120 / 230
120.魔鳥
しおりを挟む
「………それに、モルゲンシュテルン侯爵令嬢に対する態度を見れば、その可能性は自ずと否定できるのではないか?」
突然ゲルハルトから、やけに生温かい視線を向けられたアンネリーゼは、はっとして、それから恥ずかしさに顔を赤らめて俯いた。
そもそも横抱きにされた状態での帰国は、二人の関係を示すには充分だったし、今もジークヴァルトはアンネリーゼにぴったりと寄り添っている。
「………それは、重々承知しております。ただ、小さな疑念が後で大事にならないとも限りませんから、確認をさせて頂いたのです。陛下の仰る通りですね。………クラルヴァイン辺境伯殿、大変ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
イェルクの表情から険しさが消えたのを見て、ジークヴァルトも幾らか態度を軟化させた。
「いや………、俺は別に気にしていません。………寧ろ、巫女姫の護衛騎士が魔族を従えているという事実は、あなた方にとってはさぞかし世間体が悪いでしょう。………隠していたことは、謝罪します」
「いえ。私とて、魔族が全て悪だとは考えておりません。クラルヴァイン辺境伯殿が従えている、という事は例の魔鳥は、我々人間の助けになってくれる存在、という判断でよろしいのでしょうか?」
イェルクの言葉に、ジークヴァルトははっきりと頷いたが、アンネリーゼは話の内容を飲み込めずにいた。
ゲルハルトとジークヴァルト、そしてイェルクは一体何の話をしているのだろう。
魔鳥だとか魔族だとか、不穏な言葉にアンネリーゼは不安そうにジークヴァルトに視線を向けた。
「あの、ジーク様?魔鳥とは一体何のことでしょうか………?」
「あぁ、そういえば鳥としては………そもそも正式に彼と会ったことはなかったのか………。俺が血の契約を結んで従えている、魔族です。アンネリーゼも知っている人物だから、心配いらない。今度きちんと紹介しよう」
そう言ってジークヴァルトは微笑むが、さっぱり話の見えてこないアンネリーゼはきょとんとしていた。
「………陛下からは、クラルヴァイン辺境伯殿は既に首謀者に目星を付けていると聞いておりますが、それもその魔鳥が齎した情報でしょうか?」
「ええ。彼は有能すぎるほど有能でして、俺が頼んでもない事まで調べてくれるのです。………その首謀者から巫女姫を守ったのも、『禍月の魔女』の気配を察知したのも、彼ですよ」
ため息混じりにそう説明したジークヴァルトに、ゲルハルトが鋭い眼差しを向けた。
「それで、禍月の魔女と繋がっているのは、一体誰なのだ?」
ジークヴァルトは月光のような静けさを湛えた双眸を、真っ直ぐにゲルハルトへと向けた。
「クラネルト男爵令嬢です」
おそらく、予想はしていたのだろう。ゲルハルトとイェルクは顔を顰め、モルゲンシュテルン侯爵夫妻は怒りを顕にした。
唯一人、アンネリーゼだけは悲しげに目を伏せると、きゅっと唇を引き結んだのだった。
突然ゲルハルトから、やけに生温かい視線を向けられたアンネリーゼは、はっとして、それから恥ずかしさに顔を赤らめて俯いた。
そもそも横抱きにされた状態での帰国は、二人の関係を示すには充分だったし、今もジークヴァルトはアンネリーゼにぴったりと寄り添っている。
「………それは、重々承知しております。ただ、小さな疑念が後で大事にならないとも限りませんから、確認をさせて頂いたのです。陛下の仰る通りですね。………クラルヴァイン辺境伯殿、大変ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
イェルクの表情から険しさが消えたのを見て、ジークヴァルトも幾らか態度を軟化させた。
「いや………、俺は別に気にしていません。………寧ろ、巫女姫の護衛騎士が魔族を従えているという事実は、あなた方にとってはさぞかし世間体が悪いでしょう。………隠していたことは、謝罪します」
「いえ。私とて、魔族が全て悪だとは考えておりません。クラルヴァイン辺境伯殿が従えている、という事は例の魔鳥は、我々人間の助けになってくれる存在、という判断でよろしいのでしょうか?」
イェルクの言葉に、ジークヴァルトははっきりと頷いたが、アンネリーゼは話の内容を飲み込めずにいた。
ゲルハルトとジークヴァルト、そしてイェルクは一体何の話をしているのだろう。
魔鳥だとか魔族だとか、不穏な言葉にアンネリーゼは不安そうにジークヴァルトに視線を向けた。
「あの、ジーク様?魔鳥とは一体何のことでしょうか………?」
「あぁ、そういえば鳥としては………そもそも正式に彼と会ったことはなかったのか………。俺が血の契約を結んで従えている、魔族です。アンネリーゼも知っている人物だから、心配いらない。今度きちんと紹介しよう」
そう言ってジークヴァルトは微笑むが、さっぱり話の見えてこないアンネリーゼはきょとんとしていた。
「………陛下からは、クラルヴァイン辺境伯殿は既に首謀者に目星を付けていると聞いておりますが、それもその魔鳥が齎した情報でしょうか?」
「ええ。彼は有能すぎるほど有能でして、俺が頼んでもない事まで調べてくれるのです。………その首謀者から巫女姫を守ったのも、『禍月の魔女』の気配を察知したのも、彼ですよ」
ため息混じりにそう説明したジークヴァルトに、ゲルハルトが鋭い眼差しを向けた。
「それで、禍月の魔女と繋がっているのは、一体誰なのだ?」
ジークヴァルトは月光のような静けさを湛えた双眸を、真っ直ぐにゲルハルトへと向けた。
「クラネルト男爵令嬢です」
おそらく、予想はしていたのだろう。ゲルハルトとイェルクは顔を顰め、モルゲンシュテルン侯爵夫妻は怒りを顕にした。
唯一人、アンネリーゼだけは悲しげに目を伏せると、きゅっと唇を引き結んだのだった。
11
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる