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第三章 神子
あの世で会おう
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放たれた魔砲は真っすぐヘカトンラルスの腹を貫くーーーはずだった。しかし、その魔砲は展開された結界に弾かれ手前で爆発する。
「何だ…!?」
ヘカトンラルスにあの魔砲を弾くだけの魔力はない。あれを防げるのはこの場ではSランクのアンリエッタだけだろう。しかしそのアンリエッタも突然の事に呆然としている。
一体誰が、と舞い上がる土煙の中目をこらせばそこには燕尾服の人物が一人。
「ダリアセン…」
「あなた方にマグアイーズ様は渡さない」
「ダリアセン!そこを退いてくれ!もう終わりにしよう」
「黙れ、裏切り者!」
丸眼鏡を投げ捨てて深紅の瞳を憎悪に燃やし、グリニッジを見つめる。
「お前は知っていた筈だ。マグアイーズ様の苦しみを!」
「ああ、知ってたさ。嫌って程側で見てたからな」
彼の家族が殺された時グリニッジはすでに王都で騎士として働いていた。マグアイーズが王の放った刺客に殺されたと聞いた時には冗談だと思った。しかし詳しく聞けば聞くほどそれは現実味を帯びて、嫌な予感と共に故郷へ戻ったのだ。
マグアイーズが住んでいた小さな屋敷は跡形もなく燃え落ち何一つ残っていなくて、しかしその屋敷の前にぽつん、と立っていたのが捜していた昔馴染みだと気付いて駆け寄った。
生きていたのか、と抱き締めた体は怒りに震えてその瞳には憎悪しかなくて。それでも彼が生きていた事に安堵したグリニッジが彼を生かしたのだ。傷の手当てをし、療養させ、そして家族の分まで生きて欲しいと願って。
けれどすでに彼の心は壊れていた。傷を癒し、鋭気を養い、次に彼が行ったのは虐殺だった。
何故、と訊くと彼は笑って答えた。
ーーー俺から全てを奪ったこの国に復讐するんだ
あの時狂気に飲まれた彼を刺し違ってでも殺せていたなら今回こんな事は起きなかった。けれど憎悪に燃え、血塗れになった姿で笑いながら泣いている姿にまだ間違いを正せるのではないかと思ってしまった。
「本当はこんな事ができる奴じゃなかった」
虫すら殺すのを躊躇う優しい人物だった。家族想いで、王子だと言うのに貧しくて。それでも悲観せずに穏やかに笑って生きていた。爵位の低い自分にも分け隔てなく接してくれて傲慢な王族を知っていたからマグアイーズが王になればいいのに、と幼心に思った。でも望んだのはこんな狂気に満ちた姿じゃなかった。
ヘカトンラルスはその話を聞いているのかいないのか、また雄たけびを上げると庇ったダリアセンを避け再び魔砲を撃とうとしているローゼンを狙う。
「行かせるな!」
ディカイアスの叫びに魔術師達が一斉に足を狙い魔法を連射するがことごとくダリアセンに阻まれてしまう。
「ダリアセン!邪魔しないでくれ!!」
「なら私を殺せばいい!!」
まずはダリアセンを何とかしなくては、とヘカトンラルスはディカイアスに任せ足を止める。
「…もう終わらせてやろう」
「終わりじゃない」
「もう十分だ。これ以上何を望むんだよ。このまま狂った化け物としてあいつを生かすのか?」
「黙れ裏切り者。お前もあいつらと同じだ。あの方から全てを奪って傷つける」
ダリアセンはその手の平に膨大な魔力を溜めてグリニッジを見やる。過去ダリアセンが兄と慕った相手はただ悲しそうな顔をした。
「…あいつの憎しみを止めてやれなかった。それは俺とお前の罪だ」
「だからどうした」
何度も止めたけれど、その命を懸けてでも止めた事があっただろうか。彼が取り返しのつかない所まで狂ってしまった責任は自分達にもあるのだ。
