174 / 203
第三章 神子
棺の中身
しおりを挟む
◇
ゴリゴリと重たい音をさせて棺が動く。石で出来たそれは厳重に封印されていて、誰かが開けた形跡もない。しかし中を覗けば、その中にある筈の遺骸は影も形もなかった。
「…封印は間違いなくされていたんだな?」
新たな神官長ホワイテッドは静かに頷く。
彼はまだ若いが信心深く、テューイリングが推薦してその座に就いた。間違っても私利私欲の為に権力を使ったりしない信用に足る人物だ。
その彼が空の棺には確かに封印が施されこれまで一度も開いた形跡はない、と言っている。
「どういう事だ」
立ち会っているレイアゼシカも眉を顰めた。
もしこれが伝承通り“主神の棺”だというのならば遺骸の代わりになる装飾具等何かしら象徴になる物が入っている筈だ。しかし何もない。あったという痕跡も、何も。
他の棺は、と開ければそちらにはきちんと埋葬された遺骨があった。すでに朽ちてはいるが中の副葬品に至るまで綺麗に残っている。
「獣人だったようですね。尾の骨があります」
ヒト族とは違う位置にある骨は長い尻尾を持っていた獣人の証だ。
次の棺にもきちんと遺骨は残っていて、埋葬用なのか煌びやかに装飾されていた様子が窺える弓が入っていた。
そして最後の一つを開けた時、彼らは目を瞠った。
「…神剣…?」
それは王家が代々国宝として保管してきた初代神子の番が持っていた剣。白を基調とし、金の装飾がついた鞘に、白銀に輝く刀身。浄化は出来ない物の唯一瘴気を斬る事が出来る剣だ。
「レプリカのようですが…これがここに一緒に埋葬されているという事は…」
本物の神剣は王城の宝物庫で厳重に管理されている。そして王家の人間であろうと神剣のレプリカを作る事は固く禁じられている。ましてやそれを副葬品として棺に入れるなどあってはならない事だ。
そのレプリカを副葬品として入れた記録があるのは、一番最初の持ち主ただ一人である。
「つまりこの棺は初代の神子の番…?」
初代の神子とその番達は今の王墓がある場所に埋葬されていると言われてきた。そしてこの大神殿にある棺は神子達が二度と瘴気が生まれぬようにという願いを込めて神の力を閉じ込めた、と。それがいつしか神の棺として伝ったのではないか、と言うのが歴史学者達の見解だった。
しかし近年になって神子には3人の番がいた事がわかった。この神殿の棺は一つの棺を守るように3つが配置されている事から神子とその番達の墓を神殿にしたのではないか、と新たな説が出てきた。しかしその為に棺を開ける事は流石のパワハルも許さなかったようだ。
「___王家に残る文献では確かに王墓に神子とその番は埋葬された事になっている。神剣のレプリカも入っていると記録には残っていた」
「ならばこれは…?」
「記録が間違いか、誰かが移動させたか」
「何の為に?」
「___教えてあげようか」
瞬間、彼らは何の気配もなかった背後へ瞬時に武器を向ける。入口に立つ黒髪の青年は人好きのする笑顔でレイアゼシカ達を見た。背は高いけれど威圧感はなく、微かな風に揺れる黒髪は少し長めだ。切れ長な目は長い睫毛に縁どられ、しかし朴と同じ黒い瞳は深淵を思わせる程昏い。
カツカツと靴音を鳴らして近寄ってくる彼からレイアゼシカ達は少しずつ距離を取る。何の威圧感もないのに、殺気を出しているわけでもないのに。なのに背中を嫌な汗が流れていく。
「皆、きちんと埋葬した筈なんだけどね」
久しぶりだね、ライアン。そう言って神剣が入っていた棺から頭蓋骨を取り出して口づけて、また戻す。
ゼクシオ、君のお小言が聞きたいな。そう言って弓が入っていた棺の頭蓋骨に同じことをして。
ああ、クッシル。君の尻尾をまた触りたいなぁ。そう言って獣人の棺の頭蓋骨にも。
「___名前は憶えてるのに…もう君たちの顔も声も思い出せないんだよ」
悲しいな、と彼は笑った。
◇
「!!?」
また熱があるから寝ておけ、と怯えるくらい豪華なベッドに横にさせられて寝れない、って騒いだのは最初の数分だけ。あっという間に眠りに落ちていた俺は妙な感覚に飛び起きた。
「スナオ?」
「どうされました、スナオ様!?」
「…今何か…嫌な気配しなかった…?」
まだ体の節々が痛むのは熱が下がってないからだろう。でも寝てる場合じゃない気がする。
「…ディア…まだ戻ってない?」
「まだ帰ってきてはいないが…」
大神殿にはディアとレイアゼシカと、第一騎士団と第二騎士団から数名ずつ行ってるらしい。大神殿はどっちだったっけ。
ベッドから降りて窓に向かう。バルコニー付きの窓は雪と冷気が入り込まないように厳重に閉めてあるけど外を見る事は出来る。
確か大神殿は屋根が高いから離宮から屋根だけでも見えるだろうか。屋根が見えた所で何がわかるわけでもないけど。
「スナオ、一体どうしたんだ」
「…何だろう…。あの雷の夢見た時みたいな嫌な感じがする…。誰か様子見に行けないかな?」
俺が行きたいけど、今の俺が動いたところで大して役には立てないから。
「わかった」
直ぐ様パーピュアが人を呼んで指示を出してくれる。
その声の合間に、どこかで誰かが笑ったような気がした。
