【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第二章 浄化の旅

裏切り者

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テューイリングが黙ってナスダルを地面に横たえるのを眺めてたんだけど、何とか立ってた足から力が抜けて倒れ込みそうになったのを後ろから誰かの腕が支えてくれた。だけどその瞬間俺を支配したのは、身の毛もよだつような嫌悪と恐怖。
何で、と思って相手を確認するよりも早くひたりと喉に押し当てられた短剣に息を飲む。

「ああ…やっと、やっとこの手に…!」

「ひ…っ」

耳元に吐息と共に吐き出されたその声はクソ眼鏡の物で。

「動かないでもらおう。もし一人でも動けば神子の体の一部を削ぎ落とす」

するりと服の間に差し込まれた短剣でまるで見せつけるみたいに服を切り裂いて素肌に触れてくるその手が気持ち悪いのに、魔力切れでもう指先一本動かせない。

クソ眼鏡はそのまま何かの魔術を発動させたらしく、フォン、と音がして足元に魔方陣が浮かび上がった。

「転移魔法…!」

パーピュアの声が遠い所で聞こえる。今ここで意識を失うわけにいかないのに、目蓋が重くなる。

「スナオ!」

嫌だ。助けて。

「や…だ、…みんな…」

助けて。
その瞬間。

「スナオ様に触れるな!!!」

ゴッ、と鈍い音が響き、魔方陣から光が消えた。ついでに俺から引き剥がされたクソ眼鏡が荷物のように放り投げられたせいで、支えを失った俺の体はぐらりと傾いで、地面に激突ーーー寸前に誰かの腕に抱き止められて。

「スナオ様!」

「ロー、ゼン…?」

もう目が霞んで何も見えないけど、この声はローゼンだ。
捕縛しろ!ってディアの声も聞こえる。

「スナオ様、大丈夫。もう大丈夫ですから」

そっかぁ。ローゼンが大丈夫っていうならもう大丈夫なんだ。良かったぁ。

そう思った所でプツリと意識は途絶えた。




ディカイアスは騎士団員に拘束され刃を突き付けられて尚憎々しげに睨むパワハルを冷たい瞳で見下ろした。
すなおに触れた両の手を切り落としてやりたいくらいの怒りを抱えているが、ここでこの男を裁くのは自分ではないと理性で怒りを何とか抑え込む。
そのディカイアスの横に並び、口を開いたのはテューイリングであった。

「神官長パワハル。王家への反逆、神子への狼藉の罪でお前を捕縛する」

「王家への反逆?お前達こそ神子を酷使し、国王陛下への謀反を企てた大罪人だろう!」

まだ戯れ言を吐くその男を、ディカイアスと同じ冷たい瞳で見下ろしたテューイリングは僅かな間の後、ふ、と笑った。

「……その国王陛下から最期にを託された」

その指にはめられているのはこの国の王である証、国璽の指輪。
最期のあの瞬間、ナスダルは確かにその瞳に知性の色を宿らせていた。それは即ち何者かが彼の知性を鈍らせ、欲にまみれた化け物にさせていた証。最後の最期にナスダルはそれを捩じ伏せて息子に全てを託したのである。

「思えば父上がお前を神官長に、と推した時からおかしいと思っていたのだ」

大した功績があるわけでもなく、信心深いようにも見えない。ただ魔力が高いだけの人物に絆される程愚かな父ではなかったはずだ。

「お前には色々吐いてもらわねば」

ナスダルの部屋に出入りしていたという人物がパワハルと無関係だとは思えない。

「お前達に話すことなど何もない!」

「それは牢獄で聞く」

連れていけ、と命が下るよりも早くそれは起きた。

「う…っぐぅ…っ」

「またか…!」

ナピリアートの時と同じく、パワハルの首に浮かぶ赤い文字。

「わ、たしを…!切り、捨てるのか…!!!」

唾を吐き散らしもがきながらも、パワハルは声を振り絞る。その口からパワハルの物ではない声が、した。

「滅びの為の方法は与えたはず。生かせなかったのならば、お前に用はない」

高くも低くもない、耳に心地のよい声。しかし紡いだ言葉は呪詛のように禍々しく、瘴気に満ち溢れている。

「お前は誰だ…?」

パワハルではない誰かがパワハルの体を借りて話しているーーそうとしか言えない程に纏う雰囲気はガラリと変わっている。
相手はくすくすと笑ったようだった。

「裏切り者のアークオランが…。神子共々絶望に堕ちるがいい」

高らかな哄笑が響き、それが止んだ瞬間鈍い破裂音を響かせてパワハルの頭が吹き飛ぶのを彼らはなす術なく眺めるしかない。

「…裏切り者…?どういう事だ」

誰か個人へ向けた、というよりはアークオランという全てに対して言った言葉に聞こえるそれに、アークオランの名を持つ王族二人は顔を見合わせる。

「…過去全ての時代が平和だったわけではない。その中のどこかで恨みを買ったのかも知れません」

「…パワハルならば何かしら知っていたのだろうが…」

またも口封じをされてしまった。
しかしいつまでもここで思い悩んでいても仕方がない。神子のつがい達は魔力切れを起こした彼を早く休ませてやりたいようだし、他の面々もボロボロだ。
市民を安心させる為にも勝鬨を上げるしかない。

みな心に暗雲を残したまま、ひとまずの戦闘は終わったとどこか虚しい勝鬨を響かせたのだった。

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