【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第三章 神子

異形の化け物

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「嘘、だろ…」

呟いたのが誰だったのか。
彼らは“それ”を見上げた。城壁を破壊しながら地面に降り立った異形の化け物。無数の目がギロリと辺りを見渡して城壁を軽々破壊する太い腕には魔法障壁を展開していた塔ほどの太さの血塗れの大剣が握られている。まるで鋼鉄のような固い体は試しに放った矢はおろか魔法すら通さない。そして唯一防御が薄いと思われる半透明の膜が張られた腹にはまるで胎児のように丸くなったすなおの姿が見えている。

「…あの野郎…ッ!!!スナオを取り込みやがった…!!!!」

パーピュアがいたら目の前の敵がヘカトンラルスだとわかっただろう。しかし今ここにこの危険種の名を知る者はいないし、興味もない。ただ彼がいれば弱点がわかったのに、と歯がゆく思うだけだ。伝令がそれを伝えに走るのが見えたのが先か戦場にざわめきが落ちたのが先か。

「ヘカトンラルスだ。本来なら魔力が低いがスナオを取り込んで弱点を相殺しているらしい」

「殿下!!!」

鎧に身をつつんだレイアゼシカは国宝である神剣を抜刀しながら静かに言った。

「殿下、ここは危険です。お下がりください!!」

臣下としての言葉を叫ぶディカイアスにレイアゼシカは言う。

「友を救ってくれ、と泣くのでな」

後死んでくれるな、とも言われている、と戦場に似つかわしくない笑みを浮かべる。
レイアゼシカは後方支援として朴の捜索から騎士団の手配、補給線の確保を最短でしていた。それは王族という立場上最前線に出る事が出来なかったからである。しかしつがい達と同じくらい心を痛め早く救いたいと願っていたのは彼も、その求婚を受け正式に妃となって現在妊娠中のパーピュアも同じだ。

「加護はついている」

万が一があっても一度は耐えられる。
そう言われディカイアスは素直に退いた。言い争っている時間が惜しかったのもあるし、何より彼はレイアゼシカの実力を疑ってはいない。王族である以上に彼程強い騎士を未だに見たことがないからだ。

「ーーー無礼は承知で敬語は省く」

「構わん。どうせここは戦場だ。身分もクソもあるか」

ふ、と最後に笑みを交わして彼らはその場を後にした。

「ローゼン!後方に下がって魔砲の用意を!」

「しかし…!スナオ様に当たります!!」

「その前に奴から引きはがす!」

朴を取り込んでいる限り魔術と同じ効果を持つ魔砲ではヘカトンラルスは倒せない。とにかくあの腹の中から朴を取り返さなければ。

「私達がスナオを引き剝がしたら迷わず撃て!」

魔砲はその威力が凄まじく並みの騎士では放った反動で吹き飛ばされてしまう。あの化け物を倒せるだけの威力の砲撃に耐えられるのはローゼンしかいない。

「パルティエータ!私達について来い!ハーロット!ローゼンを守れ!」

他の指揮官たちにも指示を飛ばしながら今まさにヘカトンラルスに吹き飛ばされたグリニッジを受け止めた。もうすでに傷だらけである。

「グリニッジ!死ぬのは許さん!」

「あんなの相手に死ぬなって?無茶言うぜ…」

「久々の再会が戦場とは、お前はつくづく運がないな」

「王弟がノコノコ戦場に来るなよなぁ…」

レイアゼシカもあまり魔力は高くない。それでも治癒魔法の心得は多少ある。大きな傷だけ塞ぐと彼らは再び敵に向き直った。

見上げた腹の中で朴は丸まったまま眠っているようだ。水にたゆたっているようにゆらゆらと揺れている。醜悪な化け物のその部分だけが何故か山奥の澄んだ湖のような様相をしていた。

『邪魔をするなァァァァァァァーーー!!!』

ブォン、と凄まじい音を立てて振り回す大剣が城壁を破壊し続けている。城門近くにいた兵達が逃げ惑い、勝利を信じていた民が恐ろしい異形にこの世の終わりだと騒いでいる。

「…グリニッジ、お前は民を安全な場所へ誘導しろ!」

レイアゼシカに言われたグリニッジが駆け出すが、その背に向けて大剣が振り下ろされた。しかし放たれた魔法にその軌道がそれて地面を抉って終わる。
誰が、と走りながらちらりと見ればそこにいたのは自身も疲れ切っている筈のエテュセである。

「お前は私が殺す!こんなつまらない所で死ぬな!」

「何だ、心配で来ちゃったのか?ツンデレだな」

「寝言は寝て言え!私はスナオ様を救いに来たんだ!」

知ってるよ、と笑ってその頭を撫でるとすぐさま叩き落されるのが楽しい。例えこの先憎まれようと番として契った以上はグリニッジにとって彼もまた守るべき存在だ。

「お前治癒は使えるか」

「スナオ様程じゃないが」

「民を避難させる。お前は怪我人を頼む」

嫌だ、と言いたかった。朴をあそこまで追い詰め心を壊した国の人間など治癒したくないと。勝手に野垂れ死ね、そもそも魔術師が多い国なんだから自分達でなんとかしろ、そう怒鳴ってやりたかった。
でもきっと朴はこんな時、怒って、憎いと思いながらそれでもきっと。

(黙ってみんなを癒すんだ。見返りなんか求めずに)

反神子派に襲われた時にも死にそうな怪我人は何も言わずに治癒してたくらいなのだ。だったらきっと今回も悪いのはマグアイーズで、ただこの国に住んでいるだけの人には何も関係がないから、と言って黙って癒すのだろう。悔しさも悲しさも飲み込んで。

「…お前達の為じゃない。スナオ様の為だからな!」

そう叫んで瓦礫の下から救出されたばかりの子供に駆け寄った。

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