コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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「よし、できた」

 テーブルに運ばれてきた湯気の立つラーメンを見て、何だか懐かしい気持ちになった。子供の頃、休みの日に父親が作ってくれたラーメンによく似ている。

 インスタントラーメンの上に炒めた野菜をのっけただけの男の料理が、やけに旨かったのを覚えている。

 テーブルの向かいに櫻井が座り箸を取るのを待って、薫は手を合わせた。

「いただきます」
「うん」

 胡椒がきいているところも似ていると思いながら、ラーメンを啜る。

「……旨い」
「うん」

 櫻井と一緒にずるずるとラーメンを啜りながら、そういえばラーメンを奢る約束もまだ果たせていないことを思い出していた。

 腹が満たされると気持ちもかなり楽になり、櫻井と共に台所に立つ。2人並んで洗い物を済ませると、櫻井が思い出したように言った。

「ああ、そうだ。薬を塗ろうか」
「え?」

 タオルで手を拭いた櫻井が、自身の鞄から薬の入った袋を取り出す。病院の医師は櫻井に薬を渡していた。薫が受け取ろうと手を伸ばすと、ひょいと避けられた。

「塗ってあげるから、ベッドに横になりなさい」
「えっ」

 すたすたと寝室に入ってゆく櫻井を、驚いて追いかける。

「何言ってんの。いいよ、自分で塗るから。貸して」
「だめだ、自分じゃ見えないだろう」
「いや、でも」

 ベッドの横で押し問答になる。
 櫻井が鼻から息を吐いた。

「あのね、医師免許持ってるよ? 俺」
「っ、」
「大丈夫だから。ほら、横になりなさい」

 櫻井に、口で勝てる気がしない。
 渋々と薫はベッドに腰を下ろした。

「うつ伏せね」

 そろりと足をベッドに上げて、肘をつくように背中を上に向けた。

「下げるよ」
「あ、待って。……っ、」

 せめて自分で下げようとした薫の手よりも早く、借り物のスウェットと新品だったブリーフを一緒にぐい、と下げられる。

「ちょっと診るよ」
「え、あっ」

 ぐに、と双丘を割り開かれ、息を詰める。……もういい。抵抗したところでどうせ櫻井は診るのだろうから、ここは早く済ませよう。

 医師にも診られて2回目ともなると、諦めも早くなる薫だった。

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