呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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32.余計な報告(SIDE:ジークヴァルト)

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討伐に向かっては戻るという『日常』に不満などない。
自ら戦うことを生業とする道を選び、これから先もずっとそうして生きていく。
この国に暮らす人々の安寧を、この手で守るために………。

………それが、ジークヴァルト・クラルヴァインの生きる意味であり、存在意義レゾンデートル

その事実が揺らぐことは無かったはずなのに。

「……………っ」

ずくん、とひび割れた心が悲鳴を上げる。
感じたことのない胸の傷みに、思わずジークヴァルトは顔を顰めた。

「………主」

まるでタイミングを見計らったかのように、ダミアンが開け放たれた窓から入ってきた。

「何だ?また新しい討伐命令か。………今度は何だ?」

ジークヴァルトは溜息をつくと、長い前髪を掻き上げ、立ち上がる。

「………いえ。そうではありません」

ばさり、と翼を折り畳むとダミアンはジークヴァルトの様子を伺うように首を真っ直ぐに伸ばした。

「じゃあ、領地で何か問題でも起きたか?」
「………いえ。余計な事とは思いましたが………モルゲンシュテルン侯爵令嬢の様子を見てまいりました」

ダミアンがそう告げた途端に、部屋の中を強い風が吹き抜けた。
鋭い殺気を帯びたその風は、ジークヴァルトの心に反応したものだ。
そうなることを予測していたかのように、ダミアンは自分の周囲に結界を張り身を守った。

「………全く………、こんなにも感情をコントロール出来なくなるとは………」

嘆かわしい、と鳴き声を上げてダミアンは乱れた羽を嘴で整える。

「お前が余計な事をするからだ」

金色の瞳に怒りが滲むのを、ダミアンははっきりと見て取った。

「………主。私があなたの気持ちに、気がついていないとでも?どれだけの時間をあなたと共に過ごしてきたと思っているのですか?」

ダミアンがヒト型の姿を取っていたとしたら、間違いなく呆れ顔を浮かべていただろう。
そんな様子で、ダミアンはジークヴァルトに視線を送った。

「………彼女は、もう関係のない人間だ」

ジークヴァルトが、小さく、まるで腹の底から絞り出すような声でそう呟いた。

「心底そう思っているのならば何故、私の羽を、モルゲンシュテルン侯爵に手渡したのですか?」
「………だから、関係のないことだ!」

どうしようもないほど苛立ちが募って、思わずダミアンを手で追い払う。

「………変わりはないようでしたが、どうやら主と過ごした事は綺麗に忘れてしまっているようです」
「……………だから何だと言いたい?」

ダミアンは何食わぬ顔でそれだけ告げるとバサリと翼を広げて窓枠の方へと飛び移った。
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