呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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170.仮説

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「………巫女姫候補に選ばれたという事は、候補になった際には適性があったということですよね?ならば、その後に何らかの理由で光属性の魔力を失ったという可能性があるのではと思うのですが………」

魔枯病などで後天的に魔力を失うことがあるという事は、何かのきっかけ………例えば強い別の魔力の影響を受けた場合や、ミアに飲まされた薬のようなものを使えば、ある特定の魔力だけを失うこともあるかもしれないと考えての事だった。

「我々には、クラルヴァイン辺境伯殿のように、魔力を視る事は出来ませんから、候補になった際に光属性の魔力があったのかまでは解りかねますが………、たしかにモルゲンシュテルン侯爵令嬢の仰る事も、可能性としては考えられますな」

イェルクは納得したように頷いたが、ジークヴァルトは難しい顔をしたままじっと考えこんでいた。

「………ジーク様?」
「ん?ああ………、すまない。確かに、アンネリーゼの理論なら、納得がいく。………だが、最初にダミアンにあの娘を探らせたとき、『魔力は中の上程度、闇と炎の適性はあれど他はない』と言っていた。あれの目に誤りはない。………いつからあの娘が魔女と接触していたかは分からないことには何とも言えない部分があるが………」

ジークヴァルトは一旦口を噤むと、イェルクを、そしてアンネリーゼを順番に見つめた。

「そもそも、あの娘は………初めから巫女姫候補に指名される資格すらなかったのではないかというのが、俺の考えだ」
「なっ………!」
「そんな………!」

二人はほぼ同時に、声を上げた。
ジークヴァルトの見解は、常識を根底から覆すものであるにも拘らず、妙に納得がいった。
巫女姫候補の選定は年頃の娘たちの魔力適性と、神官たちによる選定を経て候補を選び、その候補者の中から女神が最終的に巫女姫を指名する。
巫女姫の選定には、何人たりとも干渉出来ない。だが、巫女姫候補の選定の時点で神官たちの中で不正を働くものがいたとしたら。
神官とは、己の全てを女神に捧げた聖職者。
そのような立場にあるものが不正を働くなど、ありえないことだ。だが、もしその「ありえないこと」が起こっていたのだとしたら………。
それはアンネリーゼだけでなく、女神に仕える神官たちを統括するイェルクも同じなようだった。

「……万が一、それが事実であれば………神官の中にも、クラネルト男爵家や………或いはノイマン伯爵家に協力している者がいるということに………」

イェルクの顔色が、一気に青褪めていった。
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