ゴリゴリと重たい音をさせて棺が動く。石で出来たそれは厳重に封印されていて、誰かが開けた形跡もない。しかし中を覗けば、その中にある筈の遺骸は影も形もなかった。
「…封印は間違いなくされていたんだな?」
新たな神官長ホワイテッドは静かに頷く。
彼はまだ若いが信心深く、テューイリングが推薦してその座に就いた。間違っても私利私欲の為に権力を使ったりしない信用に足る人物だ。
その彼が空の棺には確かに封印が施されこれまで一度も開いた形跡はない、と言っている。
「どういう事だ」
立ち会っているレイアゼシカも眉を顰めた。
もしこれが伝承通り“主神の棺”だというのならば遺骸の代わりになる装飾具等何かしら象徴になる物が入っている筈だ。しかし何もない。あったという痕跡も、何も。
他の棺は、と開ければそちらにはきちんと埋葬された遺骨があった。すでに朽ちてはいるが中の副葬品に至るまで綺麗に残っている。
「獣人だったようですね。尾の骨があります」
ヒト族とは違う位置にある骨は長い尻尾を持っていた獣人の証だ。
次の棺にもきちんと遺骨は残っていて、埋葬用なのか煌びやかに装飾されていた様子が窺える弓が入っていた。
そして最後の一つを開けた時、彼らは目を瞠った。
「…神剣…?」
それは王家が代々国宝として保管してきた初代神子の番が持っていた剣。白を基調とし、金の装飾がついた鞘に、白銀に輝く刀身。浄化は出来ない物の唯一瘴気を斬る事が出来る剣だ。
「レプリカのようですが…これがここに一緒に埋葬されているという事は…」
本物の神剣は王城の宝物庫で厳重に管理されている。そして王家の人間であろうと神剣のレプリカを作る事は固く禁じられている。ましてやそれを副葬品として棺に入れるなどあってはならない事だ。
そのレプリカを副葬品として入れた記録があるのは、一番最初の持ち主ただ一人である。
「つまりこの棺は初代の神子の番…?」
初代の神子とその番達は今の王墓がある場所に埋葬されていると言われてきた。そしてこの大神殿にある棺は神子達が二度と瘴気が生まれぬようにという願いを込めて神の力を閉じ込めた、と。それがいつしか神の棺として伝ったのではないか、と言うのが歴史学者達の見解だった。
しかし近年になって神子には3人の番がいた事がわかった。この神殿の棺は一つの棺を守るように3つが配置されている事から神子とその番達の墓を神殿にしたのではないか、と新たな説が出てきた。しかしその為に棺を開ける事は流石のパワハルも許さなかったようだ。
「___王家に残る文献では確かに王墓に神子とその番は埋葬された事になっている。神剣のレプリカも入っていると記録には残っていた」
「ならばこれは…?」
「記録が間違いか、誰かが移動させたか」
「何の為に?」
「___教えてあげようか」
瞬間、彼らは何の気配もなかった背後へ瞬時に武器を向ける。入口に立つ黒髪の青年は人好きのする笑顔でレイアゼシカ達を見た。背は高いけれど威圧感はなく、微かな風に揺れる黒髪は少し長めだ。切れ長な目は長い睫毛に縁どられ、しかし朴と同じ黒い瞳は深淵を思わせる程昏い。
カツカツと靴音を鳴らして近寄ってくる彼からレイアゼシカ達は少しずつ距離を取る。何の威圧感もないのに、殺気を出しているわけでもないのに。なのに背中を嫌な汗が流れていく。
「皆、きちんと埋葬した筈なんだけどね」
久しぶりだね、ライアン。そう言って神剣が入っていた棺から頭蓋骨を取り出して口づけて、また戻す。
ゼクシオ、君のお小言が聞きたいな。そう言って弓が入っていた棺の頭蓋骨に同じことをして。
ああ、クッシル。君の尻尾をまた触りたいなぁ。そう言って獣人の棺の頭蓋骨にも。
「___名前は憶えてるのに…もう君たちの顔も声も思い出せないんだよ」
悲しいな、と彼は笑った。
◇
「!!?」
また熱があるから寝ておけ、と怯えるくらい豪華なベッドに横にさせられて寝れない、って騒いだのは最初の数分だけ。あっという間に眠りに落ちていた俺は妙な感覚に飛び起きた。
「スナオ?」
「どうされました、スナオ様!?」
「…今何か…嫌な気配しなかった…?」
まだ体の節々が痛むのは熱が下がってないからだろう。でも寝てる場合じゃない気がする。
「…ディア…まだ戻ってない?」
「まだ帰ってきてはいないが…」
大神殿にはディアとレイアゼシカと、第一騎士団と第二騎士団から数名ずつ行ってるらしい。大神殿はどっちだったっけ。
ベッドから降りて窓に向かう。バルコニー付きの窓は雪と冷気が入り込まないように厳重に閉めてあるけど外を見る事は出来る。
確か大神殿は屋根が高いから離宮から屋根だけでも見えるだろうか。屋根が見えた所で何がわかるわけでもないけど。
「スナオ、一体どうしたんだ」
「…何だろう…。あの雷の夢見た時みたいな嫌な感じがする…。誰か様子見に行けないかな?」
俺が行きたいけど、今の俺が動いたところで大して役には立てないから。
「わかった」
直ぐ様パーピュアが人を呼んで指示を出してくれる。
その声の合間に、どこかで誰かが笑ったような気がした。
63
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる