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70 ミハイル・アイゼンバッハ,21
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七十
「そ、その人。あんまり悪くないんです。だから、その、」
ミハイルは初め、リリィが本当に何を言っているかが分からなかった。
リリィ本人が語ったところに寄れば、この男は少なくとも復讐のためにリリィの命を狙ったはずである。
だというのに、リリィは苛烈に断罪しろと言うのではなく、まるで男を庇うような内容を口にしている。
今までのリリィならば、リリィの命を少しでも狙う素振りを見せようものなら、確実に反撃に出たはずであるし、何なら今すぐにでも八つ裂きにしてもおかしくない。
だが、今、リリィは男のことを助けようとするかのような内容を口にしている。
もうミハイルには何が何だか分からなかった。
なので、率直に尋ねてみることにした。
「この男は、お前の命を狙ったのではないのか?」
「……。」
ミハイルの言葉に、リリィは黙り込む。
そして、リリィは何故か泣き出した。
「……っ、…っ、は、はいっ……。」
ぼろぼろと大粒の涙を流し、ミハイルを見上げながら泣くリリィ。
リリィの行動全てが、ミハイルの想像を裏切っていく。
ミハイルはもうどうしていいか分からなくなった。
次の行動に出ることも出来ず固まったままのミハイル。
リリィは泣き止むどころか、段々声を上げて泣き始めた。
「こ、怖かったぁ……。怖かったよぉ……。うえっ……。うわーん。」
命を狙われたか弱い女性ならば当然の反応だと思うが、相手はリリィ・マクラクランである。
その事実が、ミハイルの中でせめぎ合う。
果たして真実はどこにあるのかと。
目の前で泣いているのは本当にあのリリィ・マクラクランなのか?
リリィ・マクラクランが命を狙われたくらいで怯えて泣き喚くのか?
ミハイルにはもうお手上げだった。
なので、ミハイルは現状の理解を諦めた。
主にはあったことをありのままに報告しようと決めた。
ミハイルにはもう何が真実なのかも判別することは出来そうもない。
とりあえずミハイルはこの場の回答を一旦保留にすることにした。
そして、自らの騎士道精神に照らし合わせ、この場で最もふさわしいであろう行動に移ることにする。
それ即ち、命の危機に怯えて泣いている女性を慰めることだ。
今、現実に起きていることを素直に受け取れば、そうすることが一番正しいのではないかとミハイルには思えたからだ。
ミハイルはこれ以上リリィを怯えさせないようにそっと近づき、ぎこちない手つきで壊れ物のようにリリィに触れた。
「大丈夫だ。もう危険はない。」
少しでも安心できるような言葉を聞かせ、そっと背を撫でる。
すると、リリィはミハイルの顔を縋るように見上げた後、更に大きな声を上げて泣き始めた。
ミハイルは剣の修行ばかりに明け暮れていた自分の今までの人生に、これまではあまり疑問も後悔も感じてこなかった。だが、今、切実に感じていたのは、こんなことなら女性の上手い慰め方の一つや二つ覚えておくべきだったということだ。
たくさんの経験を積むとはいかずとも、せめて女性の扱いに長けた部下にでも教わっておくべきであったかと本気で後悔した。
慰めたいのに上手くいかず、ぎこちない手つきで背を撫でては見るが、一向に泣き止む気配はない。
やれ堅物だ何だと言われ続けようが職務に邁進してきたミハイルにとっては、人生最大級の難問が降りかかったような状態だ。
「大丈夫だ。」
どうしていいか分からないながらも、声を上げて泣き続けるリリィ相手に、ミハイルは大丈夫と繰り返すくらいのことしかできなかった。
王国最強とまで言われる近衛騎士団長ミハイルを悩ます事態は、その後もしばらく続き、ミハイルはやれやれと弱りながらも、その生真面目な性格から途中で投げ出すことも出来ず、ただ泣き続けるリリィ相手にぎこちない慰めを続けるのであった。
