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「本城君冷めるよ? 早く食べなさい、それ」
櫻井が、くくっと笑ってパスタを指差した。
薫は口数も少ないままに、アラビアータを完食た。
それから風呂に入って寝支度を調えると、先に寝室に入った櫻井を追いかける。
明日の木曜日、薫は休みだが櫻井は仕事だ。 櫻井音楽事務所では、薫と相川は土日に現場に入ることが多いので、休みは2人で調整しながら取るようにしている。
ダウンライトがほのかに照らされた寝室で、すっかり定位置になった櫻井の隣に滑り込むと、腕枕にと差し出された腕にそっと頭を乗せた。
温まった羽布団と櫻井の腕が、薫の体を包み込む。
「どうしたの。そんなに離婚が引っかかる?」
「……だって」
「本城君は気にしなくていいんだよ、これは俺と美奈子の問題だから」
「……でも」
「君は相変わらず優しいね」
「……優しい人間は、人の家庭を壊したりしないと思う」
「そんな風に考えてたの?」
くくっと震える櫻井の腕が、薫をぎゅっと抱きしめた。
「美奈子との関係性は、前に話したと思うんだけどなぁ」
「………」
「これまで美奈子と夫婦でいたのは、お互いにそれが一番都合が良かったからだよ。色んな意味でね」
「……社長は、愛情があったって、言ってた」
「うん? もちろんそれはね、愛情がなきゃ夫婦なんてやってられないよ。でもその愛情は、君が考えているようなものとはちょっと違うかな」
櫻井は、薫の頭を静かに撫でた。
「その愛情より、優先したい愛情ができちゃったからね」
「っ、」
思わず腕の中から見上げたおでこに、櫻井が唇をつける。
「何よりも、失いたくないものができちゃったから」
櫻井の温かい唇が瞼に触れ、頬に触れ、唇に重なった。静かに入ってくる分厚い舌に自分の舌を絡めると、涙が溢れてきた。
「君、泣き虫になったんじゃない?」
くくっと笑う櫻井の唇が首筋を這う。
ちゅ、と吸われるたびにぞくぞくと震える体を、温かい手が撫でる。
ああ、自分の方こそ、この温もりを失いたくないと思っている。
こんなに身勝手な人間だったと、薫は自分を思い知った。櫻井の言葉に甘えて、人の家庭を壊してでも自分の幸せを優先するような……
それでも薫の体は、櫻井の愛撫に喜び、櫻井を受け入れる。慣れた愛撫に、至福の時間に、あっという間にずくずくと蕩けてしまう。
櫻井が、くくっと笑ってパスタを指差した。
薫は口数も少ないままに、アラビアータを完食た。
それから風呂に入って寝支度を調えると、先に寝室に入った櫻井を追いかける。
明日の木曜日、薫は休みだが櫻井は仕事だ。 櫻井音楽事務所では、薫と相川は土日に現場に入ることが多いので、休みは2人で調整しながら取るようにしている。
ダウンライトがほのかに照らされた寝室で、すっかり定位置になった櫻井の隣に滑り込むと、腕枕にと差し出された腕にそっと頭を乗せた。
温まった羽布団と櫻井の腕が、薫の体を包み込む。
「どうしたの。そんなに離婚が引っかかる?」
「……だって」
「本城君は気にしなくていいんだよ、これは俺と美奈子の問題だから」
「……でも」
「君は相変わらず優しいね」
「……優しい人間は、人の家庭を壊したりしないと思う」
「そんな風に考えてたの?」
くくっと震える櫻井の腕が、薫をぎゅっと抱きしめた。
「美奈子との関係性は、前に話したと思うんだけどなぁ」
「………」
「これまで美奈子と夫婦でいたのは、お互いにそれが一番都合が良かったからだよ。色んな意味でね」
「……社長は、愛情があったって、言ってた」
「うん? もちろんそれはね、愛情がなきゃ夫婦なんてやってられないよ。でもその愛情は、君が考えているようなものとはちょっと違うかな」
櫻井は、薫の頭を静かに撫でた。
「その愛情より、優先したい愛情ができちゃったからね」
「っ、」
思わず腕の中から見上げたおでこに、櫻井が唇をつける。
「何よりも、失いたくないものができちゃったから」
櫻井の温かい唇が瞼に触れ、頬に触れ、唇に重なった。静かに入ってくる分厚い舌に自分の舌を絡めると、涙が溢れてきた。
「君、泣き虫になったんじゃない?」
くくっと笑う櫻井の唇が首筋を這う。
ちゅ、と吸われるたびにぞくぞくと震える体を、温かい手が撫でる。
ああ、自分の方こそ、この温もりを失いたくないと思っている。
こんなに身勝手な人間だったと、薫は自分を思い知った。櫻井の言葉に甘えて、人の家庭を壊してでも自分の幸せを優先するような……
それでも薫の体は、櫻井の愛撫に喜び、櫻井を受け入れる。慣れた愛撫に、至福の時間に、あっという間にずくずくと蕩けてしまう。
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