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第二章 浄化の旅
運命の番と番じゃない婚約者
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「どうしたの?」
16歳の彼は侍従ちゃんズの中では最年長。弓を扱うからか鍛えられた上半身の筋肉はしなやかで、かといってモリモリしてるわけでもなくメム特有の柔らかさも残してる。明るい栗毛に澄んだ蒼の瞳。あと何年かしたら間違いなく美男子だろうな、って将来有望そうな顔立ちのエテュセは、ゼェゼェハァハァと息を整えている最中。水でも…と思うけどこんな時に限って持ってないし。
でもエテュセは早く伝えないと、って思うのか息も絶え絶えに伯爵邸の方角を指差している。
「でっ、でん、でん…っ」
「でんでん?」
でんでん虫?でんでん太鼓??首を傾げる俺に反して、ディアの眉間にはギュッと皺が寄る。
「ディア?」
「殿下だな?」
我が意を得たりとばかりにこくこくこくこく高速で頷くエテュセに、ディアは天を仰いで大きなため息をついた。
「わかった。戻ろう。お前はゆっくり休んでから戻るといい」
そう言って自分は馬を降り、恐縮しまくるエテュセを馬に乗せ俺を支えさせると、近くの茶屋へ馬を引き連れていく。店主へエテュセを休ませてやるよう頼んで金を置いて再び馬に乗ってきたディアがイケメン過ぎて俺は目眩を起こして落馬しかけた。
やることかっこ良すぎない…!?
番がイケメン過ぎると悶絶してる俺を乗せたまま伯爵邸に戻ると、そこはもう戦場のようだった。
ブラッキル家の使用人達がわたわたわたわた右往左往してお忍びで現れた王子殿下の為色々な準備をしている。
それを横目に離れの屋敷に戻ると、まるでこの屋敷の主人であるかのようにソファーで優雅に紅茶を飲んでいるレイアゼシカがいた。
隣には何だかまだ調子の悪そうなパーピュアの姿もあって、俺はディアの腕の中から慌てて降りて…案の定ズシャア…と床に崩れ落ちる羽目になった。
ダメだ…。俺の下半身が死んでいる。
「………お前もか」
「………なるほど」
お前もか、と言うことはお前もだなパーピュア。俺達は揃って相手の側にいる男に胡乱な眼差しを向けた。
レイアゼシカは素知らぬフリだ。流石王族は面の皮も厚い。流石にディアは気まずげにゴホン、と咳払いをしたけど。
「それで?何故殿下はこちらへ?」
「んー?ピュアが皆のところに戻るって言うから激励がてら着いてきたー」
「着いてきた、じゃないでしょう。公務はどうしました」
「戻ったらやるって」
どこ吹く風のレイアゼシカにため息をつくディア。普段からこうなのかな?俺はあんまりレイアゼシカと接点ないから良くわからない。
でもとりあえず伯爵邸はてんやわんやになってるから事前に何かしら言っておいてあげてほしいなぁ、とは思った。まぁ突如来た俺達が言える事ではないと思いますが。
なんてディアの小言を受け流すレイアゼシカを眺めてたら扉が遠慮がちにノックされる。入室を許可するレイアゼシカに、お前が許可するな、と嫌そうな顔をしながらも無言なディア。
開いた扉の向こうにはすらりとした体躯の青年が一人。大きなオレンジの瞳は長い睫毛に縁取られ、手入れの行き届いた萌黄の長い髪は淡いオレンジのリボンで束ねて左肩から流してある。ぷっくりとした唇はピンク色で艶々しい。
「お前は?」
問いかけるレイアゼシカに
「…ナピリアート・ブラッキルと申します」
礼を取ったまま答えるその高くも低くもない声色に、ふ、と俺は眉をしかめた。
何でだろう。何かこう…言い知れない気持ち悪さを感じたんだ。どこかずる賢いというか、粘ついた甘さを感じると言うか。
「父より領内の案内を命じられて参りました」
レイアゼシカは嫌そうな顔を隠しもしなかったけど、ディアと視線を合わせ仕方なさそうに立ち上がった。ついでにパーピュアの頬にキスするのも忘れない。そしてパーピュアも唇が当たった箇所をシュババ、と素早く拭くのも忘れない。全く素直じゃないんだからな。嬉しいくせに。
でもその時に感じた不快感は気のせいじゃなかったのだと俺は今心の底から思っている。
あれからディアも騎士団の仕事をしてくると出ていってしまって、部屋にいた筈のローゼンもいなくて、ティエはまだ帰ってこなくて。
ちなみに王族のメイディはこっそり離宮に帰って子供達と過ごしているそうだ。人妻だったのもびっくりだけど、子持ちだった事にもびっくりしたわ。あと今ちょっと危険な立ち位置にいるから旅に同行したっていうのも初めて聞いたぞ。だから離宮に戻るのも極秘だし、旦那のテューイリングとも今は会えないんだって。テューイリングが離宮に行ったらそこにメイディが戻った事がバレちゃうからだそうだ。
そんなわけで今ここには俺とパーピュアしかいないんだけど…そのパーピュアも隣の部屋に引きこもって出てこなくなってしまった。
何で、って?領内を回って戻ってきたナピリアートが言ったんだ。
『ご本人に近くでお会いして確信致しました。レイアゼシカ殿下は私の運命の番です。殿下と婚姻なさるご予定がないのでしたら、どうか私の殿下をお返しください』
って。ふんわり漂う熟れすぎた果物みたいな不快な甘い香りを振り撒きながら。
16歳の彼は侍従ちゃんズの中では最年長。弓を扱うからか鍛えられた上半身の筋肉はしなやかで、かといってモリモリしてるわけでもなくメム特有の柔らかさも残してる。明るい栗毛に澄んだ蒼の瞳。あと何年かしたら間違いなく美男子だろうな、って将来有望そうな顔立ちのエテュセは、ゼェゼェハァハァと息を整えている最中。水でも…と思うけどこんな時に限って持ってないし。
でもエテュセは早く伝えないと、って思うのか息も絶え絶えに伯爵邸の方角を指差している。
「でっ、でん、でん…っ」
「でんでん?」
でんでん虫?でんでん太鼓??首を傾げる俺に反して、ディアの眉間にはギュッと皺が寄る。
「ディア?」
「殿下だな?」
我が意を得たりとばかりにこくこくこくこく高速で頷くエテュセに、ディアは天を仰いで大きなため息をついた。
「わかった。戻ろう。お前はゆっくり休んでから戻るといい」
そう言って自分は馬を降り、恐縮しまくるエテュセを馬に乗せ俺を支えさせると、近くの茶屋へ馬を引き連れていく。店主へエテュセを休ませてやるよう頼んで金を置いて再び馬に乗ってきたディアがイケメン過ぎて俺は目眩を起こして落馬しかけた。
やることかっこ良すぎない…!?
