ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 翌日、ウォルターとデリック、ヴィクトリアとジェイドはベンジャミンやラウルと合流するため、ルイーザの住まいを後にした。
「ヴィクトリアは少し心を病んでいる事になっているから、ベンジャミン兄上やラウル殿下とは話さなくて良いからね」
 馬車の中で、ウォルターは向かい側に座るヴィクトリアに言う。
「わかりました」
 ヴィクトリアの横に座るジェイドは付け髭に帽子で紳士風を装っていた。
「ヴィクトリアたちの馬車はベンジャミン兄上、ラウル殿下、僕、視察団、更にその後ろを走る事になる。宿泊先も兄上やラウル殿下とは別の宿にはなるが、ジェイドはくれぐれもガードナー伯爵ではない事が露見しないよう注意して」
「はい」
 ジェイドは緊張した面持ちで頷く。

「アイリスは兄上たちに挨拶をしたらまたルイーザ様の所に戻って来て、夏期休暇が開ける前に東国へ向かう。本当は僕もそれまでずっと一緒にいたいんだけど…」
 眉を顰めてウォルターは隣に座っているアイリスを見た。
「ウォルター殿下は王都に戻ってラウル殿下の送別式典ですよね?」
 アイリスは口元に人差し指を当てて言う。
「そんなの出なくたって…」
 拗ねた口調で言うウォルター。
「駄目ですよ。将来東国で暮らすんですから、ラウル殿下への義理は通しておかなくちゃ。それにセラにもウォルター殿下から説明して欲しいですし」
「うん…じゃあラウル殿下が帰国されたらすぐまたこっちに来るから」
「はい」

 ベンジャミンとラウルが滞在している宿の前で馬車を降りたアイリスは、何人かの見物人の中に知った顔を見つけて立ち止まった。
 二十代半ばくらいの細身の女性と、五十代くらいの中肉中背の女性。
 爆発が起きた時、休憩所にいたマリーさんとメアリさんだわ。あそこで攫われて…もしかして私の無事を確かめに来てくれたの?
「アイリス?」
 ヴィクトリアが
アイリスの方を振り向く。
 私、今はアイリスだから、マリーさんとメアリさんに話し掛けたらおかしいよね。
「お姉様、あの女性二人に会釈してください」
 アイリスがこっそりとヴィクトリアにマリーとメアリのいる方を示すと、ヴィクトリアは何も聞かずに二人の方へ向くと、軽く頭を下げた。

 マリーとメアリがパッと顔を輝かせて、顔を見合わせる。
 笑顔の二人を見て、やっぱりヴィクトリアの無事な姿を見に来てくれたのだとアイリスは思った。

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 ベンジャミンとラウルに留学を取り計らってもらったお礼を述べ、王都に戻る一行を見送って、ルイーザの住まいに戻って来たアイリス。
「じゃあしばらくはアイリスちゃんとケイシーちゃんと三人暮らしね」
 ルイーザはニコニコとアイリスを出迎えた。
 ステファンもラウルの送別式典などに出席しなくてはならないので単身王都に戻ったのだ。

「こうしてここで気楽に生活できるのももう少しの間だけなのねぇ…」
 ルイーザはしみじみと言いながら居間兼食堂を見回す。
「もう東国へ戻る日程とか決まってるんですか?」
 アイリスはトレイに載せてテーブルに置いてあるティーカップをソーサーに乗せた。
「ラウルが東国に帰って、お父様たちと相談してから決めるそうよ。だからそんなに直ぐにではないと思うわ。ファンは『なるべく早く』って言っていたけどね」
 苦笑いしながらルイーザが言う。

 ケイシーが台所から紅茶の入ったポットを持って来て、テーブルに置いた。
「ケイシーちゃんも一緒にお茶しましょう。座って?」
 ルイーザがケイシーに椅子に座るよう促す。
「え?でも…」
 ケイシーが戸惑っていると、アイリスがポットを手に取り、カップに紅茶を注ぎ始めた。
 テーブルに置かれたカップはちゃんと三つある。

「ケイシー、ここでは私もルウさんもケイシーも対等よ。さ、座って」
 アイリスもケイシーに座る場所を示すようにカップを置いた。
「はい」
 ケイシーは椅子に座る。
 右手にルイーザ、左手にアイリスが座り、ケイシーは座り心地が悪そうに下を向いていた。
「東国へ行ってからも私とは主従関係じゃないからね」
 アイリスが言うと、ケイシーは顔を上げる。
「え?」

「ケイシーは今後はウォルター殿下に雇われて、私の所に派遣される形になるじゃない?」
「はい」
「だから…主従じゃなくて、ケイシーとはもっと仲良くというか…要するに友達になりたいの!」
 アイリスは意を決したように言う。
「とも、だち?」
 虚をつかれたケイシーは、ぽかんと口を開けてアイリスを見つめた後
「わかりました」
 と言って、にっこりと笑った。



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