【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第三章 神子

棺の中身

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 ◇

ゴリゴリと重たい音をさせて棺が動く。石で出来たそれは厳重に封印されていて、誰かが開けた形跡もない。しかし中を覗けば、その中にある筈の遺骸は影も形もなかった。

「…封印は間違いなくされていたんだな?」

新たな神官長ホワイテッドは静かに頷く。
彼はまだ若いが信心深く、テューイリングが推薦してその座に就いた。間違っても私利私欲の為に権力を使ったりしない信用に足る人物だ。
その彼が空の棺には確かに封印が施されこれまで一度も開いた形跡はない、と言っている。

「どういう事だ」

立ち会っているレイアゼシカも眉を顰めた。
もしこれが伝承通り“主神の棺”だというのならば遺骸の代わりになる装飾具等何かしら象徴になる物が入っている筈だ。しかし何もない。あったという痕跡も、何も。

他の棺は、と開ければそちらにはきちんと埋葬された遺骨があった。すでに朽ちてはいるが中の副葬品に至るまで綺麗に残っている。

「獣人だったようですね。尾の骨があります」

ヒト族とは違う位置にある骨は長い尻尾を持っていた獣人の証だ。
次の棺にもきちんと遺骨は残っていて、埋葬用なのか煌びやかに装飾されていた様子が窺える弓が入っていた。
そして最後の一つを開けた時、彼らは目を瞠った。

「…神剣…?」

それは王家が代々国宝として保管してきた初代神子のつがいが持っていた剣。白を基調とし、金の装飾がついた鞘に、白銀に輝く刀身。浄化は出来ない物の唯一瘴気を斬る事が出来る剣だ。

「レプリカのようですが…これがここに一緒に埋葬されているという事は…」

本物の神剣は王城の宝物庫で厳重に管理されている。そして王家の人間であろうと神剣のレプリカを作る事は固く禁じられている。ましてやそれを副葬品として棺に入れるなどあってはならない事だ。
そのレプリカを副葬品として入れた記録があるのは、一番最初の持ち主ただ一人である。

「つまりこの棺は初代の神子の番…?」

初代の神子とその番達は今の王墓がある場所に埋葬されていると言われてきた。そしてこの大神殿にある棺は神子達が二度と瘴気が生まれぬようにという願いを込めて神の力を閉じ込めた、と。それがいつしか神の棺として伝ったのではないか、と言うのが歴史学者達の見解だった。
しかし近年になって神子には3人の番がいた事がわかった。この神殿の棺は一つの棺を守るように3つが配置されている事から神子とその番達の墓を神殿にしたのではないか、と新たな説が出てきた。しかしその為に棺を開ける事は流石のパワハルも許さなかったようだ。

「___王家に残る文献では確かに王墓に神子とその番は埋葬された事になっている。神剣のレプリカも入っていると記録には残っていた」

「ならばこれは…?」

「記録が間違いか、誰かが移動させたか」

「何の為に?」

「___教えてあげようか」

瞬間、彼らは何の気配もなかった背後へ瞬時に武器を向ける。入口に立つ黒髪の青年は人好きのする笑顔でレイアゼシカ達を見た。背は高いけれど威圧感はなく、微かな風に揺れる黒髪は少し長めだ。切れ長な目は長い睫毛に縁どられ、しかし朴と同じ黒い瞳は深淵を思わせる程昏い。
カツカツと靴音を鳴らして近寄ってくる彼からレイアゼシカ達は少しずつ距離を取る。何の威圧感もないのに、殺気を出しているわけでもないのに。なのに背中を嫌な汗が流れていく。

「皆、きちんと埋葬した筈なんだけどね」

久しぶりだね、ライアン。そう言って神剣が入っていた棺から頭蓋骨を取り出して口づけて、また戻す。
ゼクシオ、君のお小言が聞きたいな。そう言って弓が入っていた棺の頭蓋骨に同じことをして。
ああ、クッシル。君の尻尾をまた触りたいなぁ。そう言って獣人の棺の頭蓋骨にも。

「___名前は憶えてるのに…もう君たちの顔も声も思い出せないんだよ」

悲しいな、と彼は笑った。


 ◇


「!!?」

また熱があるから寝ておけ、と怯えるくらい豪華なベッドに横にさせられて寝れない、って騒いだのは最初の数分だけ。あっという間に眠りに落ちていた俺は妙な感覚に飛び起きた。

「スナオ?」

「どうされました、スナオ様!?」

「…今何か…嫌な気配しなかった…?」

まだ体の節々が痛むのは熱が下がってないからだろう。でも寝てる場合じゃない気がする。

「…ディア…まだ戻ってない?」

「まだ帰ってきてはいないが…」

大神殿にはディアとレイアゼシカと、第一騎士団と第二騎士団から数名ずつ行ってるらしい。大神殿はどっちだったっけ。
ベッドから降りて窓に向かう。バルコニー付きの窓は雪と冷気が入り込まないように厳重に閉めてあるけど外を見る事は出来る。
確か大神殿は屋根が高いから離宮から屋根だけでも見えるだろうか。屋根が見えた所で何がわかるわけでもないけど。

「スナオ、一体どうしたんだ」

「…何だろう…。あの雷の夢見た時みたいな嫌な感じがする…。誰か様子見に行けないかな?」

俺が行きたいけど、今の俺が動いたところで大して役には立てないから。

「わかった」

直ぐ様パーピュアが人を呼んで指示を出してくれる。
その声の合間に、どこかで誰かが笑ったような気がした。

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