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69.饗し
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「予想していたよりも、ずっとお美しい巫女姫様なのですね。ひょっとしたら、女神は面食いなのですかな」
クルツ大公はヴァルツァー国王に比べると些か人好きのする雰囲気の壮年だった。
「………大公閣下、不謹慎な物言いはお慎み下さい」
神官が渋い顔をして窘めるが、本人は全く気にしていないようだった。
「こうして無事にお会い出来て、本当に良かったです」
「ええ、わたくしも閣下にお会い出来て光栄ですわ。………この度は、本当にご心配をお掛けしてしまい、大変申し訳なく思っております」
アンネリーゼが申し訳なさそうに目を伏せると、クルツ大公は笑った。
「あなたに非はないでしょう。むしろあなたは被害者だ。問題は、犯人がまだ捕まっていないという事だと私は思います」
確かにその通りなのだが、同意していいのか分からず、アンネリーゼは曖昧に微笑むだけに留めた。
「さあ、食欲の無くなる話題はこれくらいにして、食事を楽しみましょう。特に巫女姫様は明日からは禊に入られますから、たくさん召し上がって下さい」
禊とは、女神に祈りを捧げる為の潔斎期間で、儀式が終わる三日間、聖殿の敷地内で採れた、女神の象徴である林檎と水しか口にすることが出来ない決まりになっているため、クルツ大公はそれを気の毒に思ったようで、食べ切れないほどの沢山の料理で饗してくれた。
森の中の国らしく、山の恵みがふんだんに使われた料理が所狭しと並べられる。
「そちらは鹿肉のステーキです。我が国の名物料理でして、香りとコクがあって美味ですよ。それからこちらは、同じく鹿肉を使ったシチューで………」
少し酔いが回り、饒舌になったクルツ大公が様々な料理を勧めてくれるが、元々食の細いアンネリーゼは疲れているせいもあって、食が進まなかった。
「どれもとても美味しいですわ」
クルツ大公の気持ちを無駄にしたくなくて、無理矢理料理を口に運ぼうとすると、隣の席に座っていたジークがすっと手を伸ばしてアンネリーゼを止めた。
「………無理は、なさらないで下さい」
「え…………?」
驚いて、ジークを見つめた。
「体調を崩されたら大事ですので。………大公閣下。過分な饗しに感謝致します。巫女姫様がお疲れのようですのでそろそろ失礼させていただきます」
「え、あ………ああ。気が回らなかったな。ゆっくりとお休み下さい」
戸惑いを浮かべたクルツ大公が、ジークの有無を言わさぬ言葉に頷いた。
顔にも、態度にも出さないように細心の注意を払っていたにも関わらず、無理にでも料理を食べようとしていた事に、どうして彼は気がついたのだろうか。
いつもどおり無表情の彼からは、何も読み取ることは出来なかった。
クルツ大公はヴァルツァー国王に比べると些か人好きのする雰囲気の壮年だった。
「………大公閣下、不謹慎な物言いはお慎み下さい」
神官が渋い顔をして窘めるが、本人は全く気にしていないようだった。
「こうして無事にお会い出来て、本当に良かったです」
「ええ、わたくしも閣下にお会い出来て光栄ですわ。………この度は、本当にご心配をお掛けしてしまい、大変申し訳なく思っております」
アンネリーゼが申し訳なさそうに目を伏せると、クルツ大公は笑った。
「あなたに非はないでしょう。むしろあなたは被害者だ。問題は、犯人がまだ捕まっていないという事だと私は思います」
確かにその通りなのだが、同意していいのか分からず、アンネリーゼは曖昧に微笑むだけに留めた。
「さあ、食欲の無くなる話題はこれくらいにして、食事を楽しみましょう。特に巫女姫様は明日からは禊に入られますから、たくさん召し上がって下さい」
禊とは、女神に祈りを捧げる為の潔斎期間で、儀式が終わる三日間、聖殿の敷地内で採れた、女神の象徴である林檎と水しか口にすることが出来ない決まりになっているため、クルツ大公はそれを気の毒に思ったようで、食べ切れないほどの沢山の料理で饗してくれた。
森の中の国らしく、山の恵みがふんだんに使われた料理が所狭しと並べられる。
「そちらは鹿肉のステーキです。我が国の名物料理でして、香りとコクがあって美味ですよ。それからこちらは、同じく鹿肉を使ったシチューで………」
少し酔いが回り、饒舌になったクルツ大公が様々な料理を勧めてくれるが、元々食の細いアンネリーゼは疲れているせいもあって、食が進まなかった。
「どれもとても美味しいですわ」
クルツ大公の気持ちを無駄にしたくなくて、無理矢理料理を口に運ぼうとすると、隣の席に座っていたジークがすっと手を伸ばしてアンネリーゼを止めた。
「………無理は、なさらないで下さい」
「え…………?」
驚いて、ジークを見つめた。
「体調を崩されたら大事ですので。………大公閣下。過分な饗しに感謝致します。巫女姫様がお疲れのようですのでそろそろ失礼させていただきます」
「え、あ………ああ。気が回らなかったな。ゆっくりとお休み下さい」
戸惑いを浮かべたクルツ大公が、ジークの有無を言わさぬ言葉に頷いた。
顔にも、態度にも出さないように細心の注意を払っていたにも関わらず、無理にでも料理を食べようとしていた事に、どうして彼は気がついたのだろうか。
いつもどおり無表情の彼からは、何も読み取ることは出来なかった。
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