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159.侍女の気遣い

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そして、いよいよ祈りの儀式の為に聖殿へと向かう日がやってきた。
アンネリーゼは朝日が昇る前に起床し、支度を整えていた。
前回の時は、ミアが支度をしてくれたのを思い出して、胸の奥がちくりと痛んだ。
彼女が自分の命を狙っていたのだと分かっていても、彼女と共に過ごした思い出をそう簡単に切り捨てることはアンネリーゼには出来なかった。

「………お綺麗ですよ、お嬢様」
「ありがとう、フランカ」

両親が新しく手配してくれたフランカという侍女は、大人しいが穏やかでよく気が利く娘だった。
そんなフランカに笑顔を向けるが、アンネリーゼの心は緊張と不安でいっぱいだった。

「あの………、お嬢様。もしよろしければ、こちらをお持ちください」

どこか憂いげな表情のアンネリーゼに、フランカがおずおずと何かを差し出した。

「これは…………?」
「あの、これは私が作ったものです。お嬢様が身につけている鳥の羽がございますでしょう?それを入れられるように作った袋なのですが………」

フランカが差し出したそれは、美しい刺繍が施された袋だった。

「私、刺繍しか取り柄がなくて………。それでもお嬢様の為に何か力になれないかと思って、それで………」

恥ずかしそうに頬を染めながら、丁寧に言葉を綴っていくフランカに、アンネリーゼはふわりと微笑む。

「わたくしの為に、作ってくれたの?とても綺麗だわ………」

フランカの手に己の手を重ねて、彼女の柔らかい手を握ると、フランカは驚いたようにアンネリーゼを見つめ、それから優しい笑顔を浮かべた。

「我が家に代々伝わる、古い図柄なのですが、持ち主を災いから守ってくれるという言い伝えがあるのです。お嬢様のお役に立てればいいのですが………」

受け取ったそれは、フランカのように穏やかな魔力を纏っていることにアンネリーゼは気がついた。

「水魔法が宿っているのね。………ありがとう、大切に使わせてもらうわ」

おそらく彼女は、一針一針に魔力を込めて作ってくれたのだろう。
その気持ちがとても嬉しく感じながら、袋の中にダミアンの羽を大切にしまう。

考えてみると、ミアはアンネリーゼがダミアンから受け取った羽を大切にしていても気にも留めなかった。
やはり彼女にとって自分は仮初めの主人であり、何の感情も抱いていなかったのだという事実を改めて突き付けられた気がしたが、それ以上に、フランカの優しい気遣いが心地よく感じられ、アンネリーゼはもう一度フランカに笑顔を向けた。
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