番がイケメン過ぎると悶絶してる俺を乗せたまま伯爵邸に戻ると、そこはもう戦場のようだった。
ブラッキル家の使用人達がわたわたわたわた右往左往してお忍びで現れた王子殿下の為色々な準備をしている。
それを横目に離れの屋敷に戻ると、まるでこの屋敷の主人であるかのようにソファーで優雅に紅茶を飲んでいるレイアゼシカがいた。
隣には何だかまだ調子の悪そうなパーピュアの姿もあって、俺はディアの腕の中から慌てて降りて…案の定ズシャア…と床に崩れ落ちる羽目になった。
ダメだ…。俺の下半身が死んでいる。
「………お前もか」
「………なるほど」
お前もか、と言うことはお前もだなパーピュア。俺達は揃って相手の側にいる男に胡乱な眼差しを向けた。
レイアゼシカは素知らぬフリだ。流石王族は面の皮も厚い。流石にディアは気まずげにゴホン、と咳払いをしたけど。
「それで?何故殿下はこちらへ?」
「んー?ピュアが皆のところに戻るって言うから激励がてら着いてきたー」
「着いてきた、じゃないでしょう。公務はどうしました」
「戻ったらやるって」
どこ吹く風のレイアゼシカにため息をつくディア。普段からこうなのかな?俺はあんまりレイアゼシカと接点ないから良くわからない。
でもとりあえず伯爵邸はてんやわんやになってるから事前に何かしら言っておいてあげてほしいなぁ、とは思った。まぁ突如来た俺達が言える事ではないと思いますが。
なんてディアの小言を受け流すレイアゼシカを眺めてたら扉が遠慮がちにノックされる。入室を許可するレイアゼシカに、お前が許可するな、と嫌そうな顔をしながらも無言なディア。
開いた扉の向こうにはすらりとした体躯の青年が一人。大きなオレンジの瞳は長い睫毛に縁取られ、手入れの行き届いた萌黄の長い髪は淡いオレンジのリボンで束ねて左肩から流してある。ぷっくりとした唇はピンク色で艶々しい。
「お前は?」
問いかけるレイアゼシカに
「…ナピリアート・ブラッキルと申します」
礼を取ったまま答えるその高くも低くもない声色に、ふ、と俺は眉をしかめた。
何でだろう。何かこう…言い知れない気持ち悪さを感じたんだ。どこかずる賢いというか、粘ついた甘さを感じると言うか。
「父より領内の案内を命じられて参りました」
レイアゼシカは嫌そうな顔を隠しもしなかったけど、ディアと視線を合わせ仕方なさそうに立ち上がった。ついでにパーピュアの頬にキスするのも忘れない。そしてパーピュアも唇が当たった箇所をシュババ、と素早く拭くのも忘れない。全く素直じゃないんだからな。嬉しいくせに。
でもその時に感じた不快感は気のせいじゃなかったのだと俺は今心の底から思っている。
あれからディアも騎士団の仕事をしてくると出ていってしまって、部屋にいた筈のローゼンもいなくて、ティエはまだ帰ってこなくて。
ちなみに王族のメイディはこっそり離宮に帰って子供達と過ごしているそうだ。人妻だったのもびっくりだけど、子持ちだった事にもびっくりしたわ。あと今ちょっと危険な立ち位置にいるから旅に同行したっていうのも初めて聞いたぞ。だから離宮に戻るのも極秘だし、旦那のテューイリングとも今は会えないんだって。テューイリングが離宮に行ったらそこにメイディが戻った事がバレちゃうからだそうだ。
そんなわけで今ここには俺とパーピュアしかいないんだけど…そのパーピュアも隣の部屋に引きこもって出てこなくなってしまった。
何で、って?領内を回って戻ってきたナピリアートが言ったんだ。
『ご本人に近くでお会いして確信致しました。レイアゼシカ殿下は私の運命の番です。殿下と婚姻なさるご予定がないのでしたら、どうか私の殿下をお返しください』
って。ふんわり漂う熟れすぎた果物みたいな不快な甘い香りを振り撒きながら。
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