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「ごめんねー、留守番してもらっちゃって」
美奈子が帰って来たのは、お昼を少しまわったくらいだった。
「ちょっとね、昨日の披露宴で問題が起きちゃって。本城君って、何かできる楽器とかある?」
「えっ、楽器は何も……」
「そっか、いいのよ。あのさぁ、例えばなんだけど、アンサンブルって、分かる?」
「アンサンブル?」
「そう。ピアノとビオラとフルートなんだけどね」
「ええっと……すみません、ちょっとよく分からないかも」
ピアノとフルートは分かるが、ビオラって何だろう? 薫は、曖昧に微笑んだ。
「そっかぁ。……3つの楽器が、一緒に演奏するってことは分かる?」
「あ、それはさすがに分かるかも。アンサンブルの意味は、学校で習った気がします」
「そうよねぇ! あのね、昨日うちから披露宴の生演奏でアンサンブルが入ってたのよ。乾杯後に演奏が始まったんだけど、それ見た新郎が『3人一緒に演奏してる!』って言い出して」
「え?」
「どうもね、3つの楽器を1つずつ順番に演奏するって思ってたらしいのよ。食事会メインの披露宴だったから演奏時間も長くてね、途中で休憩を挟んだんだけど、3人一緒に演奏して3人一緒に休憩してるのはおかしいって言い出して」
美奈子が、はぁ、とため息をついた。
「ほら、1人ずつ演奏したらその間残りの2人は休憩できる筈だって。おそらく誰かに生演奏勧められて、よく分からないまま注文したんだと思うんだけどね、バラバラに演奏したらアンサンブルの意味ないじゃない。それで昨日は奏者の子たちが新郎に説明してしぶしぶ納得してもらったらしいんだけど、今日支配人に呼び出されちゃって」
美奈子がキッチンに向かい、お茶を入れたグラスを2つ持って来た。
「冷蔵庫も適当に使ってね? それで支配人に、うちが渡してるパンフレットの表記をもっと分かりやすくしたらどうかって言われたわ。こんなこと言われたの、初めてよ」
グラスの片方を薫に差し出しつつ、美奈子がまたため息をついた。
「パンフレット、作り直さなくちゃ。さすがに3つの楽器を一緒に演奏します、とは書けないから……そうねぇ、3つの楽器が織りなすハーモニーとか何とか、さりげなく3つ一緒に演奏するって分かるような表記を……」
解釈というのは人それぞれだ。自分の常識が万人の常識という訳でないのは分かるが、なかなかに難しい。
美奈子が帰って来たのは、お昼を少しまわったくらいだった。
「ちょっとね、昨日の披露宴で問題が起きちゃって。本城君って、何かできる楽器とかある?」
「えっ、楽器は何も……」
「そっか、いいのよ。あのさぁ、例えばなんだけど、アンサンブルって、分かる?」
「アンサンブル?」
「そう。ピアノとビオラとフルートなんだけどね」
「ええっと……すみません、ちょっとよく分からないかも」
ピアノとフルートは分かるが、ビオラって何だろう? 薫は、曖昧に微笑んだ。
「そっかぁ。……3つの楽器が、一緒に演奏するってことは分かる?」
「あ、それはさすがに分かるかも。アンサンブルの意味は、学校で習った気がします」
「そうよねぇ! あのね、昨日うちから披露宴の生演奏でアンサンブルが入ってたのよ。乾杯後に演奏が始まったんだけど、それ見た新郎が『3人一緒に演奏してる!』って言い出して」
「え?」
「どうもね、3つの楽器を1つずつ順番に演奏するって思ってたらしいのよ。食事会メインの披露宴だったから演奏時間も長くてね、途中で休憩を挟んだんだけど、3人一緒に演奏して3人一緒に休憩してるのはおかしいって言い出して」
美奈子が、はぁ、とため息をついた。
「ほら、1人ずつ演奏したらその間残りの2人は休憩できる筈だって。おそらく誰かに生演奏勧められて、よく分からないまま注文したんだと思うんだけどね、バラバラに演奏したらアンサンブルの意味ないじゃない。それで昨日は奏者の子たちが新郎に説明してしぶしぶ納得してもらったらしいんだけど、今日支配人に呼び出されちゃって」
美奈子がキッチンに向かい、お茶を入れたグラスを2つ持って来た。
「冷蔵庫も適当に使ってね? それで支配人に、うちが渡してるパンフレットの表記をもっと分かりやすくしたらどうかって言われたわ。こんなこと言われたの、初めてよ」
グラスの片方を薫に差し出しつつ、美奈子がまたため息をついた。
「パンフレット、作り直さなくちゃ。さすがに3つの楽器を一緒に演奏します、とは書けないから……そうねぇ、3つの楽器が織りなすハーモニーとか何とか、さりげなく3つ一緒に演奏するって分かるような表記を……」
解釈というのは人それぞれだ。自分の常識が万人の常識という訳でないのは分かるが、なかなかに難しい。
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