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ルイーザの住まいで夜を迎え、寝室にルイーザとアイリスとヴィクトリア、居間兼食堂にウォルターとステファン、台所にデリックとジェイドとケイシーが泊まる事になった。
デリックとジェイドは流し台を背に床に並んで座り、ケイシーは流し台とは反対側の食器棚にもたれて毛布を肩に掛けて座っている。
「ケイシーはアイリスたちの部屋に泊まらせてもらった方が良かったんじゃないか?」
ジェイドが言うと、ケイシーは首を横に振った。
「畏れ多いです」
「まあ、気持ちはわかる」
頷くジェイド。デリックは呆れたように言う。
「畏れ多い気持ちがわかる割に、ヴィクトリア様と駆け落ちするつもりだったんだろう?アイリス様の事『神経太い』とか言っていたが、ジェイドも充分神経太いよ」
「…うっ。駆け落ちは断られたんだからそこには触れないでくれ…」
ジェイドは胸を押さえて苦渋の表情で言った。
「断られたのは駆け落ちだけで、ヴィクトリア様と想いは通じ合われたんですよね?」
ケイシーが言う。
「そうだよな。ジェイドも『自分が仕える伯爵家のお嬢様と恋に落ちた』んだから、やっぱり充分神経太いわ」
ニヤニヤと笑いながら言うデリック。
「それより、ケイシーは本当にアイリスに着いて行ってくれるのか?」
思い出したかのようにジェイドが言うと、ケイシーは
「話を逸らしましたね」
と、デリックは
「露骨に逸らしたな」
と呟いた。
「本当は俺がアイリスと一緒に行ってやりたいが…そうもいかないし、ケイシーが行ってくれれば随分安心できるんだけど」
顎に手を当ててジェイドが言う。
「はい。アイリス様と友好的関係になった私にはアイリス様のいないガードナー家に戻るという選択肢はありませんし」
「ああ…」
ケイシーの言葉にジェイドは頷いた。
奥様がアイリスに決まった侍女が付けなかったのは、家の中にアイリスの味方になる人物を増やさないため。だからケイシーのように四六時中アイリスに付き添った侍女は今までいない。
おそらくガードナー家に戻ろうと戻るまいとケイシーは解雇されるだろうな。
いや、解雇されなかったとしたら、奥様からアイリスと同じように辛く当たられる可能性もあるか。
「今後はガードナー家とではなく、アイリスと直接契約を…いや、ウォルター殿下に雇っていただいた方がいいか」
顎に手をやり、ジェイドはそう呟くと、チラリと隣のデリックを見る。
「そうだな。そのように手配しよう」
デリックが言うと、ケイシーはペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「でも勝手に決めてしまっていいのか?」
心配そうにデリックがケイシーを見る。
「え?」
「ケイシーはまだ十七歳だろ?家族に相談もなしにこんな大事な事を決めてしまって本当にいいのか?」
この国では学園を卒業する歳を迎えると成人と見做される。それは学園に行かない多くの市井の者たちも同じで、十八歳になると大人として扱われるのだ。
「私は八人兄妹の六番目で、両親からの関心はそう強くありません。両親にとっては仕送りさえちゃんと届くなら、私の職場がどこであるかはさほど問題ではないでしょう」
ケイシーが淡々と言うと、デリックは納得できないように首を傾げた。
「そうなのか?しかし、アイリス様に着いて行くとは、このまま東国へ行くという事だぞ?」
-----
「ここで、アイリスとヴィクトリアには入れ替わってもらう」
再会の後、ルイーザの家の居間兼食堂のテーブルを囲み、ウォルターがそう言う。
四脚ある椅子に、ウォルター、ステファン、ルイーザ、ヴィクトリアが座り、台所から持って来た簡易的な椅子をウォルターとヴィクトリアの間に置き、アイリスが座っている。ヴィクトリアとアイリスの後ろにジェイドが立ち、玄関に近い部屋の隅にデリックとケイシーが並んで立ち控えていた。
「入れ替わると言うより、元に戻ると言った方が正しいか」
「「はい」」
アイリスとヴィクトリアが頷く。
「僕とヴィクトリアとの婚約は解消する。少し時間はかかるかも知れないが、ガードナー伯とも話したし、ベンジャミン兄上に了承と口添えをいただく約束をしたので円滑に進むと思う」
ウォルターの言葉にヴィクトリアは無言で頷いた。
「アイリスにはこの間も話した通り、申し訳ないけど夏期休暇明けから東国の学校へ編入してもらいたい」
「はい」
攫われたアイリスを助けにウォルターがここへ来て、互いの想いを知った時、ウォルターはひとつの道筋をアイリスに示していた。
それがアイリスが東国へ留学し、ウォルターが数年遅れて東国へ移住するというもの。
東国へ移住したウォルターが、留学中の幼なじみと交流を持つ事は当然あるだろうし、そこから交際に発展したとしても何の不思議もないのだ。