「だから止めてやるんだよ。あいつの幼馴染として」
お前も本当はわかってるんだろう、と言えばダリアセンは一瞬その瞳を揺らした。しかしその手の平に集められた魔力は消えない。
「私があの方を見捨てたら、あの方は本当に一人になってしまう。一人で逝かせはしない」
止めたければ殺せ、と放たれた魔力の塊を寸での所で避ける。グリニッジを超えたそれはアンリエッタの結界に阻まれ霧散した。
「どうしても敵対するんだな?」
「先に裏切ったのはお前だ」
「わかった」
どうあっても死ぬ気なのだ、と悟ってグリニッジはそれ以上何も言わず剣を握る。どちらにしても神子を誘拐しその身が蹂躙される様を黙って見ていた自分達に救いなどある訳ないのだから。
過去笑いあった記憶に蓋をして放たれる魔法を避けその懐に飛び込む。Sランクのダリアセンの物理防御は弱い。懐まで入られて避ける術はもうない。ここで見逃してやるのは恐らく優しさではないだろう。新たな修羅を生むだけだ。
「あの世で会おう」
ドッ、と鈍い音と手の平に伝わる肉と骨を断つ音。戦場で何度も感じたそれがこんなに重かった事があっただろうか。
ごぼ、と口から血を吐いたダリアセンの体から刃を引き抜けばおびただしい血が辺りを染め上げた。
「グリニッジ…」
「何だ」
「帰りたい、な…あの頃に…」
優しいマグアイーズと、その番だった優しい二番目の兄と。穏やかな時間が流れていたあの頃に帰りたい。
「…来世ってものがあると良いよな…。お前は今度こそ愛した相手と結ばれて幸せに暮らすんだ」
再びごぼり、と血を吐きながらダリアセンは笑ったようだった。
「あの人程愛せる相手がいるならな…」
「いるさ。お前の世界は狭すぎたんだ」
だから狂った相手に付き従ってここで命を散らす羽目になる。徐々に重たくなっていく体を抱え、遠くで未だ暴れているマグアイーズを見た。
「…俺だってあいつを狂わせた王族の奴らは許せない」
でも、この国は大切な故郷なのだ。これ以上蹂躙させるわけにはいかない。
完全に力が抜けた体をその場に横たえてグリニッジは立ち上がった。
「何だ…!?」
ヘカトンラルスにあの魔砲を弾くだけの魔力はない。あれを防げるのはこの場ではSランクのアンリエッタだけだろう。しかしそのアンリエッタも突然の事に呆然としている。
一体誰が、と舞い上がる土煙の中目をこらせばそこには燕尾服の人物が一人。
「ダリアセン…」
「あなた方にマグアイーズ様は渡さない」
「ダリアセン!そこを退いてくれ!もう終わりにしよう」
「黙れ、裏切り者!」
丸眼鏡を投げ捨てて深紅の瞳を憎悪に燃やし、グリニッジを見つめる。
「お前は知っていた筈だ。マグアイーズ様の苦しみを!」
「ああ、知ってたさ。嫌って程側で見てたからな」
彼の家族が殺された時グリニッジはすでに王都で騎士として働いていた。マグアイーズが王の放った刺客に殺されたと聞いた時には冗談だと思った。しかし詳しく聞けば聞くほどそれは現実味を帯びて、嫌な予感と共に故郷へ戻ったのだ。
マグアイーズが住んでいた小さな屋敷は跡形もなく燃え落ち何一つ残っていなくて、しかしその屋敷の前にぽつん、と立っていたのが捜していた昔馴染みだと気付いて駆け寄った。
生きていたのか、と抱き締めた体は怒りに震えてその瞳には憎悪しかなくて。それでも彼が生きていた事に安堵したグリニッジが彼を生かしたのだ。傷の手当てをし、療養させ、そして家族の分まで生きて欲しいと願って。
けれどすでに彼の心は壊れていた。傷を癒し、鋭気を養い、次に彼が行ったのは虐殺だった。
何故、と訊くと彼は笑って答えた。
ーーー俺から全てを奪ったこの国に復讐するんだ
あの時狂気に飲まれた彼を刺し違ってでも殺せていたなら今回こんな事は起きなかった。けれど憎悪に燃え、血塗れになった姿で笑いながら泣いている姿にまだ間違いを正せるのではないかと思ってしまった。
