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第三章 神子
生存者
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俺達が戻った時、朝陽の住んでいた小さな村はすでに火の手があがりどうにもならない状態になっていた。
森の奥に行って戻るまで、たったの3日しか経ってないのに。
「朝陽ーー!!」
騎士団の魔術師と一緒に水の魔法で火を消して回るけど、もうほとんどが黒焦げで目の前でガラガラと崩れ落ちてしまう建物が多くて。それでも生存者はいないのかと捜したけれどーーー火を消して煙の上がる村の中に生存者は一人もいなかった。
「…落ち着かれましたか?スナオ様」
「うん…ごめん。エテュセ…」
辛うじて焼け残った教会の椅子に座り込んだまま動けない俺の背中をエテュセがさすってくれる。
侍従ちゃんズの中で2年経った今でも着いてきてくれているのはエテュセだけ。他の二人は俺が頼み込んでもっと危険のない貴族の侍従になってもらった。スミリアもベルカも最後まで嫌だと泣いていたけど、モンスターが弱い地域を抜け段々と危険が多くなっていく中で戦闘要員じゃない彼らを連れて歩くのが怖かったからだ。
だけどエテュセだけがどうしても納得しなくて。どこかへ行かせるのなら死んでやる、とでも言いかねない剣幕に折れたのはディアの方。元々弓の腕前は騎士と遜色ないくらいだったし、あと足りない実戦経験を旅をしながら積ませて。2年経った今ではティエが側にいない時に俺の護衛を務める程になった。
「…朝陽…」
別れる前に何か言いたそうな顔してた。でも今言わないなら、朝陽が言いたくなるまで待とう、って思って聞かなかった。
だってまさかこんな事になるなんて思ってなかったから。
(…ここは平和な日本じゃないって、2年で学習したはずなのに)
それでもこの田舎の長閑な村に何か起きるなんて想像すら出来なかったのは、俺がまだ平和ボケしてるからなのだろうか。
だから講壇でカタリ、と音がした時には過剰に反応してしまったのだけど。
「…おかぁさん…?」
講壇の裏からちら、と覗いたのは小さな子供。腕に抱えたおくるみの中には。
「…アルベール君…?」
鮮やかなオレンジの髪に、焦げ茶に近い黒い瞳。指を咥えて何もない空中に向けてにこにこしてるその子は間違いなく朝陽の息子、アルベール君だ。
そのアルベール君を抱えている子供が一度講壇を振り返ると、そこからワラワラと子供達が出てくる。
「…君たちは…」
「アサヒ兄ちゃんがここに隠れとけって…」
講壇の裏を覗くと、そこの床には小さな扉があって、扉の先は広い小部屋になっていた。中は真っ暗だけどひんやり冷たくて、どこかからぴちゃん、と水の音が聞こえる。
中に入ったエテュセの頭がつくくらいの高さだけど、奥行きは広い。
「何かの貯蔵庫だったようですね」
自然の冷蔵庫みたいなそこは岩の隙間から新鮮な空気が入ってきてて、例え外が火に巻かれても何とか助かりそうな状態だった。
エテュセが覗いた水がめに溜まっていたのも普通に飲める状態の水みたいだし、簡易食料の備蓄まである。
「…朝陽がここにいろって?」
「うん。外に怖いのが来るから、隠れとけって」
「怖いの?何かわかる?」
アルベール君を抱く子供が一番年長のようで、他の子供達はその子の後ろで不安げに周りを見回している。
「わかんない。でも怖い声がしたから、みんなでじっとしてたの」
「何て言ってたか聞こえた?」
「何か声がしてたけど、わかんなかった」
お母さん達は?と訊かれて俺もエテュセも何も答えられずに黙る。
外の瓦礫の中から覗く黒い塊が何なのかを知っているから、答えられない。
「…とりあえず、外に騎士のお兄さん達がいるからそこに行こう」
エテュセが言って、小さな子供達を促したその時。
「まだこんなに生き残りがいたか」
ふわり、と音もなく俺と子供達の間に目深にフードを被った何者かが現れた。
途端にざわざわと全身が総毛立ち、吐き気が込み上げて瘴気だ、と気付いた。
2年前旅に出てすぐの頃、慣れない瘴気に何度も吐いた。最近では多少の物では動じなくなったのに、久々に込み上げてくる吐き気と頭痛。ふら、とよろけた足を何とか踏ん張って目の前の何者かを睨み付ける。
「…お前は…」
「答えてやる義理はない」
子供達は溢れる瘴気のせいか、見えないながら恐怖に恐れおののいて固まっている。エテュセが子供達を逃がそうとする目の前で無情にも扉が閉まった。
外からはディア達が俺達を呼んでる声がする。
俺は、目の前の相手を睨み付けた。
だって、知ってる。俺は2年前にコイツを見たことがある。
「…大神殿にいた、神官」
正面からだと目元はほとんど見えなかったけど、上から覗き込まれたから知ってるんだ。フードを目深に被っていた相手の顔を。
口元が歪む。彼は笑ったようだった。
「私はこの呪具を血で染めろ、と命を受けている」
ひゅ、と小さく風を切る短刀はすでに血に塗れている。
「…何が望みだ」
「お前の命」
刀身は真っ直ぐ俺を向いた。
「断れば罪もない子供達の血を吸わせるだけ」
子供を見る流れで視界に入ったエテュセが手に暗器を忍ばせたのが見える。
戦って、せめて子供達だけ逃がすことは可能だろうか。
けれど、相手はまた笑う。
「お前達が無駄な動きを一つするたび、子供を一人殺す」
