ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「貴族令嬢とその侍女が強行軍について来られるとも思わないが、具合を悪くしても行程は緩めないからそのつもりでいろ」
 銀の連山への視察へ出発する日、それぞれの馬車に乗り込む前のアイリスに、ラウルはそう言った。
 視察に同行しろって言ったのはラウル殿下じゃないの。半ば無理矢理連れて行こうとしてる紅二点の私とケイシーになんて言い草なの。
 アイリスは心の中で憤りながらも、眼帯と前髪で隠した眼でラウルを見る。
 ラウルは面白そうにアイリスを見ていた。

 揶揄われてるの?
 じゃあ、お姉様ヴィクトリアとしては不正解な回答かも知れないけど、まあ誤差の範疇って事で、言ってもいいかな。
「もちろん。そのつもりです」
 アイリスはそう言ってにっこりと笑う。
「ほう」
 片眉を上げてますます面白そうにアイリスを見るラウル。
「ラウル殿下が仰られる通り、強行軍なのですから、一刻も早く出立しましょう」
 アイリスの後ろに立つウォルターがアイリスの肩に手を置きながら言った。
「そう睨むなよ」
 ラウルが笑いながら肩を竦める。
「……」
 ウォルターが眉を顰めると、ラウルは笑いながら見送りに出ている自身の婚約者カルロッテの方へと歩いて行った。

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「ケイシーは長時間馬車に乗ってて平気な方?」
 走り出した馬車の中で、アイリスは向かい側に座るケイシーに話し掛ける。
「あまり長時間乗っていた事がないのでわかりません」
 ケイシーが無表情で言う。
「そっか。じゃあ酔うかも知れないわね。進行方向へ向いて座った方が酔わないかも。私と代わる?」
「え?いえいえいえいえ。大丈夫です」
 珍しく少し慌ててケイシーが言う。
 無理もない。アイリスと入れ替わるイコールウォルターの隣りに座るという事になるのだから。

「ラウル殿下もベンジャミン殿下も、もう一台馬車を準備くだされば良いものを…」
 アイリスの斜め前、ケイシーの隣に座るデリックが憤りを含んだ声色で言った。
「まあ、これも僕に対する嫌がらせの一環なんだろう」
 デリックの向かい、アイリスの隣に座ったウォルターが呆れたように言う。
 つまり、アイリスとウォルター、その従者のケイシーとデリックは一台の馬車に乗っているのだ。
 先頭の馬車にはベンジャミンとラウルの従者たち、二台目の馬車にはベンジャミンとその侍従、三台目にはラウルと側近、四台目にウォルターとアイリス、五台目に銀採集加工に関する技術者や学者たち、六台目には機材などを乗せた貨物車だ。
 護衛騎士の馬に前後左右を囲まれた一行は派手ではないがやはり物物しい。

「嫌がらせ?ですか?」
 アイリスは目を瞬かせてウォルターを見た。
「そう。東国にとっても我が国にとっても銀の条約は重要だからね。人質のやり取りのような盟約でも履行できないままの状態は好ましくないから」
 ウォルターはそう言うと、口元に手を当てる。
「ラウル殿下は、この視察中にウォルター殿下を説得なさるつもりなんですか?」
「そうだろうね。後は僕に連山の様子を見せて、王族として、盟約は他人事ではないと突きつけるおつもりなんだろう」

 ラウル殿下の中での僕は、国と国との盟約よりも個人感情を優先するわがままな子供なんだろう。
 ウォルターは隣で難しい顔をしているアイリスを見た。

「…最近は東国へ行った方が良い気もするんだ」
「え?」
 ウォルターが呟くように言うと、アイリスがぱっとウォルターを見る。
 瞠目したアイリスの顔をウォルターはじっと見つめた。
「アイリスは僕がわがままを言っているとは思わない?」
「わがまま、ですか?」
「うん」
 じっとアイリスを見つめるウォルターの視線に、アイリスの鼓動が少し早まる。
 殿下が、わがまま?
 それから…東国へ行かれる…かも?

「…そうしたら、お姉様はどう…?」
 アイリスがそう言うと、ウォルターはふっと微笑んだ。
 …まただわ。淋しそうな、笑顔。
 ぎゅっと胸が絞られるような感覚。
 どうしてこんなに胸が痛いんだろう?

 ウォルターはクシャッとアイリスの髪を撫でる。
「ごめん」
 笑ってそう言うと、ウォルターは窓の外に視線を移した。
 何に「ごめん」?
 アイリスは撫でられた自分の頭に手をやる。
 そして窓の外を眺めているウォルターの横顔を見つめた。



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