ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 ウォルターたちが坑道へ視察に行っている間、アイリスとケイシーは鉱夫たちの休憩所で待つ事にした。
 とはいえ、今は休憩の時間ではない休憩所はガランとしていて誰もいない。
 アイリスは人の気配のする厨房の方へ歩を進めた。

「おはようございます。あ、もう『こんにちは』の時間かしら?」
「ヴィクトリア様!?」
 ずんずん厨房の中に入って行き、にこやかに挨拶をするアイリス。後ろから慌てて付いて来たケイシーが驚いた声を上げる。
 厨房にいた二人の女性がギョッとした表情でアイリスたちを見た。
「…なっ。だ、誰!?」
 二人の女性の内の一人、厨房の奥の火にかけた鍋の前に立つ年齢二十代半ばの長身で細身の女性が言う。
「ちょっ!今日はラウル殿下たちがお見えの日だよ。こんな貴族然とした女…いや女性なんて関係者に決まってるだろ!」
 もう一人の女性、手前の流し台で洗い物をしていた五十代くらいの中肉中背の女性が、慌てて泡だらけの手を振りながら言った。

「あ、はい。私ヴィクトリア・ガードナーと申しまして、ウォルター殿下の婚約者です」
 アイリスは眼帯はそのままに、前髪を掻き上げて顔を出すとにっこりと笑う。
「ヴィクトリア様…」
「大丈夫よ」
 心配そうにアイリスを見るケイシーに、アイリスは小さく頷いて見せた。
 ここの人たちはお姉様と私の瞳の色の違いは知らないはず。青い瞳には違いないし、それより前髪で隠して顔を見せない方がきっと不誠実に見えてしまうわ。

「ウォルター殿下…って、東国から嫁いだ姫のお子様…王子よね?え?何でそのウォルター殿下の婚約者がここに?」
「今日お見えになるのはラウル殿下とベンジャミン殿下じゃなかった?」
 長身の女性と中肉中背の女性が顔を見合わせる。
「ラウル殿下がウォルター殿下と私に『お前たちも同行しろ』と仰られて…急遽でしたのでご存知なかったんですね?驚かせてしまって申し訳ありません」
 アイリスは申し訳なさそうに眉を寄せて言った。

「……何企んでんの?」
 長身の女性がアイリスを睨む。
「マリー!?」
 中肉中背の女性が驚いて長身の女性を見た。
「マリーさんと仰るの?」
 アイリスがマリーと呼ばれた長身の女性の方へ一歩踏み出すと、中肉中背の女性がマリーとアイリスとの間に入るように身体を動かす。
「王子の婚約者って事はお貴族様だよ。そんな楯突くようや口の聞き方しちゃあ…」
「だってメアリさん、そのお貴族様が休憩こんな所へ来るだけならまだしも『驚かせて申し訳ありません』なんて私たちに言うのはおかしいでしょ!?しかもウォルター殿下の婚約者だなんて、絶対何か企んでるに決まってるわ!」
「気持ちはわかるけど」

 なるほどこっちの女性はメアリさんか。
 アイリスは訝し気に自分を睨みながら言うマリーと、マリーを宥めようとするメアリを交互に見ると、今まで上げていた口角をすっと下げ、真剣な表情で二人を見た。
「ほ、ほら、怒らせたんじゃ…」
「……!」
 メアリが慌てて言うと、マリーはぐっと息を飲む。

「企むという程の企みではありませんけど、企んでい
ると言えば企んでいます」
 アイリスはそう言うと、再び口角を上げた。

-----

「ウォルター?ああ、こっちに嫁いだ王女の子か。それが東国ウチへ来た方が良いかどうか?」
 休憩所で昼食を摂る鉱夫は、お椀を持ち汁物をすすりながらテーブルの傍に立っているマリーを見上げる。
「そう。ルイーザ様が駆け落ちして、盟約が果たされないままになってるじゃない」
「まあ、ウチは約束通り王女を送ったんだし、そもそも銀の坑道があるのもほとんどがこの国側。それはまあ鉱脈の関係で仕方ないが、取れた銀を運ぶにも山を越えるか遠回りをするかで時間も手間もかかる。このままこっちの国からウチへ誰も送らないなら『不公平だ』と不満も出るかもな」
 おかずを口に放り込み、咀嚼しなから鉱夫が言うと、向かいに座る他の鉱夫も口を開いた。
「だが『政略結婚は嫌だ』って逃げたのはルイーザ王女の方だろ?こっちの国は第二王子を東国ウチに寄越すつもりでいたのによ。なのにじゃあ代わりにこっちに嫁いだ王女の子を寄越せって言うのも変な話じゃねえか?」
 そうだなあ。と周りの鉱夫たちも頷く。

「ラウル殿下はウォルター殿下に東国に来て欲しがってるみたいなんだけど」
 マリーが厨房の方へ少し視線を向けながら言うと、鉱夫の一人が言った。
「そりゃあ、ラウル様はウォルター殿下に来て欲しいだろうよ」
「何で?」
「ウォルター殿下が来ないなら、その妹姫をラウル様の正妃に迎えるしかないって意見があるからさ」

 セラをラウル殿下の正妃に!?
 厨房のカウンターの下に隠れてマリーと鉱夫たちの会話を聞いていたアイリスは思わず「え!?」と声が出そうになり、慌てて両手で口元を押さえた。



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