呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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221.暴走

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「あなたのような、小賢しい偽善者が一番嫌いなのよ。巫女姫に選ばれて、ジークヴァルトに愛されて、女神に大切にされて……。誰にでも優しいふりをして、まるで聖人にでもなったかのように振る舞い、その実、心のどこかで周囲を見下しているのでしょう?」

まるでアンネリーゼの揺れていた心の内を知っていたかのように言い放つと、魔女は意地の悪い笑みを浮かべた。
少し前までのアンネリーゼならば、魔女の言葉に動揺していたに違いなかった。

アンネリーゼが巫女姫に選ばれたことを鼻にかけたことはなかったし、自分という存在を誇らしいと思ったこともなかったが、魔女の言っていることはあながち間違いではない部分もある。
魔女はアンネリーゼの心の迷いを知っていて、わざと動揺を誘うような事を言ってきたのだろう。
だが、アンネリーゼはもう迷わなかった。

「人間とは、皆そんなものではありませんか?誰だって周りによく思われたいし、嬉しいことは嬉しいと、悲しいことは悲しいと感じます。その心の、どこがいけないのですか?」

凛としたアンネリーゼの声が、はっきりと周囲の空気を震わせた。
ジークヴァルトは、魔女に怯むことなく、堂々と振る舞うアンネリーゼの姿をじっと見守った。

「あなただって、元々は人間だったのだから、その心を知っているでしょう。それに、まだその心は消えていない。あなたは、自分自身を……望んでも望んでも、満たされることのない欲望を満たそうと……自分のために、自分が傷つかないようにそうやって自分を慰めているんだわ」

深い蒼の瞳は、一切の迷いがない。
禍月の魔女は驚いたように、濃い紫色の瞳を見開いた。
それからゆっくりと天を仰ぐと、まるで幼子のように絶叫した。

「………っ!」

ジークヴァルト以上の長い年月を生きてきた魔女とは思えないような有様だった。
ざわり、と魔女の赤い髪の毛が魔力に反応して逆立っていく。
魔女は混乱したかのように頭を振ると、その逆立った髪を掻きむしる。そして、大きく肩で息をしながら、アンネリーゼを睨みつけた。

「お前なんかに………私の何がわかるというの………?」

魔女が喉の奥から絞り出したのは、低くてしゃがれた、まるで老婆のような声だった。
いつの間にか、紅い月が魔女気が付いたジークヴァルトは、身構える。

「死にぞこないの、お前なんかに………!」

その瞬間、凄まじい魔力が解き放たれた。
魔女の魔力に反応したのか、死の呪いを受けた胸の部分に不自然な熱を感じ、アンネリーゼは思わず顔を顰めると、その場に崩れ落ちる。

「アンネリーゼ!」

すかさずジークヴァルトが彼女を受け止めると、己の体を盾にして彼女を守るように、強く抱きしめた。
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