呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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63.心の中の混沌(SIDE:ジークヴァルト)

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その後すぐに国王の元へと飛び立ったダミアンは、『ジーク・バルテル』という騎士の名前とこの事情を唯一知っている『神官の遠縁にあたる貴族』という仮の身分の授与という返事を持って帰還した。

「……………」

ジークヴァルトは窓から差し込む青白い月明かりをぼんやりと眺めた。
アンネリーゼに堂々と再会出来るという喜びと、彼女に会うことで、今度こそ抑えが効かなくなるのではないかという不安が入り混じり、混沌とした気持ちを抱えて溜息を漏らす。

何故こんなにもアンネリーゼに惹きつけられるのか、自分でも理由は分からない。
今まで何度もその理由を考えてきたが、模範解答には辿り着けなかった。
ただ、彼女の事を思い浮かべるだけで胸が揺さぶられるような情動が湧き上がってくる。
その相手が、今代の巫女姫で、その護衛騎士の座に着くことになるなどと、誰が想像しただろう。
本気で嫌がらせかと感じるような王命を下してきたゲルハルトに苛立ちを感じながら、ジークヴァルトは静かに金色の瞳を閉ざす。

「エルンスト、ニーナ」

闇に向かってジークヴァルトが呼び掛けると、物音一つ立てずに、エルンストとニーナが姿を見せた。

「暫く、留守にする」

主の突然の宣言に、エルンストもニーナも、驚いたようだった。

「期間は………二ヶ月程。王都から、クルツへ行ってくる。変更がある場合はまた連絡する」

行き先を聞いて、二人は全てを悟ったようだった。

「…………承知いたしました。しかし、旦那様が王都に出掛けられるなど………何十年ぶりのことですか?」
「…………なのだから仕方ないさ。正確には覚えていないが………七、八十年ぶりくらいじゃないか?」

どうでも良さそうにそう答えると、ジークヴァルトは二人に視線を合わせる。

「領内には、いつぞやのようにおかしな輩の侵入を防ぐために幻惑魔法を掛けてある。あとはお前ら二人で何とか出来るだろう?」
「では、ダミアンは連れて行かれるのですね?」
「ああ、そのつもりだ。………もしかしたらが関わっている可能性があるらしいからな」
「それは………!」
「何故今頃になって………」

ジークヴァルトの「あの女」という単語に、エルンストとニーナがびくりと反応した。

「………それも含めて、今ダミアンが探っている。だが、あいつが動き出したとなれば………」

消したくても消しされない、遥か遠い昔の忌々しい記憶が脳裏に浮かび、ジークヴァルトはぎゅっと拳を握りしめた。
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