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51.純喫茶でコーヒーを飲むと何故か普段入れないミルクを入れる
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天井の白さがやけに眩しい。遠くの国道を流れる車の音が、まだ寝ぼけた頭にゆるく反響していた。ぼんやりとベッドの横を見るが、そこには誰もいない。まだ混乱している頭を振って部屋を見回すと、ドアのそばでじっとこちらを見つめているクロと目が合った。
「クロ……」
俺が声を掛けると、クロは静かに近づいてきて俺の膝の上に顎を乗せた。俺はその頭を優しく撫でながら、しみじみと語りかけた。
「クロ、いつも傍にいてくれてありがとうな。俺たち、5回も死んだんだな……」
クロは不思議そうに首をかしげ、穏やかな目で俺を見上げていた。
ふと気になってスマートフォンで日付を確認する。画面に表示された日付を見て、俺は思わず小さく声を上げた。
『7月20日(月)7:00』
「えっ……?」
俺が目覚めたのは何度も繰り返したあの12月ではなかった。隕石衝突の4日前、慌ただしく逃げ回っていたあの日々ではなく、それより4ヶ月以上も前の夏の日だった。
混乱する頭を整理するために深呼吸を繰り返す。そういえば、毎回目覚めたときに感じていた酷い二日酔いもない。完全に平穏な朝だった。
「月曜ってことは仕事か……。クロ、とりあえず散歩行こうか」
クロにリードをつけ、高円寺の街に出る。通勤途中のサラリーマンや学生たちがいつもどおり駅に向かっている。日常の平和な風景だ。
俺は歩きながら考え込む。4ヶ月も前に戻ったところで、俺のような普通のサラリーマンが隕石の衝突を止めることも、アメリカとロシアの核戦争を防ぐこともできない。JAXAに隕石のことを伝えたところで信じてもらえるはずがない。
「まあ、あとでダメ元でJAXAにメールくらいは送っておくか……」
俺がぽつりと呟くと、クロが不思議そうに顔をのぞき込んできた。
「ごめん、独り言だよ。さて、どうしようか、クロ」
クロはやっぱり理解できないのか、不思議そうに首を傾けている。
散歩を終えて家に戻ると、軽く朝食を済ませてシャワーを浴び、俺はいつものように会社へ向かった。
出社すると、店舗の前では佐藤支店長がいつもどおり箒を持って掃除をしていた。
「おはようございまーす」
「おはよー。今日も暑いねー」
ごく自然に挨拶を交わし、店内に入る。既に席についていた湊にも軽く挨拶をして、自分のデスクについた。ノートPCを開き、営業管理表を見る。4ヶ月も前に自分が何をやっていたか思い出す必要があった。幸いにも、どのお客さんにどの物件を紹介すれば契約に繋がるかは記憶に鮮明に残っていたため、仕事は驚くほど簡単だった。
ぽつりぽつりと他の社員も出社してくる。そして、開店時間ギリギリに舞が慌てて駆け込んできた。その姿を見た瞬間、胸が締め付けられるような思いに襲われた。前の世界線では夫婦だった舞。少しの間ぼうっと舞を見つめてしまった。
「……どしたの?そんなにガン見して」
舞が不思議そうに俺を見る。俺は慌てて誤魔化すように言った。
「あっ、いや、襟立ってますよ」
舞のブラウスの襟が実際に少し立っていた。舞は「あ、ほんとだ」と小さく笑って襟を直した。
「ありがとう」
朝のミーティングを終えた後、特に予定のなかった俺は「物件の写真を撮ってきます」と言って外出した。記憶にある売れる物件の写真だけを効率よく撮り終えた後、高円寺の商店街から少し外れた住宅街にある純喫茶へ向かった。
入り口でスポーツ新聞を手に取り、一番奥の席に座る。アイスコーヒーを注文し、新聞を軽くめくりながら思考の海へ潜った。
俺の心はリンのことでいっぱいだった。前の世界線で俺を殺し、自分も命を絶ったあの女の子。俺はずっとリンの気持ちに気づいていた。自分に好意を寄せる可愛い女の子が気にならないはずもない。ただ、リンとは親友のような距離感だったから、もし恋愛関係になって壊れたら、もう元の関係には戻れない。それが怖くて、俺は彼女への気持ちを曖昧にして誤魔化し続けてきたのだ。
同時に舞のことは入社したときから憧れだった。美しく仕事ができ、優しく面倒見のいい先輩である舞に憧れない男はいないだろう。たぶん俺の同僚の男達も同じ気持ちだ。前の世界線では舞が弟の湊と結婚したから気持ちを割り切れたが、直近の世界線では最初から舞と関係を持ってしまった。その浮かれた姿をリンはどれほど辛い思いで見ていただろうか。避難していた祖父母の家でも俺は舞と二人で寝ていた。隣の部屋で寝ていたリンがどれほど辛い思いをしていたかと思うと、俺を殺したリンのことを恨む気持ちにはなれなかった。
リンが最後に言った言葉が頭をよぎった。
『下个世界线,请一定要选择我。』(次の世界線では、私を選んでね。)
俺は決意を固め、リンに微信(WeChat)でメッセージを送った。
『今日の夜、空いてるか?』
すぐにリンから返信が来た。
