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第三章 神子
神子 琴音
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応急手当のみだったディアを第二騎士団から出向てきてくれてる軍医がパーピュアと一緒にしっかり処置をしてくれて。転移で屋敷に戻って来たディアの顔色は相変わらずだけど、包帯から滲んでいた血は止まってる。
結局屋敷に戻ったからと言って休めるわけもなかったからずっとソファーで待ってたんだけど、今はディアの眠るベッドの横に座ってその手を握った。その俺の肩に上着をかけてくれたローゼンはレイアゼシカに促されてティエと一緒にソファーに座ってる。
「つまり、その相手は初代の神子だと?」
「妄言を吐いているんじゃなければそうだろうねぇ…」
一番最初の救いの神子、コトネ。
大神殿に現れたそいつは王家の文献にしか残っていない、コトネと一緒に世界を救った番達の名前を正しく呼んでいたそうだ。
「しかし初代の神子は2千年も前に亡くなっている筈では」
「___アークオランの罪、だと」
「どういう事です?」
首を傾げるローゼンに一瞬天井を仰いだレイアゼシカは珍しく疲れたように笑った。
「それに関しては一度陛下と話をしなければ。王族の問題だ」
「…その初代神子はどうして大神殿に?」
「…スナオが欲しい。そう言った」
「俺?」
どういう事?
◇
「そうそう、何で棺がここに移動したか、だったね」
黒髪の青年は笑う。瞳は空虚なまま、唇は弧を描く。
「___1800年前、この地に一貴族だったアークオランは新たな国を興した。ナスティールは瘴気に飲まれて死都になってしまったから」
「瘴気に飲まれて…?」
その問いに彼は答えずにこり、と笑う。そして聞き分けのない子供に言うように、物語には順番があるんだよ、と唇に人差し指をあて静かにね、とまた笑う。
神都ナスティールは久方ぶりの平和を満喫していた。人々は笑顔溢れ、子供達は野を駆け回った。
しかし人の為に戦い、世界の為に尽力した神子は恐怖の対象になっていた。それと同時になくてはならない存在となった。いつ瘴気が復活するかわからない。明日なのか、10年後なのか、今の神子が死んでからなのか。
「だからアークオランは禁術に手を出したんだ」
神子に死なれては困る。次代の神子を呼べる保証はどこにもなかった。コトネ…琴音を呼び出すまでにも決して少なくない命が儀式に使われたのだ。そして瘴気が蔓延した世界の恐怖も人々の心に沁みついていた。
「僕の番達を殺して、その魂を贄に僕を死ねない体にしたんだよ」
また神剣のレプリカが入っている棺を覗く。
「ライアンが最初だったな。神剣を使う彼が一番手強いから」
僕のお腹にはライアンの子供がいたんだよ、と琴音は笑う。
「誰もアークオランを疑ってなかった。だから殺されるなんて思ってなかった。差し出されたワインを何の疑いもなく飲んでね」
沢山血を吐いて、もがき苦しんで死んだ。
空虚な瞳がレイアゼシカを見る。王族特有の金の瞳。アークオランの色。琴音が大嫌いな日の光の色だ。今すぐ抉り出してやりたいけれど、その前にディカイアスが立ち塞がる。
「…その時にもまだ僕達はアークオランを疑ってなかった。だってずっと一緒に戦ってきた仲間だったから」
その時にはワインを注いだ従僕が処刑された。彼は最後まで無実を訴えていたけど、アークオランが許さなかった。
「ライアンの子が生まれて、その死を乗り越えようとしてたら今度はクッシルが死んだ」
その頃にはまだ小さかったナフィーリアの同胞にナスティールとの同盟を勧めに行く道中、崖から転落して。あれはただの不慮の事故として片付けられていたけど、ゼクシオが疑いを持ち始めてこっそり調べに行って、馬車に細工された痕跡を見つけた。強い衝撃が加わるとわざと車輪が外れるようになっていた。あの頃まだ道は綺麗じゃなく、崖の側には小石が沢山転がっていた。気を付けて通っていれば強い衝撃は加わらなかっただろうが、転落場所を調べた結果かなりの速度を出していた痕跡があったらしい。クッシルの遺体は見つかったけれど、水に浸かっていたからか琴音にはそれが本当にクッシルなのかわからなかったくらいだ。
でも見つけてしまった。クッシルである証を探していた琴音は、その首筋に小さな傷があるのを見た。そこだけがどす黒く変色しているのを。
「馬車が落ちた時にはすでに毒で死んでたんだよ」
獣人である彼は猛スピードの馬車から飛び降りる事は難なく出来た筈。そうしなかったのは既にこと切れていたからだ。
「最後のゼクシオは僕を庇って死んだ」
二人はアークオランに疑惑の目を向けた。しかし神子と瘴気の恐怖に支配されたその国に琴音達の味方はいなかった。味方だった筈の、命をかけて守った筈の彼らから裏切られもう琴音達に居場所はなかった。
「酷い話だよね?僕から番を取り上げて、僕の子供も取り上げて、そして僕から時間すら奪ったんだよ」
琴音の頼みを聞いて番の3人は手厚く葬られたけれど、琴音自身は地下に幽閉されたまま永遠とも思える時間を過ごしていた。いつ瘴気が復活するかわからない恐怖が人々の間から薄れ、やがて琴音自身に価値がなくなったと思われた時には既に200年が過ぎていた。
結局屋敷に戻ったからと言って休めるわけもなかったからずっとソファーで待ってたんだけど、今はディアの眠るベッドの横に座ってその手を握った。その俺の肩に上着をかけてくれたローゼンはレイアゼシカに促されてティエと一緒にソファーに座ってる。
「つまり、その相手は初代の神子だと?」
「妄言を吐いているんじゃなければそうだろうねぇ…」
一番最初の救いの神子、コトネ。
大神殿に現れたそいつは王家の文献にしか残っていない、コトネと一緒に世界を救った番達の名前を正しく呼んでいたそうだ。
「しかし初代の神子は2千年も前に亡くなっている筈では」
「___アークオランの罪、だと」
「どういう事です?」
首を傾げるローゼンに一瞬天井を仰いだレイアゼシカは珍しく疲れたように笑った。
「それに関しては一度陛下と話をしなければ。王族の問題だ」
「…その初代神子はどうして大神殿に?」
「…スナオが欲しい。そう言った」
「俺?」
どういう事?
