呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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20.涙

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「アンネリーゼ嬢?」

泣きそうなアンネリーゼに気がついたのか、ジークヴァルトが声をかけると、アンネリーゼは眉根を寄せた。

「…………っ」

何か答えなければと思うのに、口を開けば涙が溢れそうで顔を上げることすら出来なかった。

「………何か、気に障るようなことでもしてしまったでしょうか」

丁寧な言葉遣いが、余計に心の距離を感じさせる気がしてきた。
それでも、彼を困らせたくなくて、ゆっくりと首を横に振るとアンネリーゼは浅い呼吸を繰り返す。

「………記憶も戻らないのに、家族に逢うのが少し怖くなったのです」

思いついた中で一番もっともらしい嘘を口にすると、ジークヴァルトは「あぁ」と小さく呻いた。

「その点はモルゲンシュテルン侯爵も重々承知されていますから、心配いりませんよ」

不安そうに魔力の揺れるアンネリーゼを何とか安心させようとジークヴァルトが優しく声をかけるが、アンネリーゼは俯いたままだった。

「すぐに迎えがくるとは言っても、王都から我が領地まではどんなに急いでも三日は掛かりますから、それまでに心の準備をしておくといいでしょう」

そう告げたジークヴァルトは立ち上がるとアンネリーゼの前に来て、顔を覗き込んだ。
金色の、曇のない輝きがアンネリーゼを映し出す。
アンネリーゼは小さく息を呑んだあと、少し目を細めた。

冷たくするのなら、いっそのこと二度と顔を見たくなくなるように酷い言葉をぶつけてくれればいいのに、どうして気遣うような態度を見せるのだろう。優しくされたら、嫌いになどなれないではないか。
それが余計に苦しくて、アンネリーゼがぎゅっと目を瞑ると、その拍子に涙が零れた。

「………アンネリーゼ、嬢?」

ジークヴァルトが戸惑ったように声を上げる。
一番泣いている顔を見られたくない人に、見られてしまった。
その動揺で、次々に涙が溢れはじめる。

「ご………ごめんなさ………っ」

咄嗟に謝罪の言葉を口にするが、何に対して謝っているのか、自分でも分からなかった。

「………もしかして、俺のせいですか?」

突然泣き出したアンネリーゼに対して、困ったような声でジークヴァルトは呟くと、手を彷徨わせてから、恐る恐るアンネリーゼの肩を抱いた。

「……………っ」

アンネリーゼはふるふると首を振る。
自分でも気持ちの整理がつかなくて、苦しい気持ちも、どうして泣いているのも分からなかった。

窓の外では垂れ込めた雲までもが、涙を流すかのように、冷たい雨を降らせ始めたのだった。
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