「本当はこんな事ができる奴じゃなかった」
虫すら殺すのを躊躇う優しい人物だった。家族想いで、王子だと言うのに貧しくて。それでも悲観せずに穏やかに笑って生きていた。爵位の低い自分にも分け隔てなく接してくれて傲慢な王族を知っていたからマグアイーズが王になればいいのに、と幼心に思った。でも望んだのはこんな狂気に満ちた姿じゃなかった。
ヘカトンラルスはその話を聞いているのかいないのか、また雄たけびを上げると庇ったダリアセンを避け再び魔砲を撃とうとしているローゼンを狙う。
「行かせるな!」
ディカイアスの叫びに魔術師達が一斉に足を狙い魔法を連射するがことごとくダリアセンに阻まれてしまう。
「ダリアセン!邪魔しないでくれ!!」
「なら私を殺せばいい!!」
まずはダリアセンを何とかしなくては、とヘカトンラルスはディカイアスに任せ足を止める。
「…もう終わらせてやろう」
「終わりじゃない」
「もう十分だ。これ以上何を望むんだよ。このまま狂った化け物としてあいつを生かすのか?」
「黙れ裏切り者。お前もあいつらと同じだ。あの方から全てを奪って傷つける」
ダリアセンはその手の平に膨大な魔力を溜めてグリニッジを見やる。過去ダリアセンが兄と慕った相手はただ悲しそうな顔をした。
「…あいつの憎しみを止めてやれなかった。それは俺とお前の罪だ」
「だからどうした」
何度も止めたけれど、その命を懸けてでも止めた事があっただろうか。彼が取り返しのつかない所まで狂ってしまった責任は自分達にもあるのだ。
「だから止めてやるんだよ。あいつの幼馴染として」
お前も本当はわかってるんだろう、と言えばダリアセンは一瞬その瞳を揺らした。しかしその手の平に集められた魔力は消えない。
「私があの方を見捨てたら、あの方は本当に一人になってしまう。一人で逝かせはしない」
止めたければ殺せ、と放たれた魔力の塊を寸での所で避ける。グリニッジを超えたそれはアンリエッタの結界に阻まれ霧散した。
「どうしても敵対するんだな?」
「先に裏切ったのはお前だ」
「わかった」
どうあっても死ぬ気なのだ、と悟ってグリニッジはそれ以上何も言わず剣を握る。どちらにしても神子を誘拐しその身が蹂躙される様を黙って見ていた自分達に救いなどある訳ないのだから。
過去笑いあった記憶に蓋をして放たれる魔法を避けその懐に飛び込む。Sランクのダリアセンの物理防御は弱い。懐まで入られて避ける術はもうない。ここで見逃してやるのは恐らく優しさではないだろう。新たな修羅を生むだけだ。
「あの世で会おう」
ドッ、と鈍い音と手の平に伝わる肉と骨を断つ音。戦場で何度も感じたそれがこんなに重かった事があっただろうか。
ごぼ、と口から血を吐いたダリアセンの体から刃を引き抜けばおびただしい血が辺りを染め上げた。
「グリニッジ…」
「何だ」
「帰りたい、な…あの頃に…」
優しいマグアイーズと、その番だった優しい二番目の兄と。穏やかな時間が流れていたあの頃に帰りたい。
「…来世ってものがあると良いよな…。お前は今度こそ愛した相手と結ばれて幸せに暮らすんだ」
再びごぼり、と血を吐きながらダリアセンは笑ったようだった。
「あの人程愛せる相手がいるならな…」
「いるさ。お前の世界は狭すぎたんだ」
だから狂った相手に付き従ってここで命を散らす羽目になる。徐々に重たくなっていく体を抱え、遠くで未だ暴れているマグアイーズを見た。
「…俺だってあいつを狂わせた王族の奴らは許せない」
でも、この国は大切な故郷なのだ。これ以上蹂躙させるわけにはいかない。
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