呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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106.告白(2)

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「………見たところもう毒の影響はないようですが…………あなたの体調が本当に問題なければ、少し話をしませんか?」
「ええ、勿論ですわ」

アンネリーゼは頷いてから体をずらすと、ベッドの縁へと腰掛け、ジークヴァルトには向かいの椅子を勧める。

「………何からお話すればいいのか分かりませんが………まずは私が普通の人間ではないということからお伝えしなければなりません」

ジークヴァルトの美しい金色の瞳を彩る、濃く長い睫毛が彼の目元に影を落とす。

「それは、不老不死の呪い………でしょうか?」
「そのとおりです。………既に、ご存知だったのですね」
「ええ。神官のイェルク様から………」

アンネリーゼはふと、なぜあの時ジークヴァルトの事を思い出せなかったのだろうと考える。
あれは既に記憶をなくした後の出来事だった筈だ。
ならば、ジークヴァルトの事は知っているはずなのに、名前すらも初めて聞くような感覚だったし、父もイェルクも、ジークヴァルトの事を話題にこそすれども、まるでジークヴァルトとアンネリーゼに面識がないかのように話をしていた。
ジークがジークヴァルトだと気が付かなかったことは別にしても、記憶の整合が取れなかった。

アンネリーゼの不安気な表情に気がついたのか、ジークヴァルトがアンネリーゼの様子を伺いながら口を開く。

「………ならば話は早い。あなたも既にご存知の通り、私は数百年もの間、この姿のまま生きています。私は、どんなに傷ついても、首を切り落とされても死ぬことはない………姿こそヒトのものですが、ヒトの………いや、生き物の理から外れた存在なのです」

紡がれる一言一言が、重苦しく感じられる。アンネリーゼはただ静かにジークヴァルトの言葉に耳を傾けた。

「………何百年、何千年と時が過ぎていっても、私一人が時の流れの中に取り残されるような、言い知れない孤独感と自責の念から、私は極力ヒトとの関わりを断っていました。………私の役割は、人々を魔族や魔獣から守ること。それ以外の存在価値などない、…………魔物の血に飢えた化け物なのですよ」

自嘲するジークヴァルトに、アンネリーゼは切なそうに顔を顰めた。

「クラルヴァイン辺境伯様は、化け物などではありません。老いることも、死ぬこともなくても、血の通った、一人の人間です」

アンネリーゼの瞳が迷いなく、真っ直ぐにジークヴァルトへと向けられる。
吸い込まれてしまいそうなほどの深い蒼に、ジークヴァルトははっと息を呑んだ。
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