『うん』
『じゃあ夕飯おごるから、20時に中野駅南口で』
リンから狸の可愛いスタンプが届き、中国語で返事があった。
『好的』(いいよ)
俺は普段使わないミルクを入れたアイスコーヒーを飲みながら深く息をついた。
隕石のことはその後に考えよう。今はまず、リンとの関係を大切にする。それが俺が今回の世界線で最初にやるべきことだと強く思った。
「クロ……」
俺が声を掛けると、クロは静かに近づいてきて俺の膝の上に顎を乗せた。俺はその頭を優しく撫でながら、しみじみと語りかけた。
「クロ、いつも傍にいてくれてありがとうな。俺たち、5回も死んだんだな……」
クロは不思議そうに首をかしげ、穏やかな目で俺を見上げていた。
ふと気になってスマートフォンで日付を確認する。画面に表示された日付を見て、俺は思わず小さく声を上げた。
『7月20日(月)7:00』
「えっ……?」
俺が目覚めたのは何度も繰り返したあの12月ではなかった。隕石衝突の4日前、慌ただしく逃げ回っていたあの日々ではなく、それより4ヶ月以上も前の夏の日だった。
混乱する頭を整理するために深呼吸を繰り返す。そういえば、毎回目覚めたときに感じていた酷い二日酔いもない。完全に平穏な朝だった。
「月曜ってことは仕事か……。クロ、とりあえず散歩行こうか」
クロにリードをつけ、高円寺の街に出る。通勤途中のサラリーマンや学生たちがいつもどおり駅に向かっている。日常の平和な風景だ。
俺は歩きながら考え込む。4ヶ月も前に戻ったところで、俺のような普通のサラリーマンが隕石の衝突を止めることも、アメリカとロシアの核戦争を防ぐこともできない。JAXAに隕石のことを伝えたところで信じてもらえるはずがない。
「まあ、あとでダメ元でJAXAにメールくらいは送っておくか……」
俺がぽつりと呟くと、クロが不思議そうに顔をのぞき込んできた。
「ごめん、独り言だよ。さて、どうしようか、クロ」
クロはやっぱり理解できないのか、不思議そうに首を傾けている。
散歩を終えて家に戻ると、軽く朝食を済ませてシャワーを浴び、俺はいつものように会社へ向かった。
出社すると、店舗の前では佐藤支店長がいつもどおり箒を持って掃除をしていた。
「おはようございまーす」
「おはよー。今日も暑いねー」
ごく自然に挨拶を交わし、店内に入る。既に席についていた湊にも軽く挨拶をして、自分のデスクについた。ノートPCを開き、営業管理表を見る。4ヶ月も前に自分が何をやっていたか思い出す必要があった。幸いにも、どのお客さんにどの物件を紹介すれば契約に繋がるかは記憶に鮮明に残っていたため、仕事は驚くほど簡単だった。
ぽつりぽつりと他の社員も出社してくる。そして、開店時間ギリギリに舞が慌てて駆け込んできた。その姿を見た瞬間、胸が締め付けられるような思いに襲われた。前の世界線では夫婦だった舞。少しの間ぼうっと舞を見つめてしまった。
「……どしたの?そんなにガン見して」
舞が不思議そうに俺を見る。俺は慌てて誤魔化すように言った。
「あっ、いや、襟立ってますよ」
舞のブラウスの襟が実際に少し立っていた。舞は「あ、ほんとだ」と小さく笑って襟を直した。
「ありがとう」
朝のミーティングを終えた後、特に予定のなかった俺は「物件の写真を撮ってきます」と言って外出した。記憶にある売れる物件の写真だけを効率よく撮り終えた後、高円寺の商店街から少し外れた住宅街にある純喫茶へ向かった。
入り口でスポーツ新聞を手に取り、一番奥の席に座る。アイスコーヒーを注文し、新聞を軽くめくりながら思考の海へ潜った。
俺の心はリンのことでいっぱいだった。前の世界線で俺を殺し、自分も命を絶ったあの女の子。俺はずっとリンの気持ちに気づいていた。自分に好意を寄せる可愛い女の子が気にならないはずもない。ただ、リンとは親友のような距離感だったから、もし恋愛関係になって壊れたら、もう元の関係には戻れない。それが怖くて、俺は彼女への気持ちを曖昧にして誤魔化し続けてきたのだ。
同時に舞のことは入社したときから憧れだった。美しく仕事ができ、優しく面倒見のいい先輩である舞に憧れない男はいないだろう。たぶん俺の同僚の男達も同じ気持ちだ。前の世界線では舞が弟の湊と結婚したから気持ちを割り切れたが、直近の世界線では最初から舞と関係を持ってしまった。その浮かれた姿をリンはどれほど辛い思いで見ていただろうか。避難していた祖父母の家でも俺は舞と二人で寝ていた。隣の部屋で寝ていたリンがどれほど辛い思いをしていたかと思うと、俺を殺したリンのことを恨む気持ちにはなれなかった。
リンが最後に言った言葉が頭をよぎった。
『下个世界线,请一定要选择我。』(次の世界線では、私を選んでね。)
俺は決意を固め、リンに微信(WeChat)でメッセージを送った。
『今日の夜、空いてるか?』
すぐにリンから返信が来た。
『うん』
『じゃあ夕飯おごるから、20時に中野駅南口で』
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