呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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38.守るために(SIDE:ジークヴァルト)

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牙を剥き出しにした巨大な魔狼まろうを、捕縛魔法で雁字搦めにして、手際よくとどめを刺し終わったところで、背後に羽音を聞いたジークヴァルトは素手で血濡れた剣先を拭いながら、気配に向かって声をかけた。

「首尾はどうだった?」
「ええ。ご指示通りに。……忘れないうちに伝えておきますが、国王からの伝言です。『私を顎で使うような不届き者は、そなたくらいのものだ』と………」

ジークヴァルトは無表情のまま、べっとりと血にまみれた騎士服を見つめてから浄化魔法で鉄臭さを落としながら、ダミアンの報告を聞いていた。

「………国王はいつも人使いが荒いんだから、このくらい大したことじゃないだろうに文句を言うのか」

独り言のようにそう呟くと、今度は短剣を取り出して、仕留めた魔狼の皮を丁寧に剥ぎ取ると、肉を一欠片切り分けてダミアンに与える。
ダミアンは喜々として肉を嘴で器用につまみ上げ、飲み込んだ。

「確かに、ここのところ討伐のペースが、上がってますね。結界に、綻びでも………?」
「そんなことはどうでもいい。俺が訊きたいのは、きちんと『ヴァルツァー国王は記憶喪失になってしまった巫女姫・モルゲンシュテルン侯爵令嬢を気遣っている』ということを、ヴァルツァーの貴族達に知らしめることができたかどうかだ」
「それは、心配ないでしょう。王は、上手く立ち回ったと思いますよ?」
「ならば、いい」

彼女を切り離すと決めたのは自分の筈なのに、彼女を想う気持ちは日に日に大きくなり、ジークヴァルトは胸が痛むのを感じていた。
それを隠すように、ジークヴァルトは手にした短刀の柄を、ギュッと握りしめた。

「ですが、まだ安心は出来ません。不穏な動きとはまた別の動きですが、亡き婚約者の実家クレーデル伯爵家の長男が、アンネリーゼ嬢を詰る様子を目撃しました」
「………何だと?!」

ジークヴァルトの表情が、一瞬で鋭いものに変わった。
アンネリーゼに出会ってから、凍りついたようだったジークヴァルトの表情もかなり細かく動くようにっていた。
まるで、無機質な石像に命が吹き込まれたようだとダミアンは感じていた。

「弟が死んだのに、それすらも忘れている事を非難され、アンネリーゼ嬢は何も言い返しませんでしたが、自邸に戻ると流石に塞ぎこんでいる様子でしたね………」

ジークヴァルトの感情の起伏に合わせて、風が荒れ狂ったかのように吹いてきた。

「アンネリーゼ…………」

ジークヴァルトは、アンネリーゼの深い蒼色の瞳を思い浮かべると、愛おしそうにアンネリーゼの名を呟いた。
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