呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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117.帰還

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事件が起きた翌日。
アンネリーゼはジークヴァルトに横抱きにされたまま、彼の描いた移動魔法の魔法陣の前にいた。

「あの、ジーク様………この魔法陣は、ヴァルツァーの王城へと繋がっているのでしょう?………このまま行くのは…………」
「まだあなたは本調子ではないのに、歩かせるわけにはいかないからな」

金色の瞳が、アンネリーゼを覗き込むと、にやりと嗤う。
そして、ゆったりとした足取りで、魔法陣の中へと進んでいく。

「………それに、俺がこうしていたいんだ」

耳元で優しく囁くと、アンネリーゼはシミひとつない真っ白な頬をほんのり赤く染め、ジークヴァルトの肩に凭れ掛かる。
ああ、今自分は幸せなのだと、彼の香りに包まれながら実感する。

と。
魔法陣から、ジークヴァルトの魔力が迸り、みるみるうちに二人を包み込んでいく。
力強く、心地の良い魔力が眩い光の塊へと変わる。

「巫女姫様、バル………クラルヴァイン卿に………女神のご加護がありますようにろ……」

クルツの神官達の祈りの言葉が、耳に届いた瞬間に、目の前の景色が光で塗りつぶされた。
あまりの眩しさに、アンネリーゼはぎゅっと目を瞑る。

「…………アンネリーゼ!」

すうっと、空気が変わる気配がしたのと同時に、名を呼ばれ、アンネリーゼの開けた視界に、国王とイェルク、そして両親の姿が飛び込んできた。

「只今、戻りました」

アンネリーゼは思わず笑みを零す。
しかし、モルゲンシュテルン侯爵はアンネリーゼを見つめたまま硬直し、侯爵夫人は「あらあら」と小さく呟きながら苦笑いを浮かべるのを見て、一瞬考え、そして自分の状態を思い出して慌てふためく。
ゲルハルト王は厳しい顔をやや綻ばせ、イェルクは優しい笑顔を浮かべて頷いた。

「ジーク様、だから降ろして下さいと…………っ」
「巫女姫様の安全を考慮してのことですから」

鳥肌が立つほどに妖艶な笑みを浮かべたジークヴァルトが、名残惜しそうにアンネリーゼを下ろした。

「…………クラルヴァイン卿…………色々とお訊きしたいことがありますが、先ずは娘を助けて頂き、誠にありがとうございました」

すぐに我に返ったらしいモルゲンシュテルン侯爵が、ジークヴァルトに向かって深く頭を下げると夫人もそれに倣った。

「………いえ、私はすべき事をしたまでです」

静かな声でそう告げると、その場に漂う微妙な空気を薙ぎ払うように、ゲルハルトが手を叩いた。

「さあ、先ずは巫女姫殿とその護衛騎士の無事の帰還を祝おうではないか」

鋭い眼差しを細めて、堂々とそう告げると、女官を呼び、一同を応接間へと案内させたのだった。
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