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227.光の正体
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一際強い風が吹いて、魔女の体は初めから存在しなかったかのように消え失せた。
「あれは、女神の力なのは間違いないと思います。光の中で、わたくしは確かに、女神の声を聴きました」
魔女だった塵が消えていった空を見上げながら、アンネリーゼは深い蒼の瞳を僅かに細める。
目の前で、禍月の魔女は死んだはずなのに、未だに実感が湧かなかった。
禍月の魔女は、……ブレンダという女性は、女神の許へと還り、尽きることのない己の欲望から解放されたのだろうか。その魂は、いつか罪を赦されるのだろうか。
そんな考えが浮かんでしまうあたりが、またアリッサに「甘い」と言われてしまいそうで、アンネリーゼは思わず微笑んだ。
「………あの光が現れる直前に、確かに私は祈りを捧げました。ジーク様に降りかかる苦しみや辛さ、そして悲しみも全てわたくしが身代わりとなって受けても構わない。……だからどうか、ジーク様がこれ以上苦しまなくていいようにして欲しいと………」
そんなことを願ったと知ったら、ジークヴァルトは怒るだろうか。
アンネリーゼはジークヴァルトの様子を窺うが、彼の表情は予想とは違うものだった。
「………自己犠牲の愛………か………」
納得したように、ジークヴァルトは呟いてからアンネリーゼを見つめた。
「ジーク、様………?」
ジークヴァルトが一体何を言っているのか理解できず、アンネリーゼは目を瞬いた。
「己を犠牲にしても厭わないと思うくらいの強い愛を、自己犠牲の愛と呼ぶんだ。それは、何よりも尊い人間の心の一つだと、大昔の神官に教わった。………あなたはあの時、俺に対してその気持ちを抱いて、強く願った。それを女神が聞き届けたんだ。………そして、不幸と悲しみの根源である禍月の魔女を消滅させ、彼女によって引き起こされた不幸を取り除いてくれた」
ジークヴァルトはゆっくりとアンネリーゼに近づくと、彼女の頬にそっと触れた。
「その証拠に、魔族であるダミアンの傷は癒え、あなたが受けた死の呪いもこうして消え失せた。………それが、魔女によって与えられたものだったから。……とどめを刺したのは俺だが、実質的に魔女を倒したのは、アンネリーゼ……あなただな」
ジークヴァルトの言葉に、アンネリーゼは驚いたように自分の体の様子を確認した。
確かに、あの体の中を渦巻く閉塞感にも似た息苦しさが消え去っていた。
死の呪いを受けたことも信じ難かったが、それが無くなったということもまた信じ難い。
アンネリーゼはゆっくりと、自分の胸に手を当てた。
「あれは、女神の力なのは間違いないと思います。光の中で、わたくしは確かに、女神の声を聴きました」
魔女だった塵が消えていった空を見上げながら、アンネリーゼは深い蒼の瞳を僅かに細める。
目の前で、禍月の魔女は死んだはずなのに、未だに実感が湧かなかった。
禍月の魔女は、……ブレンダという女性は、女神の許へと還り、尽きることのない己の欲望から解放されたのだろうか。その魂は、いつか罪を赦されるのだろうか。
そんな考えが浮かんでしまうあたりが、またアリッサに「甘い」と言われてしまいそうで、アンネリーゼは思わず微笑んだ。
「………あの光が現れる直前に、確かに私は祈りを捧げました。ジーク様に降りかかる苦しみや辛さ、そして悲しみも全てわたくしが身代わりとなって受けても構わない。……だからどうか、ジーク様がこれ以上苦しまなくていいようにして欲しいと………」
そんなことを願ったと知ったら、ジークヴァルトは怒るだろうか。
アンネリーゼはジークヴァルトの様子を窺うが、彼の表情は予想とは違うものだった。
「………自己犠牲の愛………か………」
納得したように、ジークヴァルトは呟いてからアンネリーゼを見つめた。
「ジーク、様………?」
ジークヴァルトが一体何を言っているのか理解できず、アンネリーゼは目を瞬いた。
「己を犠牲にしても厭わないと思うくらいの強い愛を、自己犠牲の愛と呼ぶんだ。それは、何よりも尊い人間の心の一つだと、大昔の神官に教わった。………あなたはあの時、俺に対してその気持ちを抱いて、強く願った。それを女神が聞き届けたんだ。………そして、不幸と悲しみの根源である禍月の魔女を消滅させ、彼女によって引き起こされた不幸を取り除いてくれた」
ジークヴァルトはゆっくりとアンネリーゼに近づくと、彼女の頬にそっと触れた。
「その証拠に、魔族であるダミアンの傷は癒え、あなたが受けた死の呪いもこうして消え失せた。………それが、魔女によって与えられたものだったから。……とどめを刺したのは俺だが、実質的に魔女を倒したのは、アンネリーゼ……あなただな」
ジークヴァルトの言葉に、アンネリーゼは驚いたように自分の体の様子を確認した。
確かに、あの体の中を渦巻く閉塞感にも似た息苦しさが消え去っていた。
死の呪いを受けたことも信じ難かったが、それが無くなったということもまた信じ難い。
アンネリーゼはゆっくりと、自分の胸に手を当てた。
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