手近な子供を掴んで、躊躇なく振り下ろす短刀は真っ直ぐーーーエテュセの肩に突き刺さった。
森の奥に行って戻るまで、たったの3日しか経ってないのに。
「朝陽ーー!!」
騎士団の魔術師と一緒に水の魔法で火を消して回るけど、もうほとんどが黒焦げで目の前でガラガラと崩れ落ちてしまう建物が多くて。それでも生存者はいないのかと捜したけれどーーー火を消して煙の上がる村の中に生存者は一人もいなかった。
「…落ち着かれましたか?スナオ様」
「うん…ごめん。エテュセ…」
辛うじて焼け残った教会の椅子に座り込んだまま動けない俺の背中をエテュセがさすってくれる。
侍従ちゃんズの中で2年経った今でも着いてきてくれているのはエテュセだけ。他の二人は俺が頼み込んでもっと危険のない貴族の侍従になってもらった。スミリアもベルカも最後まで嫌だと泣いていたけど、モンスターが弱い地域を抜け段々と危険が多くなっていく中で戦闘要員じゃない彼らを連れて歩くのが怖かったからだ。
だけどエテュセだけがどうしても納得しなくて。どこかへ行かせるのなら死んでやる、とでも言いかねない剣幕に折れたのはディアの方。元々弓の腕前は騎士と遜色ないくらいだったし、あと足りない実戦経験を旅をしながら積ませて。2年経った今ではティエが側にいない時に俺の護衛を務める程になった。
「…朝陽…」
別れる前に何か言いたそうな顔してた。でも今言わないなら、朝陽が言いたくなるまで待とう、って思って聞かなかった。
だってまさかこんな事になるなんて思ってなかったから。
(…ここは平和な日本じゃないって、2年で学習したはずなのに)
それでもこの田舎の長閑な村に何か起きるなんて想像すら出来なかったのは、俺がまだ平和ボケしてるからなのだろうか。
だから講壇でカタリ、と音がした時には過剰に反応してしまったのだけど。
「…おかぁさん…?」
講壇の裏からちら、と覗いたのは小さな子供。腕に抱えたおくるみの中には。
「…アルベール君…?」
鮮やかなオレンジの髪に、焦げ茶に近い黒い瞳。指を咥えて何もない空中に向けてにこにこしてるその子は間違いなく朝陽の息子、アルベール君だ。
そのアルベール君を抱えている子供が一度講壇を振り返ると、そこからワラワラと子供達が出てくる。
「…君たちは…」
「アサヒ兄ちゃんがここに隠れとけって…」
講壇の裏を覗くと、そこの床には小さな扉があって、扉の先は広い小部屋になっていた。中は真っ暗だけどひんやり冷たくて、どこかからぴちゃん、と水の音が聞こえる。
中に入ったエテュセの頭がつくくらいの高さだけど、奥行きは広い。
「何かの貯蔵庫だったようですね」
自然の冷蔵庫みたいなそこは岩の隙間から新鮮な空気が入ってきてて、例え外が火に巻かれても何とか助かりそうな状態だった。
エテュセが覗いた水がめに溜まっていたのも普通に飲める状態の水みたいだし、簡易食料の備蓄まである。
「…朝陽がここにいろって?」
「うん。外に怖いのが来るから、隠れとけって」
「怖いの?何かわかる?」
アルベール君を抱く子供が一番年長のようで、他の子供達はその子の後ろで不安げに周りを見回している。
「わかんない。でも怖い声がしたから、みんなでじっとしてたの」
「何て言ってたか聞こえた?」
「何か声がしてたけど、わかんなかった」
お母さん達は?と訊かれて俺もエテュセも何も答えられずに黙る。
外の瓦礫の中から覗く黒い塊が何なのかを知っているから、答えられない。
「…とりあえず、外に騎士のお兄さん達がいるからそこに行こう」
エテュセが言って、小さな子供達を促したその時。
「まだこんなに生き残りがいたか」
ふわり、と音もなく俺と子供達の間に目深にフードを被った何者かが現れた。
途端にざわざわと全身が総毛立ち、吐き気が込み上げて瘴気だ、と気付いた。
2年前旅に出てすぐの頃、慣れない瘴気に何度も吐いた。最近では多少の物では動じなくなったのに、久々に込み上げてくる吐き気と頭痛。ふら、とよろけた足を何とか踏ん張って目の前の何者かを睨み付ける。
「…お前は…」
「答えてやる義理はない」
子供達は溢れる瘴気のせいか、見えないながら恐怖に恐れおののいて固まっている。エテュセが子供達を逃がそうとする目の前で無情にも扉が閉まった。
外からはディア達が俺達を呼んでる声がする。
俺は、目の前の相手を睨み付けた。
だって、知ってる。俺は2年前にコイツを見たことがある。
「…大神殿にいた、神官」
正面からだと目元はほとんど見えなかったけど、上から覗き込まれたから知ってるんだ。フードを目深に被っていた相手の顔を。
口元が歪む。彼は笑ったようだった。
「私はこの呪具を血で染めろ、と命を受けている」
ひゅ、と小さく風を切る短刀はすでに血に塗れている。
「…何が望みだ」
「お前の命」
刀身は真っ直ぐ俺を向いた。
「断れば罪もない子供達の血を吸わせるだけ」
子供を見る流れで視界に入ったエテュセが手に暗器を忍ばせたのが見える。
戦って、せめて子供達だけ逃がすことは可能だろうか。
けれど、相手はまた笑う。
「お前達が無駄な動きを一つするたび、子供を一人殺す」
手近な子供を掴んで、躊躇なく振り下ろす短刀は真っ直ぐーーーエテュセの肩に突き刺さった。
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