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「アイリスは本当にいいの?このまま東国へ行ってしまって」
毛布を被ったまま眠ってしまったらしいルイーザを起こさないように、小声でヴィクトリアが言う。
「はい」
「留学だから学園の卒業資格はあるのだろうけど、お友達には挨拶すらできないまま会えなくなるわよ?家族…お父様にも。それにウォルター殿下が東国へ行かれるのが早くて二年半後?それまでウォルター殿下にも、セラフィナ殿下にもなかなか会えないし、私やジェイドにだって…」
ウォルターはセラフィナが学園を卒業した後、東国へ移住する。今学園の二年生のアイリスとセラフィナが卒業を迎えるのは二年と七カ月後だ。
「そうですね。友達に会えないのは淋しいです。お父様やニコラスやローレン、それにお姉様とジェイドに会えないのも淋しいです」
アイリスは仰向けに寝て、天井を見つめた。
「でしょう?」
「でも、私が今生きているのは奇跡なんです。本当なら私、お姉様にもウォルター殿下にも二度と会えなかった。それを思えば、これで縁が切れてしまう訳ではないのだし、手紙だって書けますもん。だから淋しいけど、大丈夫です」
きっぱりと言い切るアイリス。
「…せめて東国へ行く前に王都に一度戻ったらどうかしら?新学期までにはあと二週間あるでしょう?」
「それも考えなくはなかったんですけど、私の留学って家出まがいなんですよね」
「家出まがい?」
アイリスは視線だけをヴィクトリアの方へ向ける。
「はい。留学の理由というか動機というか…それの第一義が『家に居たくない』なんです」
今回、ヴィクトリアが攫われたと知らせを受けて、義母の代理としてアイリスはここに来た。
そして『ウォルターの婚約者という立場から解放されたい』と泣いているヴィクトリアと面会したアイリスは『自分こそが何もかもを捨てたいと思っている』と気付く。
義母に疎まれる日々。さらに義母が子供を産めばアイリスはますます邪魔者扱いになるだろう。
ヴィクトリアがウォルターとの婚約を解消すればヴィクトリアが王妃派や東国派に狙われる事はなくなるが、一度は義母に命を狙われたアイリスの記憶は失われる事はなく、またいつ「事故」に遭うかと怯えて暮らさなければならない。
誹謗中傷を受けても王都に戻り、自らの未来を切り拓く決意をしたヴィクトリアを見て、自分も何もかもを捨てると決めたアイリスは、父にそれを相談する。
妻の企みを知っていた父フランクはアイリスを家から離す事に協力してくれた。
そして、ウォルターやベンジャミン、ラウルから東国への「留学」という案を提案される。
留学の手配はあっという間に整えられ、アイリスは父や姉などの家族などと縁を切る事なく、義母の手の届かない場所へと逃げられる事になったのだ。
「だから、王都に戻るのは違うかな、と。このまま東国へ行くのが良いと思うんです」
「そう…そうね…」
ヴィクトリアは手を伸ばして、アイリスの手を握る。
「お姉様…」
「……」
言葉にならない思いで、ヴィクトリアはアイリスの手を握る手に力を入れた。
「…ねえお姉様、私って鈍いですか?」
アイリスもヴィクトリアの手を握り返しながら笑って言う。
「え?」
「だって、お姉様がジェイドを好きだった事も、ジェイドがお姉様を好きだった事も、私、気が付かなかったし、ウォルター殿下が私の事ずっと特別に想ってくださってた事にも…」
「それは、それぞれが気付かれないよう隠してたのだから仕方ないんじゃないかしら?」
「でも私、自分がウォルター殿下を好きな事にもごく最近まで自分でも気付いてませんでしたし」
「そうなの?」
「はい。気付いたの、この銀の連山の視察に来てからです」
「…本当に最近ね」
「ですよね!?」
アイリスはヴィクトリアの手をギュッと握った。
「シッ。ルイーザ様を起こしてしまうわ」
反対の手の人差し指を立ててヴィクトリアは口の前に置く。
「…しー」
小声で言うと、アイリスも人差し指を立てて口の前に置いた。
「多分アイリスは鈍い訳じゃないのよ」
「え?」
「気付きたくなかったんだわ。きっと。だって、殿下には私という婚約者がいるんだから、好きだと気付いても辛いだけでしょう?だから無意識に自衛していたんだと思う」
ヴィクトリアが優しく笑いながらアイリスを見ている。
「そうなんですかね?」
「きっとそうよ」
「お姉様がそう言うなら、そうなのかも」
アイリスも笑ってヴィクトリアを見た。
「…元気でね。アイリス」
「お姉様も」
繋いだ手をそのままに、アイリスとヴィクトリアは眠りについた。
