどんな絶世の美女かと想像していたのだがな」
ラウルはアイリスの頭の先から足の先まで視線を往復させた後、顎に手を当てて言った。
え?そりゃ私もお姉様も「絶世の美女」って程の美女じゃないだろうけど…割りと失礼な物言いじゃない?
でもこの言い方じゃ、まるで…
「ラウル殿下!」
「ヴィクトリア」
ウォルターが憤って言うが、ラウルは気にする様子もなくウォルターの言葉を遮って言った。
「ウォルターと一緒に銀の連山への視察に同行しろ」
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