呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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189.魔女の宴(4)

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「はい………ごしゅじんさま………」

禍月の魔女がその蠱惑的な唇からふうっと息を吹きかけた途端、フローラの体から凄まじい邪気が迸った。

「アンネリーゼ!」

ジークヴァルトが咄嗟にアンネリーゼを庇うように防御壁を作り出すと、魔女が苛立たしげに美しい顔を歪めた。

「ジークヴァルト。あなたの相手はそっちの出来損ないではなく、この私よ?」

燃え盛る炎のような真っ赤な髪が、フローラの放った邪気の風に煽られて舞い上がった。

「ジーク様。わたくしは大丈夫です。必ずフローラ様を止めますから。………ですから、ジーク様は魔女を倒すことに集中なさってください」

アンネリーゼは己の体に回されたジークヴァルトの逞しい腕にそっと手を添えると、ジークヴァルトに深い蒼の瞳を向けた。
この禍々しい空間においても、彼女の存在だけが切り離されているかのように清廉な空気を纏っている。

「しかし…………」
「わたくし、こう見えても一応巫女姫というお役目を頂けるくらいには、魔力はあるのです。………それに、守って頂くばかりでは、この国は守れませんから」

ほんの少しだけ冗談めかした言い方をすると、アンネリーゼは一瞬真顔に戻り、それからふわりと微笑んだ。
言葉にこそ表さなかったが、「まるで自分を信じて欲しい」というような、そんな表情だった。

確かにアンネリーゼの魔力は強い。おそらくはジークヴァルトが知っている人間の中で最も強いだろう。
だが、彼女の底なしの優しさが仇とならないかという事だけが、ジークヴァルトは気がかりだった。

だが、正直なところ人間だった頃に禍月の魔女と対峙した時、ジークヴァルトは魔女の体に掠り傷一つ負わせることすら出来なかった。
その挙げ句、不老不死の呪いを掛けられ、生物の理から外れた存在として生き続ける羽目になったのだ。
いくらその数百年という長い時を経て、ジークヴァルトも以前とは比べ物にならないくらいに強くなったとはいえ、アンネリーゼを守りながら魔女とフローラを、一人で相手するのはかなり厳しかった。

ジークヴァルトは悩んだ末に、アンネリーゼに向かってゆっくりと頷いた。

「分かった。だが、絶対に無茶はしないでくれ。………それから、あなたの常識が誰にでも通用すると思わないほうがいい」

ジークヴァルトの真剣な表情に、アンネリーゼは静かに頷いた。

「本当に、綺麗事だけで作られたガラスの人形みたいなコね。………壊して、滅茶苦茶にしてあげたくなるわ………」
「………アンネリーゼに手を出したら、許さないからな」

この上なく冷たい光を宿した金の瞳を魔女に向けると、魔女はじっとジークヴァルトを見つめ、それからアンネリーゼに目を向けたのだった。
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