「アイリスは本当にいいの?このまま東国へ行ってしまって」
毛布を被ったまま眠ってしまったらしいルイーザを起こさないように、小声でヴィクトリアが言う。
「はい」
「留学だから学園の卒業資格はあるのだろうけど、お友達には挨拶すらできないまま会えなくなるわよ?家族…お父様にも。それにウォルター殿下が東国へ行かれるのが早くて二年半後?それまでウォルター殿下にも、セラフィナ殿下にもなかなか会えないし、私やジェイドにだって…」
ウォルターはセラフィナが学園を卒業した後、東国へ移住する。今学園の二年生のアイリスとセラフィナが卒業を迎えるのは二年と七カ月後だ。
「そうですね。友達に会えないのは淋しいです。お父様やニコラスやローレン、それにお姉様とジェイドに会えないのも淋しいです」
アイリスは仰向けに寝て、天井を見つめた。
「でしょう?」
「でも、私が今生きているのは奇跡なんです。本当なら私、お姉様にもウォルター殿下にも二度と会えなかった。それを思えば、これで縁が切れてしまう訳ではないのだし、手紙だって書けますもん。だから淋しいけど、大丈夫です」
きっぱりと言い切るアイリス。
「…せめて東国へ行く前に王都に一度戻ったらどうかしら?新学期までにはあと二週間あるでしょう?」
「それも考えなくはなかったんですけど、私の留学って家出まがいなんですよね」
「家出まがい?」
アイリスは視線だけをヴィクトリアの方へ向ける。
「はい。留学の理由というか動機というか…それの第一義が『家に居たくない』なんです」
今回、ヴィクトリアが攫われたと知らせを受けて、義母の代理としてアイリスはここに来た。
そして『ウォルターの婚約者という立場から解放されたい』と泣いているヴィクトリアと面会したアイリスは『自分こそが何もかもを捨てたいと思っている』と気付く。
義母に疎まれる日々。さらに義母が子供を産めばアイリスはますます邪魔者扱いになるだろう。
ヴィクトリアがウォルターとの婚約を解消すればヴィクトリアが王妃派や東国派に狙われる事はなくなるが、一度は義母に命を狙われたアイリスの記憶は失われる事はなく、またいつ「事故」に遭うかと怯えて暮らさなければならない。
誹謗中傷を受けても王都に戻り、自らの未来を切り拓く決意をしたヴィクトリアを見て、自分も何もかもを捨てると決めたアイリスは、父にそれを相談する。
妻の企みを知っていた父フランクはアイリスを家から離す事に協力してくれた。
そして、ウォルターやベンジャミン、ラウルから東国への「留学」という案を提案される。
留学の手配はあっという間に整えられ、アイリスは父や姉などの家族などと縁を切る事なく、義母の手の届かない場所へと逃げられる事になったのだ。
「だから、王都に戻るのは違うかな、と。このまま東国へ行くのが良いと思うんです」
「そう…そうね…」
ヴィクトリアは手を伸ばして、アイリスの手を握る。
「お姉様…」
「……」
言葉にならない思いで、ヴィクトリアはアイリスの手を握る手に力を入れた。
「…ねえお姉様、私って鈍いですか?」
アイリスもヴィクトリアの手を握り返しながら笑って言う。
「え?」
「だって、お姉様がジェイドを好きだった事も、ジェイドがお姉様を好きだった事も、私、気が付かなかったし、ウォルター殿下が私の事ずっと特別に想ってくださってた事にも…」
「それは、それぞれが気付かれないよう隠してたのだから仕方ないんじゃないかしら?」
「でも私、自分がウォルター殿下を好きな事にもごく最近まで自分でも気付いてませんでしたし」
「そうなの?」
「はい。気付いたの、この銀の連山の視察に来てからです」
「…本当に最近ね」
「ですよね!?」
アイリスはヴィクトリアの手をギュッと握った。
「シッ。ルイーザ様を起こしてしまうわ」
反対の手の人差し指を立ててヴィクトリアは口の前に置く。
「…しー」
小声で言うと、アイリスも人差し指を立てて口の前に置いた。
「多分アイリスは鈍い訳じゃないのよ」
「え?」
「気付きたくなかったんだわ。きっと。だって、殿下には私という婚約者がいるんだから、好きだと気付いても辛いだけでしょう?だから無意識に自衛していたんだと思う」
ヴィクトリアが優しく笑いながらアイリスを見ている。
「そうなんですかね?」
「きっとそうよ」
「お姉様がそう言うなら、そうなのかも」
アイリスも笑ってヴィクトリアを見た。
「…元気でね。アイリス」
「お姉様も」
繋いだ手をそのままに、アイリスとヴィクトリアは眠りについた。
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