◇
「そうそう、何で棺がここに移動したか、だったね」
黒髪の青年は笑う。瞳は空虚なまま、唇は弧を描く。
「___1800年前、この地に一貴族だったアークオランは新たな国を興した。ナスティールは瘴気に飲まれて死都になってしまったから」
「瘴気に飲まれて…?」
その問いに彼は答えずにこり、と笑う。そして聞き分けのない子供に言うように、物語には順番があるんだよ、と唇に人差し指をあて静かにね、とまた笑う。
神都ナスティールは久方ぶりの平和を満喫していた。人々は笑顔溢れ、子供達は野を駆け回った。
しかし人の為に戦い、世界の為に尽力した神子は恐怖の対象になっていた。それと同時になくてはならない存在となった。いつ瘴気が復活するかわからない。明日なのか、10年後なのか、今の神子が死んでからなのか。
「だからアークオランは禁術に手を出したんだ」
神子に死なれては困る。次代の神子を呼べる保証はどこにもなかった。コトネ…琴音を呼び出すまでにも決して少なくない命が儀式に使われたのだ。そして瘴気が蔓延した世界の恐怖も人々の心に沁みついていた。
「僕の番達を殺して、その魂を贄に僕を死ねない体にしたんだよ」
また神剣のレプリカが入っている棺を覗く。
「ライアンが最初だったな。神剣を使う彼が一番手強いから」
僕のお腹にはライアンの子供がいたんだよ、と琴音は笑う。
「誰もアークオランを疑ってなかった。だから殺されるなんて思ってなかった。差し出されたワインを何の疑いもなく飲んでね」
沢山血を吐いて、もがき苦しんで死んだ。
空虚な瞳がレイアゼシカを見る。王族特有の金の瞳。アークオランの色。琴音が大嫌いな日の光の色だ。今すぐ抉り出してやりたいけれど、その前にディカイアスが立ち塞がる。
「…その時にもまだ僕達はアークオランを疑ってなかった。だってずっと一緒に戦ってきた仲間だったから」
その時にはワインを注いだ従僕が処刑された。彼は最後まで無実を訴えていたけど、アークオランが許さなかった。
「ライアンの子が生まれて、その死を乗り越えようとしてたら今度はクッシルが死んだ」
その頃にはまだ小さかったナフィーリアの同胞にナスティールとの同盟を勧めに行く道中、崖から転落して。あれはただの不慮の事故として片付けられていたけど、ゼクシオが疑いを持ち始めてこっそり調べに行って、馬車に細工された痕跡を見つけた。強い衝撃が加わるとわざと車輪が外れるようになっていた。あの頃まだ道は綺麗じゃなく、崖の側には小石が沢山転がっていた。気を付けて通っていれば強い衝撃は加わらなかっただろうが、転落場所を調べた結果かなりの速度を出していた痕跡があったらしい。クッシルの遺体は見つかったけれど、水に浸かっていたからか琴音にはそれが本当にクッシルなのかわからなかったくらいだ。
でも見つけてしまった。クッシルである証を探していた琴音は、その首筋に小さな傷があるのを見た。そこだけがどす黒く変色しているのを。
「馬車が落ちた時にはすでに毒で死んでたんだよ」
獣人である彼は猛スピードの馬車から飛び降りる事は難なく出来た筈。そうしなかったのは既にこと切れていたからだ。
「最後のゼクシオは僕を庇って死んだ」
二人はアークオランに疑惑の目を向けた。しかし神子と瘴気の恐怖に支配されたその国に琴音達の味方はいなかった。味方だった筈の、命をかけて守った筈の彼らから裏切られもう琴音達に居場所はなかった。
「酷い話だよね?僕から番を取り上げて、僕の子供も取り上げて、そして僕から時間すら奪ったんだよ」
琴音の頼みを聞いて番の3人は手厚く葬られたけれど、琴音自身は地下に幽閉されたまま永遠とも思える時間を過ごしていた。いつ瘴気が復活するかわからない恐怖が人々の間から薄れ、やがて琴音自身に価値がなくなったと思われた時には既に200年が過ぎていた。
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