呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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157.犠牲

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「フローラ様の影に、…………魔物が…………?」

あの嫌な気配は、影から魔物が這い寄って来ていたからなのだと頭では理解するが、信じがたい。
フローラがアンネリーゼを憎み、巫女姫に選ばれなかったことを恨んでいたのは嫌という程分かっていた。だが、自らを贄にする程に闇の感情は大きく膨れ上がっていたのだろうか。

「………でも、ギュンター様はどうなさるの………?」

アンネリーゼを捨て、フローラを選んだ彼は、フローラの異変に気がついているのだろうか。

「知らない筈は無いだろうが、を知っているかどうかは謎だな」

ギュンターの名を聞いた途端、ジークヴァルトの声が一段低くなった。

「真実?」
「………おそらく、あの娘は負の感情を利用され、魔女に丸め込まれて知らないうちに贄にされたのだろう。本人がそのような状態だ。………今回の件に関わっているであろうも、クラネルトもノイマンも………そうとは知らないだろう」

ジークヴァルトが告げた残酷な推測に、アンネリーゼは戦慄く唇で懸命に深呼吸を繰り返した。
そうでもしないと、すぐにでも倒れてしまいそうだった。

「酷い…………」
「禍月の魔女は、己の欲望を満たす為ならどんな手でも使う。その為に犠牲が出ようが国が滅ぼうが、あの女には一切関心はないんだ」

変身魔法を解いて本来の容姿に戻ったジークヴァルトの美しい黄金色の瞳に憎しみが浮かぶ。
それは、フローラがアンネリーゼに向けるものよりも強く深い感情にも見えた。

「あの女の今の目的が何なのかは分からない。だが………この国で何かを企んでいるのは間違いなさそうだ」

アンネリーゼはジークヴァルトの背中に回した手に、ぎゅっと力を込める。

「………フローラ様を、助ける手立てはないのですか…………?」

恐る恐るアンネリーゼが尋ねると、ジークヴァルトは案の定渋い顔をした。

「………全く、あなたという人は………」

呆れたように溜息をつくと、ゆっくりと首を振った。

「本当に………、本当に、呆れてしまうくらいに、どこまでもお人好しだな。………しかし、例え騙されたのだとしても、彼女自身に『誰よりも強い力を望む気持ち』が存在しなければ、あのように無数の魔物が潜むような状態にはなっていないだろう。………残念ながら、あの娘を救う手立ては、ないと考えた方がいいだろう」

甘くない現実を突きつけられたアンネリーゼは悲しげに深い蒼の瞳を揺らす。
巫女姫だなどと言われても、結局は無力で、人一人を救うことすらできないという事を、思い知らされたようだった。
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