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第三章 神子
side ディカイアス・マクシノルト
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テューイリングから期限を決められて一週間。昨日ようやく目を覚ました朴の側を離れたくはなかったが、翌朝ディカイアスは離宮のレイアゼシカの元に昨夜朴から聞いた話を伝えに来ていた。
本人は久しぶりにしっかりと起きて動き、食事をし、アンリエッタに説明をするのに今日話す予定だった夢の話をした事ですっかりくたびれ果てて熱を出して寝込んでしまっている。それでもレイアゼシカに説明を、と起きようとするのをパルティエータに任せてディカイアスだけ出てきたのである。本日仕事のローゼンは休みたそうな顔をしていたが団長と副長どちらも不在にするわけにはいかない。
話し終えるとレイアゼシカはふぅん、と興味深そうな顔で自分の伴侶を見た。
「なるほど…?スナオの両親が…。どう思う、ピュア」
腕に赤子を抱いたまま話を聞いていたパーピュアは少し考えるような間を開けてから答える。
「…スナオの人格の一つだと思います。きっとスナオ自身限界だったんでしょう。自身を守るために記憶に蓋をするしかなかった。それがスナオの中で両親の形を取ったのだと思います」
戻って来た時彼の心はぼろぼろだった。番にすら気付けない程絶望していた。助かった事を知らないまま毎日誰かが部屋にいる、というのはあの時の朴にとって絶望以外の何物でもなかったのだろう。疲れ切った心が自身を守る為にあの夢を生み出したのではないか。
「…でもそれは医者としての意見です。僕個人としてはーーー本当にスナオの両親が彼を助けに来たのではないか、と」
ふあ、と欠伸を零す赤子をポンポンとあやしてやりながらパーピュアは微笑む。
「実際に両親だったにしろスナオの無意識の人格だったにしろ、スナオにとって両親とは一番辛い時助けてくれる絶対的な存在だったんでしょう。何かあった時頼ってもいい、と心のどこかで思っていた」
そして朴が作り出した幻覚だったのか本当に両親が会いに来ていたのかはわからないが、こうして実際に朴を救ってみせた。母になった今、パーピュアはそこまで子供に信頼されている朴の両親を尊敬している。
「きっとスナオは愛されて育ったのでしょうね」
「まぁ、確かに本人を見ていれば大切に育てられたんだろう、って思うしねぇ。名前の通り素直ないい子だ」
素直なばかりに何でも信じてしまったり、真っ直ぐ突き進んでしまう所が危なっかしいがそれもまた朴の魅力だ。
「…しかし、闇の紋が浮かぶ程の瘴気は未だスナオの中にある、と?」
「恐らくは。スナオの奥底に抑え込まれているだけで消えたわけではない筈です」
きっと朴がダティスハリアで受けたような恐怖や屈辱、痛みや苦しみ、それらを思い出すか同じような目に遭えば蓋が開いてしまう危険は高い。
「ただ神子は唯一体内に入った瘴気を自力で浄化出来る。スナオが奥底に抑え込んでいる内に浄化が進めばいいのですが」
「スナオを危険な目に遭わせたくはないが…アサヒを助けに行くと言っています」
王子妃になったパーピュアはここではディカイアスの部下ではない。敬語になるディカイアスに気まずそうな顔をしているパーピュアを見て苦笑いしたレイアゼシカが尋ねる。
「アサヒが幻覚である可能性はあるかい?」
「…確証はありませんが、本人である可能性の方が高いです。スナオの両親が消えた後に現れたと言うし、そもそもスナオがアサヒの過去を知るはずがない」
「違法な娼館の取り締まりは確かに過去命じた覚えがある。黒髪の娼夫が逃げた、と第四騎士団の報告を受けた事も記憶にあるしスナオ以外の黒髪は今の所アサヒしかいない」
「確かにあの時神子ではないか、と騒ぎになりましたね。当時のグレイブ・アンヘルの隊長から魔力が欠片もないから絶対違う、と言われたとか」
浄化の旅に出てすぐの頃、朴が急に消えて森の奥でグレイブ・アンヘルに保護されていた時ディカイアスは朝陽があの時に第四騎士団から逃げグレイブ・アンヘルに保護された青年であるとすぐ気付いた。楽しそうに笑っていたから今幸せなのだろうと思っていた。まさかあの笑顔の裏にとてつもなく大きな物を背負っていたとは。
「で、そのアサヒが雷が鳴る場所にいるって言ったんだっけ?」
「ーーー死都ナスティールは現在人間が近寄れる場所ではないのでは」
過去の神子が降臨した地、神都ナスティールはある日を境に全ての生き物が死に絶える死都となった。朽ち果てた街、草木も生えない丘。常に雷が鳴り、足を踏み入れれば雷に打たれる。もはや足を踏み入れる者もいなくなったそこはまさに死の都である。
「…何故そんな場所に」
「わかりませんが、あえて雷が鳴る、と言ったからにはそこ以外考えられません。何者かがアサヒをナスティールに連れ去ったのではないかと」
「わからないな。そんな危険な場所に連れ去って何がしたいんだろうねぇ?自分だって下手したら死ぬよ?」
だからこその“死都”だ。かつてはその危険を盾に盗賊や奴隷狩り達が縄張りにしようとしていたがことごとく失敗に終わっている。
「ーーーナスティールの事はほとんど知られていない。相手がアサヒを殺さずに連れ去った上特に何もしていないのなら誰かを誘き寄せる餌にしている可能性もあります」
ふにゃ…とむずかる赤子を再びあやしながらパーピュアは不安に駆られる。
「…スナオを誘き寄せるつもりじゃない事を祈りたいですが」
その不安を取り除けるだけの答えを彼らはまだ持っていない。
本人は久しぶりにしっかりと起きて動き、食事をし、アンリエッタに説明をするのに今日話す予定だった夢の話をした事ですっかりくたびれ果てて熱を出して寝込んでしまっている。それでもレイアゼシカに説明を、と起きようとするのをパルティエータに任せてディカイアスだけ出てきたのである。本日仕事のローゼンは休みたそうな顔をしていたが団長と副長どちらも不在にするわけにはいかない。
話し終えるとレイアゼシカはふぅん、と興味深そうな顔で自分の伴侶を見た。
「なるほど…?スナオの両親が…。どう思う、ピュア」
腕に赤子を抱いたまま話を聞いていたパーピュアは少し考えるような間を開けてから答える。
「…スナオの人格の一つだと思います。きっとスナオ自身限界だったんでしょう。自身を守るために記憶に蓋をするしかなかった。それがスナオの中で両親の形を取ったのだと思います」
戻って来た時彼の心はぼろぼろだった。番にすら気付けない程絶望していた。助かった事を知らないまま毎日誰かが部屋にいる、というのはあの時の朴にとって絶望以外の何物でもなかったのだろう。疲れ切った心が自身を守る為にあの夢を生み出したのではないか。
「…でもそれは医者としての意見です。僕個人としてはーーー本当にスナオの両親が彼を助けに来たのではないか、と」
ふあ、と欠伸を零す赤子をポンポンとあやしてやりながらパーピュアは微笑む。
「実際に両親だったにしろスナオの無意識の人格だったにしろ、スナオにとって両親とは一番辛い時助けてくれる絶対的な存在だったんでしょう。何かあった時頼ってもいい、と心のどこかで思っていた」
そして朴が作り出した幻覚だったのか本当に両親が会いに来ていたのかはわからないが、こうして実際に朴を救ってみせた。母になった今、パーピュアはそこまで子供に信頼されている朴の両親を尊敬している。
「きっとスナオは愛されて育ったのでしょうね」
「まぁ、確かに本人を見ていれば大切に育てられたんだろう、って思うしねぇ。名前の通り素直ないい子だ」
素直なばかりに何でも信じてしまったり、真っ直ぐ突き進んでしまう所が危なっかしいがそれもまた朴の魅力だ。
「…しかし、闇の紋が浮かぶ程の瘴気は未だスナオの中にある、と?」
「恐らくは。スナオの奥底に抑え込まれているだけで消えたわけではない筈です」
きっと朴がダティスハリアで受けたような恐怖や屈辱、痛みや苦しみ、それらを思い出すか同じような目に遭えば蓋が開いてしまう危険は高い。
「ただ神子は唯一体内に入った瘴気を自力で浄化出来る。スナオが奥底に抑え込んでいる内に浄化が進めばいいのですが」
「スナオを危険な目に遭わせたくはないが…アサヒを助けに行くと言っています」
王子妃になったパーピュアはここではディカイアスの部下ではない。敬語になるディカイアスに気まずそうな顔をしているパーピュアを見て苦笑いしたレイアゼシカが尋ねる。
「アサヒが幻覚である可能性はあるかい?」
「…確証はありませんが、本人である可能性の方が高いです。スナオの両親が消えた後に現れたと言うし、そもそもスナオがアサヒの過去を知るはずがない」
「違法な娼館の取り締まりは確かに過去命じた覚えがある。黒髪の娼夫が逃げた、と第四騎士団の報告を受けた事も記憶にあるしスナオ以外の黒髪は今の所アサヒしかいない」
「確かにあの時神子ではないか、と騒ぎになりましたね。当時のグレイブ・アンヘルの隊長から魔力が欠片もないから絶対違う、と言われたとか」
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「で、そのアサヒが雷が鳴る場所にいるって言ったんだっけ?」
「ーーー死都ナスティールは現在人間が近寄れる場所ではないのでは」
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「わかりませんが、あえて雷が鳴る、と言ったからにはそこ以外考えられません。何者かがアサヒをナスティールに連れ去ったのではないかと」
「わからないな。そんな危険な場所に連れ去って何がしたいんだろうねぇ?自分だって下手したら死ぬよ?」
だからこその“死都”だ。かつてはその危険を盾に盗賊や奴隷狩り達が縄張りにしようとしていたがことごとく失敗に終わっている。
「ーーーナスティールの事はほとんど知られていない。相手がアサヒを殺さずに連れ去った上特に何もしていないのなら誰かを誘き寄せる餌にしている可能性もあります」
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