隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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241.出立の日

それから数日後。
ブロンザルドの王城の裏門には、簡素だがしっかりとした造りの大きな馬車が数台用意されていた。

「もう少しゆっくりと過ごして頂いても構いませんでしたのに………」
「王太后様のお心遣い、大変嬉しく存じますわ。ですけれどブロンザルドもこれから更に忙しくなるでしょうし、これが今生の別れという訳ではありませんもの」

心底残念そうに溜息を零したテレーゼに、アリーチェがにこやかに応対した。

「………我々もそろそろ自国に帰らねば、宰相が過労で倒れるだろうな」
「そうですね。何と言っても、国王が最側近を引き連れて、内密に他国に潜入しているのですからね」

クロードは涼し気な顔でアリーチェの隣に佇むルドヴィクを横目で見ながら、ぼそりと呟いた。

ルドヴィク達がいつからイザイアを離れブロンザルドに来ていたのか、正確な日数は聞いていないが、少なくともイザイアとブロンザルドの王都は馬で駆けたとしても、一週間程度は掛かるはずだ。
しかもいくらテレーゼやパトリスの助けがあったとはいえ、この広い王城の中に閉じ込められたアリーチェを探すのは容易な事ではなかったはずだ。

それでもルドヴィクが必死になって自分を探しに来てくれたと思うだけで、嬉しさが込み上げてくる。

「………アリーチェ王女」

穏やかな笑みを浮かべたままのアリーチェに、パトリスが名残惜しそうに声を掛けていた。

「………本当の事を言えば、あなたを行かせたくありません」

突然のパトリスの発言に、アリーチェは驚いたように虹色の瞳を大きく見開く。

「………ですが、私の我儘であなたを困らせたくありませんし、何よりも………貴男の心が私にないのは分かっています」

次いでパトリスの口から零れた言葉は、気遣いが溢れつつも、どこか切なげだった。
パトリスの気持ちを知りながらも、それに応えることが出来ない事を、アリーチェは申し訳なく思う。

「………申し訳、ございません………」

どうしたら良いのか分からず、アリーチェが謝罪の言葉を述べると、パトリスはゆっくりと首を振った。

「あなたが謝ることなど何もありませんよ、アリーチェ王女。………ルドヴィク殿は、同性の私から見ても、とても魅力的で頼りになる人です。………それに、あなたを何よりも大切にしてくださる」
「パトリス様…………」

パトリスの灰色の瞳は悲しげに揺れながらも、優しく穏やかな光を湛えていた。
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