短編集

ナナメ

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北町のコインランドリー

7日間の奇跡

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 ある休日、部屋を片付けていたら高校の頃オカルト好きの友達に無理矢理押し付けられた“悪魔を喚ぶ儀式”のやり方が書かれた紙を見つけた。
 大学生にもなってそんな子供騙し……って思ったけれど何故か試してみようと思ったのだ。ーー疲労は人をダメにする元だと後で悟る。

 結局儀式のあと悪魔なんて出てくる筈もなく、馬鹿馬鹿しいと思った矢先チャイムが鳴ってドアを開けて固まった。
 そこには背中に翼をくっつけた銀髪ロン毛黒づくめのコスプレ?男。コ○ン君が探ってる黒づくめの仲間ですか?みたいな黒づくめ。
 あいつらに翼なんてない筈だけれど、もしかして俺が知らないだけでこんなキャラがいるんだろうか?

 そういや銀髪ロン毛なら有名な某RPGにもいたな。くそ長い刀持ってるラスボスが。でもあいつは片翼だ。良く飛んでるけどどうやってバランスとってるんだろう。
 そんな脳内現実逃避を繰り広げていたら、銀髪ロン毛翼くっつけた超絶美形が口を開いた。

「あの、こんにちは。お喚び頂いた?悪魔です」

 何故疑問系……っていうかシャベッタァァァァァ!!!!!

「間に合ってます」

「あ!待って!待ってください!!」

 びっくりしすぎて真顔のままドアを閉めようとすると、コスプレ男は押し売りセールスマンよろしく慌ててドアの隙間に体を押し込んでくる。こっちはもうすでに思いっきりドアを閉める体勢だったのに、だ。

「ちょ、危な!!」

「痛ぁ!!」

 ドアに黒づくめを挟んでしまった。

 悪魔を喚ぶ儀式、だなんて信じてなかった。ただの暇潰しだ。なのに悪魔は本当に来た。どんな奇跡だ。

 いや、俺だって嘘だと思ってたんだ。絶対こいつヤバい奴だ!って警察を呼ぼうとしたんだ。
 けれど怪しいものじゃありません悪魔ですって主張する爆裂怪しい男が、俺の手の中からスマホを消したりーー勿論これまたびっくりしすぎて思わず相手の頭ぶっ叩いて返せ!!って怒鳴ったら返してくれたけどーー、姿を変えてみせたりするから百万歩譲って半分は信じた。

 悪魔は本当に来たんだ。ーーそれも、玄関から。
 何故玄関から!って訊いたら、初めてのお宅にいきなり不法侵入なんて礼儀知らずな事出来ません、なんて言われた。 
 じゃあ何の為の魔法陣なんだ、これは!!?賃貸なんだぞ!?試した俺も俺だけど消えるのか!?
 しかも、だ。喚び出してしまったからには何かお願い事をしなければいけなくて、シンプルに金くれって言ったら説教された。

「そうやって楽にお金を手に入れてしまったら、お金に対する有り難みだとか働いている世の中の方々に対する有り難みだとかが薄れてしまうではないですか!いいですか、そもそも……」

 そのお説教は10分続いた。今日日の悪魔は説教が長いなんてみんな知っているだろうか?
 その後も頼むこと頼むことダメ出し+説教のダブルコンボで、じゃあもう帰って!!って本気でお願いしたのに願いを叶えないと帰れないとか言うし。
 俺にどうしろと!
 それが最初の一日目。