「そ、その人。あんまり悪くないんです。だから、その、」
ミハイルは初め、リリィが本当に何を言っているかが分からなかった。
リリィ本人が語ったところに寄れば、この男は少なくとも復讐のためにリリィの命を狙ったはずである。
だというのに、リリィは苛烈に断罪しろと言うのではなく、まるで男を庇うような内容を口にしている。
今までのリリィならば、リリィの命を少しでも狙う素振りを見せようものなら、確実に反撃に出たはずであるし、何なら今すぐにでも八つ裂きにしてもおかしくない。
だが、今、リリィは男のことを助けようとするかのような内容を口にしている。
もうミハイルには何が何だか分からなかった。
なので、率直に尋ねてみることにした。
「この男は、お前の命を狙ったのではないのか?」
「……。」
ミハイルの言葉に、リリィは黙り込む。
そして、リリィは何故か泣き出した。
「……っ、…っ、は、はいっ……。」
ぼろぼろと大粒の涙を流し、ミハイルを見上げながら泣くリリィ。
リリィの行動全てが、ミハイルの想像を裏切っていく。
ミハイルはもうどうしていいか分からなくなった。
次の行動に出ることも出来ず固まったままのミハイル。
リリィは泣き止むどころか、段々声を上げて泣き始めた。
「こ、怖かったぁ……。怖かったよぉ……。うえっ……。うわーん。」
命を狙われたか弱い女性ならば当然の反応だと思うが、相手はリリィ・マクラクランである。
その事実が、ミハイルの中でせめぎ合う。
果たして真実はどこにあるのかと。
目の前で泣いているのは本当にあのリリィ・マクラクランなのか?
リリィ・マクラクランが命を狙われたくらいで怯えて泣き喚くのか?
ミハイルにはもうお手上げだった。
なので、ミハイルは現状の理解を諦めた。
主にはあったことをありのままに報告しようと決めた。
ミハイルにはもう何が真実なのかも判別することは出来そうもない。
とりあえずミハイルはこの場の回答を一旦保留にすることにした。
そして、自らの騎士道精神に照らし合わせ、この場で最もふさわしいであろう行動に移ることにする。
それ即ち、命の危機に怯えて泣いている女性を慰めることだ。
今、現実に起きていることを素直に受け取れば、そうすることが一番正しいのではないかとミハイルには思えたからだ。
ミハイルはこれ以上リリィを怯えさせないようにそっと近づき、ぎこちない手つきで壊れ物のようにリリィに触れた。
「大丈夫だ。もう危険はない。」
少しでも安心できるような言葉を聞かせ、そっと背を撫でる。
すると、リリィはミハイルの顔を縋るように見上げた後、更に大きな声を上げて泣き始めた。
ミハイルは剣の修行ばかりに明け暮れていた自分の今までの人生に、これまではあまり疑問も後悔も感じてこなかった。だが、今、切実に感じていたのは、こんなことなら女性の上手い慰め方の一つや二つ覚えておくべきだったということだ。
たくさんの経験を積むとはいかずとも、せめて女性の扱いに長けた部下にでも教わっておくべきであったかと本気で後悔した。
慰めたいのに上手くいかず、ぎこちない手つきで背を撫でては見るが、一向に泣き止む気配はない。
やれ堅物だ何だと言われ続けようが職務に邁進してきたミハイルにとっては、人生最大級の難問が降りかかったような状態だ。
「大丈夫だ。」
どうしていいか分からないながらも、声を上げて泣き続けるリリィ相手に、ミハイルは大丈夫と繰り返すくらいのことしかできなかった。
王国最強とまで言われる近衛騎士団長ミハイルを悩ます事態は、その後もしばらく続き、ミハイルはやれやれと弱りながらも、その生真面目な性格から途中で投げ出すことも出来ず、ただ泣き続けるリリィ相手にぎこちない慰めを続けるのであった。
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