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61.燻る気持ち
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沈黙が、空間を制した。
一瞬にして部屋の中を漂う空気が重さを増した事にアンネリーゼは気が付き、またしても迂闊に尋ねた事を、盛大に後悔した。
ジークが纏う雰囲気が、その重さを醸し出しているようで、アンネリーゼは萎縮した。
重くて長い静寂をようやく打ち破ったのは、ジークの方だった。
「………どうして、そのような事を?」
またしても質問に質問を返してくるジークの意図を探ろうと、彼の美しい茶色い瞳を真っ直ぐに見つめた。
無表情なのは変わらないが、僅かに瞳からは感情の動きが見えた気がした。
しかしそれは戸惑いよりも、苛立ちのようなものが強いように感じる。
もしかしたら、予定があるのに引き止めた事に対して腹を立てているのだろうか。
だとしたら悪いことをしたと、申し訳無い気持ちになる。
「深い意図はありませんが………何故かジーク様の事を知っているような気がして………すみません………」
アンネリーゼはぎゅっと唇を強く噛み締めた。
「………たった今、無闇に謝るものではないとご忠告申し上げたのに………仕方のない方ですね」
俯いたアンネリーゼに、ぽつりと声を掛けたジークは、先程までの無表情と違って、苦しそうに眉を顰めていた。
「きっと、私に似た誰かと勘違いしているのでしょう。………では、失礼します」
素っ気なくそれだけ告げると、ジークは扉を開けて部屋を出た。
扉の閉まる音が、やけに大きく、重たく聞こえた気がした。
アンネリーゼは呆然としながら、じっとその扉を見つめ続ける。
ジークという人間が、分からなかった。
優しいようで冷たく、自分の領域に踏み込まれるのを酷く嫌う様な、まるで気高い神獣のような人だとアンネリーゼは思った。
そして、その雰囲気がアンネリーゼの胸の内で燻る想いを抱かせる誰かに似ているような気がしてならなかった。
「…………お嬢様…………」
ことの成り行きを見守っていたミアが、恐る恐る声を掛けてきた。
アンネリーゼの心の内を知らないミアから見たら、さぞかし奇妙なやり取りだっただろうと、アンネリーゼは思った。
「ごめんなさい、お茶をありがとう。わたくしはもう休みますから、あなたもそれを片付けたら休みなさい」
アンネリーゼは気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をしてからミアに指示を出す。
するとミアは言い出しにくそうに、少しもじもじとしながら口を開いた。
「あ、あの、お嬢様は………ジーク様に想いを寄せられていらっしゃるのですか?」
「え…………?」
アンネリーゼは目を見開く。
「申し訳ございません。お嬢様の、ジーク様を見つめる表情が、そのように見えてしまったので………!」
ミアに言われて、アンネリーゼの顔がみるみる朱く染まっていく。それを隠したくて、アンネリーゼは無意識に両手を頬に押し当てた。
「わたくし………、そんなつもりは…………」
すぐに否定するが、果たして違うと言い切れるのかと問いかけてくる自分がいて、アンネリーゼは困り果て、静かに俯いたのだった。
一瞬にして部屋の中を漂う空気が重さを増した事にアンネリーゼは気が付き、またしても迂闊に尋ねた事を、盛大に後悔した。
ジークが纏う雰囲気が、その重さを醸し出しているようで、アンネリーゼは萎縮した。
重くて長い静寂をようやく打ち破ったのは、ジークの方だった。
「………どうして、そのような事を?」
またしても質問に質問を返してくるジークの意図を探ろうと、彼の美しい茶色い瞳を真っ直ぐに見つめた。
無表情なのは変わらないが、僅かに瞳からは感情の動きが見えた気がした。
しかしそれは戸惑いよりも、苛立ちのようなものが強いように感じる。
もしかしたら、予定があるのに引き止めた事に対して腹を立てているのだろうか。
だとしたら悪いことをしたと、申し訳無い気持ちになる。
「深い意図はありませんが………何故かジーク様の事を知っているような気がして………すみません………」
アンネリーゼはぎゅっと唇を強く噛み締めた。
「………たった今、無闇に謝るものではないとご忠告申し上げたのに………仕方のない方ですね」
俯いたアンネリーゼに、ぽつりと声を掛けたジークは、先程までの無表情と違って、苦しそうに眉を顰めていた。
「きっと、私に似た誰かと勘違いしているのでしょう。………では、失礼します」
素っ気なくそれだけ告げると、ジークは扉を開けて部屋を出た。
扉の閉まる音が、やけに大きく、重たく聞こえた気がした。
アンネリーゼは呆然としながら、じっとその扉を見つめ続ける。
ジークという人間が、分からなかった。
優しいようで冷たく、自分の領域に踏み込まれるのを酷く嫌う様な、まるで気高い神獣のような人だとアンネリーゼは思った。
そして、その雰囲気がアンネリーゼの胸の内で燻る想いを抱かせる誰かに似ているような気がしてならなかった。
「…………お嬢様…………」
ことの成り行きを見守っていたミアが、恐る恐る声を掛けてきた。
アンネリーゼの心の内を知らないミアから見たら、さぞかし奇妙なやり取りだっただろうと、アンネリーゼは思った。
「ごめんなさい、お茶をありがとう。わたくしはもう休みますから、あなたもそれを片付けたら休みなさい」
アンネリーゼは気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をしてからミアに指示を出す。
するとミアは言い出しにくそうに、少しもじもじとしながら口を開いた。
「あ、あの、お嬢様は………ジーク様に想いを寄せられていらっしゃるのですか?」
「え…………?」
アンネリーゼは目を見開く。
「申し訳ございません。お嬢様の、ジーク様を見つめる表情が、そのように見えてしまったので………!」
ミアに言われて、アンネリーゼの顔がみるみる朱く染まっていく。それを隠したくて、アンネリーゼは無意識に両手を頬に押し当てた。
「わたくし………、そんなつもりは…………」
すぐに否定するが、果たして違うと言い切れるのかと問いかけてくる自分がいて、アンネリーゼは困り果て、静かに俯いたのだった。
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