 自称悪魔との奇妙な同居生活一日目の夜の事。
 名前はあるけど、好きに呼んでいいと言われたから小太郎にした。小太郎があんまりにも喜ぶから、それが昔飼っていた犬の名前なのは内緒だ。
 犬の小太郎は俺が“太一”だったから最初は“太郎”ってつけようとしてたけど、あんまりにも小さいから“小太郎”になった。小さいのは最初だけだったけれど。大きいのに小太郎、なんて犬の小太郎を思い出す。
 勿論夜になるまでの間、こんな怪しいヤツを家にあげて大丈夫なんだろうか、と何度か追い出しにかかったんだけど“不法侵入は失礼”とか言いながら締め出しても締め出しても何故か室内にいる小太郎に先に根を上げたのは俺の方。だって苦労して追い出して鍵かけて振り返ったら後ろにいるんだぞ!?
 結局夕方になって諦めた。もう追い出す方法考えるのも面倒になったから。一瞬命の危険とか考えたのだが、これで死ぬのならそれは……

「ひゃぁぁ~~~~!」

 夕飯を作りながらちく、と胸を刺した痛みに過呼吸を起こしそうになった瞬間、風呂場から情けない悲鳴が聞こえて頭が無になる。ーーおかげで発作的な過呼吸は起きなかったのだけれど。

 ああ、嫌だ。この声絶対風呂場で何かやらかしたんだ。絶対そうだ間違いない。お風呂沸かすくらいできますよ!なんて自信満々だったくせに。
 嫌々向かって覗いた風呂場では小太郎が頭からシャワー浴びて滝修行の僧侶みたいになってて。しかも水だ。蛇口捻れば済む話なのに、悪魔は手をばたつかせて半パニック状態でアワアワしている。

「だからー!!何で!?こっちシャワー出るよって言ったじゃん!」

「あうー……」

 燕尾服着た優秀な悪魔も世の中にはいるのにこの悪魔は大変役に立たなかった。

「もー!服びしょ濡れだし!脱げ!!」

「え、そんな……。太一さん……」

「何の恥じらいだ!モジモジすんな!!」

 そして相当頭が悪かった。今までこの悪魔に願いを叶えてもらった人なんているんだろうか。まさかこれが初めてじゃないだろうな。それならとんだ貧乏クジだぞ……。

「ホラ!」

 もう誰も使う人のいない部屋に残った服を引っ付かんで戻って、服とタオルを渡す。小太郎に任せた風呂掃除を終わらせて湯を張って振り返ったらアホ悪魔はまだモタモタしてるし。

「あー、もー!髪!!しっかり拭け!」

 あんまりにももたつくから、仕方なくもう一枚タオルを取ってその無駄にサラサラな長い銀髪を乱暴に拭く。

「あわわ」

 ガックンガックン揺さぶられて、小太郎が情けない悲鳴を上げた。
 ドライヤーを当ててやりながら思う。本当にサラッサラだ。この質感、指通りの良さ、艶、どれをとっても最高級。切ってしまうのは勿体ないけど切ってみたい。小太郎に似合いそうな髪型を何個か頭に浮かべてみるけど、顔が整ってる所為か何でも似合ってしまうから一つに絞れない。
 そんなことを考えつつ邪魔になるだろうから適当に結い上げて、よし!と手を離す。

「わぁ!太一さん、器用ですね」

「美容師志望だからな。こんくらい何でもねぇよ」

 鏡で前やら横やら確認した小太郎が感嘆の声をあげる。こんな得体の知れない自称悪魔でも誉められて悪い気はしない。

「先に飯食おう。もう腹へった……」

 悪魔が飯食うかわかんなかったけど、小太郎が嬉しそうに頷いたから食べられないことはないんだろう。
 良かった、食材を無駄にしなくて済んだ。




「……で、何でお前は隣に寝てんだ!!」

「痛ぁ!」

 翌朝起きたら小太郎が俺の布団に潜り込んでたから思わず拳骨。だって隣の部屋にちゃんと布団敷いて、寝る時はそっちにいたのに。

「暴力反対ですぅ……」

「うっさいわ!なら怒られる事すんなばか!」

「あうー……。だって一人は怖くて……」

 おい、悪魔!

「それに、いい匂い……」

 くん、と犬みたいに鼻を鳴らして首に顔を埋めた悪魔のその端正な横っ面をひっぱたいたのは仕方ない。俺は悪くない。絶対悪くない。


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