ルイーザの住まいで夜を迎え、寝室にルイーザとアイリスとヴィクトリア、居間兼食堂にウォルターとステファン、台所にデリックとジェイドとケイシーが泊まる事になった。
デリックとジェイドは流し台を背に床に並んで座り、ケイシーは流し台とは反対側の食器棚にもたれて毛布を肩に掛けて座っている。
「ケイシーはアイリスたちの部屋に泊まらせてもらった方が良かったんじゃないか?」
ジェイドが言うと、ケイシーは首を横に振った。
「畏れ多いです」
「まあ、気持ちはわかる」
頷くジェイド。デリックは呆れたように言う。
「畏れ多い気持ちがわかる割に、ヴィクトリア様と駆け落ちするつもりだったんだろう?アイリス様の事『神経太い』とか言っていたが、ジェイドも充分神経太いよ」
「…うっ。駆け落ちは断られたんだからそこには触れないでくれ…」
ジェイドは胸を押さえて苦渋の表情で言った。
「断られたのは駆け落ちだけで、ヴィクトリア様と想いは通じ合われたんですよね?」
ケイシーが言う。
「そうだよな。ジェイドも『自分が仕える伯爵家のお嬢様と恋に落ちた』んだから、やっぱり充分神経太いわ」
ニヤニヤと笑いながら言うデリック。
「それより、ケイシーは本当にアイリスに着いて行ってくれるのか?」
思い出したかのようにジェイドが言うと、ケイシーは
「話を逸らしましたね」
と、デリックは
「露骨に逸らしたな」
と呟いた。
「本当は俺がアイリスと一緒に行ってやりたいが…そうもいかないし、ケイシーが行ってくれれば随分安心できるんだけど」
顎に手を当ててジェイドが言う。
「はい。アイリス様と友好的関係になった私にはアイリス様のいないガードナー家に戻るという選択肢はありませんし」
「ああ…」
ケイシーの言葉にジェイドは頷いた。
奥様がアイリスに決まった侍女が付けなかったのは、家の中にアイリスの味方になる人物を増やさないため。だからケイシーのように四六時中アイリスに付き添った侍女は今までいない。
おそらくガードナー家に戻ろうと戻るまいとケイシーは解雇されるだろうな。
いや、解雇されなかったとしたら、奥様からアイリスと同じように辛く当たられる可能性もあるか。
「今後はガードナー家とではなく、アイリスと直接契約を…いや、ウォルター殿下に雇っていただいた方がいいか」
顎に手をやり、ジェイドはそう呟くと、チラリと隣のデリックを見る。
「そうだな。そのように手配しよう」
デリックが言うと、ケイシーはペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「でも勝手に決めてしまっていいのか?」
心配そうにデリックがケイシーを見る。
「え?」
「ケイシーはまだ十七歳だろ?家族に相談もなしにこんな大事な事を決めてしまって本当にいいのか?」
この国では学園を卒業する歳を迎えると成人と見做される。それは学園に行かない多くの市井の者たちも同じで、十八歳になると大人として扱われるのだ。
「私は八人兄妹の六番目で、両親からの関心はそう強くありません。両親にとっては仕送りさえちゃんと届くなら、私の職場がどこであるかはさほど問題ではないでしょう」
ケイシーが淡々と言うと、デリックは納得できないように首を傾げた。
「そうなのか?しかし、アイリス様に着いて行くとは、このまま東国へ行くという事だぞ?」
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「ここで、アイリスとヴィクトリアには入れ替わってもらう」
再会の後、ルイーザの家の居間兼食堂のテーブルを囲み、ウォルターがそう言う。
四脚ある椅子に、ウォルター、ステファン、ルイーザ、ヴィクトリアが座り、台所から持って来た簡易的な椅子をウォルターとヴィクトリアの間に置き、アイリスが座っている。ヴィクトリアとアイリスの後ろにジェイドが立ち、玄関に近い部屋の隅にデリックとケイシーが並んで立ち控えていた。
「入れ替わると言うより、元に戻ると言った方が正しいか」
「「はい」」
アイリスとヴィクトリアが頷く。
「僕とヴィクトリアとの婚約は解消する。少し時間はかかるかも知れないが、ガードナー伯とも話したし、ベンジャミン兄上に了承と口添えをいただく約束をしたので円滑に進むと思う」
ウォルターの言葉にヴィクトリアは無言で頷いた。
「アイリスにはこの間も話した通り、申し訳ないけど夏期休暇明けから東国の学校へ編入してもらいたい」
「はい」
攫われたアイリスを助けにウォルターがここへ来て、互いの想いを知った時、ウォルターはひとつの道筋をアイリスに示していた。
それがアイリスが東国へ留学し、ウォルターが数年遅れて東国へ移住するというもの。
東国へ移住したウォルターが、留学中の幼なじみと交流を持つ事は当然あるだろうし、そこから交際に発展したとしても何の不思議もないのだ。
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