ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

文字の大きさ
32 / 80

31

しおりを挟む
 31

 王族には似合わない質素な現地の宿で、揃って夕食を摂っている時、アイリスはラウルが自分をじっと見ている事に気が付いた。
「?」
 何?ラウル殿下に見られてる?
 これって「何ですか?」とか聞いて良いもの?

「ヴィクトリアはこの様な粗末…いや庶民的な宿に宿泊するのは嫌ではないのか?」
 ラウルが言う。
 少し眉を寄せて、揶揄う訳でも見下す訳でもなく、本当に疑問に思っているようだ。
「嫌ではありません」
 私、もともと庶民の子だし。まあ貴族の「別宅」の生まれ育ちだから、結構良い暮らしをしてたとは思うけど。
 この宿だってこの街にある宿の中の最上級だし、そりゃあ貴族が泊まる宿と比べたら部屋も狭いし、ベッドも固い。でも部屋も清潔でお風呂もお手洗いも綺麗だったし、嫌とかはないなあ。
 あ、でも私は今ヴィクトリア・ガードナーなんだから生粋の伯爵令嬢振る舞った方が良かったのかな?
 でも生粋の伯爵令嬢のお姉様がここにいたとしても端から見てわかるほどの不快感を表に出したりはしない…と思うけど…

「強行軍にも音を上げず、意外と君は強健なのだな」
 ラウルが笑いながら言う。
「私のために行程に遅れが出てはいけませんので、必死だったまでですわ」
 アイリスがにっこり笑って言うと、ラウルは片眉を上げた。
「そのように必死になるのは、ウォルターのためなのか?」
「え?」
「ヴィクトリアはウォルターとの結婚を憂いていると聞いていたのだが…それはただの噂か?」
「…え?」
 お姉様が?

「ラウル殿下、どこの誰がそのような噂を殿下の耳にいれたのですか?」
 アイリスの隣の席に座っていたウォルターが上座のラウルを睨みながら言うと、ラウルは「さあな」と肩を竦めた。

 -----

 灰色の世界に白黒の画像が浮かぶ。

 またあのだわ。
 アイリスの視界には、裾の長い白いドレスに白いレースのベールを被った女性が鏡の前に立っている後ろ姿が写っていた。
 顔が見えないけど…もしかしてお姉様?
 白黒だから違うかも知れないけど、白いドレスに白いベールのこれってウェディングドレスよね?と、なると、相手はもちろんウォルター殿下…よね…

 …あ、また。
 胸がザワザワする。
 女性が振り向いて顔が見える。やはりヴィクトリアだ。
 ただ、ヴィクトリアの表情は暗く、今にも泣きそうに眉を顰めていた。
 え?結婚式、よね?
 お姉様、何でこんな辛そうな表情なの?
 振り向いたヴィクトリアの視線の先に、ヴィクトリアのいた部屋に入って来たらしい、王族の正装である軍装のウォルターが立っていた。

 ……っ。
 心臓が鷲掴みにされたかのように締め付けられる。
 痛くて、息ができない位、苦しい。

 ウォルターもまた表情は険しい。ヴィクトリアもますます眉を顰める。
 …あれ?
 結婚式の前か後かわからないけど、何故二人ともこんな表情なんだろう?
 もしかしてラウル殿下が「ヴィクトリアはウォルターとの結婚を憂いている」って仰ったから、この私のにその情報が反映されてるのかな?

 眉を顰めて俯くヴィクトリアにウォルターが歩み寄り、手袋をした手を伸ばしてヴィクトリアの顎を掴んで上を向かせる。
 そしてウォルターがヴィクトリアの顔に自分の顔を近付け…

 …嫌!!

 見たくない、とアイリスは思うが、画像は変わらず見え続けた。
 ウォルターは鼻が触れそうな至近距離でヴィクトリアの目を覗き込むと、無表情で口を開く。

「笑え」
 そう、ウォルターの唇が動いた気がした。
 ヴィクトリアは辛そうな表情で唇を震わせる。
 ウォルターは無表情のまま、ヴィクトリアの顎を離すと、踵を返しまた扉の方へと歩いて行った。
 
 キス…するのかと思った…

 嫌だって、思った。
 お姉様とウォルター殿下の…ううん、私、ウォルター殿下、お姉様にキスをするのを、見たくないって思ったんだわ。
「アイリスが、ウォルター殿下を、好きになってしまったりするかも知れないって言ったんだ」
 いつかジェイドに言われた言葉が頭に甦る。
 ジェイドに、お姉様の振りをしてる内に「分」を越えてしまうんじゃないかって言われたんだっけ。

 …胸がザワザワしたり痛かったり苦しかったりしたのは、つまり。

「!」
 ハッと覚醒すると、そこは視察先の宿のベッドの上。
薄いカーテンの向こうは夜の闇だ。
 アイリスは仰向けで両手で自分の顔を覆った。

 好きになってしまったんだ。私…
 ううん。
 本当はずっと好きだったんだわ。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。 そして、屋敷から出ると決め 計画を実行したら 皮肉にも失敗しそうになっていた。 そんな時彼に出会い。 王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす! と、そんな時に聖騎士が来た

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...