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薫は、じろりと櫻井を睨んだ。
「……なぁ。普通こういうことの被害者って、もっと気遣ってくれるもんじゃないの?」
「気遣ってるだろう。君の口からちゃんと聞くことで、気持ちを楽にしてあげてるんだよ」
「? ……」
気持ちが楽になっただろうか? ……確かにちょっと、気が紛れた気はする。というか、微妙に腹が立つのは気のせいか。それでも、1人で家に帰って夜を過ごすよりは、ずっと良かったのかもしれない。……そう思うことにする。
「それで?」
「……えっと……バイブを」
「どんな?」
「っ! 知らないよ! 見てない」
「ふーん。バイブ入れられて、それで?」
「それでって、それだけだよ」
「あの部屋に入った時、あいつ下半身裸だったんだけど」
「っ、入れられそうになったけど! その前に、来てくれたから」
「入れられてない?」
「ないよっ」
「全く?」
「全く」
「えぇ? カリは入ってたように見えたけどなぁ」
「っ!」
あの時、櫻井が部屋に入ったのは一番最後で、その時にはもう増本や男たちは取り押さえられていたと思う。見られてはいない筈……とそこまで考えて薫は、はっとした。
「あんたっ、画像見たのかよっ!」
「そりゃ見るだろう。事実確認は基本だよ」
じゃあ何で色々聞いたんだ。薫の開いた口は声も出せないまま、ぱくぱくと動いた。
いつの間に、と考えて、病院での診察が1時間近くかかったことを思い出す。あの待ち時間で、見たに違いない。
「あんな奴に入れられそうになるなんて……俺ですら、まだ入れてないのに」
「え、」
「君は危機感がなさすぎる」
上げた口角を歪めた櫻井の、その目は笑っていなかった。……いや、むしろ怒っている。先程からずっと怒っていたのだと、薫はようやく気が付いた。
「あの、」
櫻井に肩を押され、ベッドに背中がついた。
顔の両側に手をつかれ、覗き込まれる。
「君がどんなに無防備なのか、俺が教えてやるよ。──薫」
覆い被さる櫻井は口端をにぃ、と引き上げた。
「……なぁ。普通こういうことの被害者って、もっと気遣ってくれるもんじゃないの?」
「気遣ってるだろう。君の口からちゃんと聞くことで、気持ちを楽にしてあげてるんだよ」
「? ……」
気持ちが楽になっただろうか? ……確かにちょっと、気が紛れた気はする。というか、微妙に腹が立つのは気のせいか。それでも、1人で家に帰って夜を過ごすよりは、ずっと良かったのかもしれない。……そう思うことにする。
「それで?」
「……えっと……バイブを」
「どんな?」
「っ! 知らないよ! 見てない」
「ふーん。バイブ入れられて、それで?」
「それでって、それだけだよ」
「あの部屋に入った時、あいつ下半身裸だったんだけど」
「っ、入れられそうになったけど! その前に、来てくれたから」
「入れられてない?」
「ないよっ」
「全く?」
「全く」
「えぇ? カリは入ってたように見えたけどなぁ」
「っ!」
あの時、櫻井が部屋に入ったのは一番最後で、その時にはもう増本や男たちは取り押さえられていたと思う。見られてはいない筈……とそこまで考えて薫は、はっとした。
「あんたっ、画像見たのかよっ!」
「そりゃ見るだろう。事実確認は基本だよ」
じゃあ何で色々聞いたんだ。薫の開いた口は声も出せないまま、ぱくぱくと動いた。
いつの間に、と考えて、病院での診察が1時間近くかかったことを思い出す。あの待ち時間で、見たに違いない。
「あんな奴に入れられそうになるなんて……俺ですら、まだ入れてないのに」
「え、」
「君は危機感がなさすぎる」
上げた口角を歪めた櫻井の、その目は笑っていなかった。……いや、むしろ怒っている。先程からずっと怒っていたのだと、薫はようやく気が付いた。
「あの、」
櫻井に肩を押され、ベッドに背中がついた。
顔の両側に手をつかれ、覗き込まれる。
「君がどんなに無防備なのか、俺が教えてやるよ。──薫」
覆い被さる櫻井は口端をにぃ、と引き上げた。
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