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桃源郷:ボディガード13
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『当協会は生まれ変わります』
当協会を御贔屓くださる皆様、また当協会へ興味を持ってくださっている方、先日は大変無様な姿をお見せしました。闇オークションに関する情報はすべて明るみにし、関わったスタッフ全てを警察が取り調べ、協会のメンバーの半数を入れ替えることにしました。協会のシステム、規約に関しても見直し、新たな協会へ生まれ変わることをお約束します。どうぞご安心下さい。まっとうなオークションへ参加をした方は、何も気に病む必要はありません。ただし、当協会の闇オークションに参加したことがある方にはお話を伺いに来るものがいるでしょう。その際は、どうぞ包み隠さず申し出ください。
「結構な人間が解雇されたみたいよ。何も知らなかったスタッフは、狐につままれたような顔をしていたんですって」
「何も知らなかったとはいえ、ずいぶん危険にさらされていたんだな。俺とリンさんは」
緑の葉が揺れる草原に、一軒の家が建っています。家というよりも簡易キッチンと休息所がある作業小屋のようなものです。とがった屋根の先には何もついていません。以前は風見鶏が立っていました。白い木の柵で囲まれた小さな庭には、春の植物が植わっています。春の花々が咲き乱れ、白いハツカネズミが庭を世話するために忙しそうに動き回っていました。
「何ともなくてよかったわね」
目の前で春の女神がにっこり笑います。白くて丸いテーブルの上に、赤いギンガムチェックのテーブルクロスがかかっています。中央にはパウンドケーキが切り分けられ、小皿に好きなだけとれるようにしていました。甘酸っぱい香りと、赤い色合いのお茶はローズヒップ。ビタミンCが豊富に含まれています。春の女神の手元には金色の小さなカギと一緒に白い小箱がおいてありました。
「ああ、リンさんも怪我はしたが大したことはなかった」
「風の精霊が教えてくれたけど、本当に驚いたわ。だって、ちっとも闇オークションの尻尾を掴ませてくれなかったんだもの」
「リンさんは、すごいな」
オークション会場での出来事と、協会に関する噂話が至る所で騒がれています。しばらくの間は、闇オークションに関する実態や、他の協会への非難がありそうですが、すぐにおさまり別の話題が世の中を騒がせるでしょう。自分には関係のないことだと、ショウがゆったりお茶を飲んでいると春の女神が呆れたようjな声を出しました。
「リンちゃんだけじゃなく、ショウだって注目を浴びているのよ」
「俺はリンさんのボディーガード。それ以外の仕事はしなかった」
ふと思い出したのは闇オークションに出品される商品の中に、生き物が混ざっていたことでした。本人の意思ではないでしょう。もしもリンがいなければショウは、あの暗闇の向こうに足を踏み入れていたかもしれません。リンが扉の方へ行きたがったように。ですが、ショウは化粧室の前に行くことはなかったでしょうし、空間の裂け目に足を踏み入れることもなかったでしょう。オークションに行くこともなかったはずです。リンのボディーガードを受け入れなければ起こらなかった出来事でした。
「まあ、いいけどね」
そこがショウの良いところだと思うしとパウンドケーキを指でつまんで、口の中に放り込みました。気の置けない間柄であれば、春の女神はずいぶん親し気な様子で接します。フォークはありますが、ショウに対する気遣いのために出しただけで、ただの飾りのようになっていました。
「ところで、闇オークションの商品はどうなるんだ?泥棒が全部盗み出したと聞いたが」
別空間で出会ったふざけた様子の青年と、ブラックパールを落札した赤髪の少女は兄妹で泥棒。おそらく他にも仲間が潜んでいたのでしょう。ショウからは伺い知れぬことばかりでしたが、綿密に計画を立てて事を運んでいたようでした。
「ああ、本来の持ち主に返すそうよ。行き場所がない場合は、良心的な場所へ持って行くとか」
「…泥棒は自分の物にしないのか?」
「協会側のスタッフと警察関係者から依頼を出したそうよ。とにかく保管している場所が分からないし、協会側のスタッフがあまり嗅ぎまわるわけにいかなかったんですって。正当な捜査じゃ何も出てこないし、潜入捜査や結構危ない橋を渡っても何も出なかったの。不本意だったみただけど、有名な泥棒ファミリーに依頼を出したのよ」
「詳しいな」
驚いて春の女神の顔をまじまじと見つめるショウに、女神は思い切り顔をしかめました。
「私もオークションに行くはずだったし、落札して欲しいって頼んだ手前、ちょっと責任を感じてるの。だから風の精霊たちに頼んで情報を集めてもらったのよ。それでも全部じゃないわ。泥棒に依頼した件は協会側も警察も誤魔化したいから、一般客が偶然見つけたっていうリンちゃんに焦点をあてて発表してるのよ」
「リンさん、また何か巻き込まれるのか?」
「名前は出さないわ。高時と通鷹がずいぶん立ち回ったみたいね。表彰や金一封が出る話も全部潰してるの」
偶然とはいえ、リンは闇オークションの実態を明らかにするため、大きな貢献をしたことになります。その栄誉をたたえて表彰と金一封をという話がでたそうです。騒ぎの中にリンがいることを良しとせず、高時と通鷹は栄誉と金一封を断ってしまいました。もしも受け入れていれば、リンは英雄のような扱いを受けたかもしれません。
「まあ、リンさんのこと恨むやつらもいるかもしれないしな」
「ええ、だから、私もほっとしてるの。あまり関わらない方が良いわ」
ショウの脳裏で銀髪が揺れます。高時や通鷹、ハクトがリンにあれこれ世話を焼く様子をどこか面白がっていましたが、笑いごとではないなと気がつきました。
「なんか、リンさんのこと心配になってくるな」
思わずこぼすと春の女神がふふっと笑いました。
「まあ大丈夫よ。今回だって大丈夫だったでしょ?」
「まあ、そうかな」
つられて笑うと風が吹きました。穏やかに流れる時間に心がほどけていきます。時間に追われ、しばらくこうした時間を取っていなかったことに思い至りました。自分も誰かに心配をかけているんだろうなと、目の前で笑う春の女神に微笑みました。
おわり
当協会を御贔屓くださる皆様、また当協会へ興味を持ってくださっている方、先日は大変無様な姿をお見せしました。闇オークションに関する情報はすべて明るみにし、関わったスタッフ全てを警察が取り調べ、協会のメンバーの半数を入れ替えることにしました。協会のシステム、規約に関しても見直し、新たな協会へ生まれ変わることをお約束します。どうぞご安心下さい。まっとうなオークションへ参加をした方は、何も気に病む必要はありません。ただし、当協会の闇オークションに参加したことがある方にはお話を伺いに来るものがいるでしょう。その際は、どうぞ包み隠さず申し出ください。
「結構な人間が解雇されたみたいよ。何も知らなかったスタッフは、狐につままれたような顔をしていたんですって」
「何も知らなかったとはいえ、ずいぶん危険にさらされていたんだな。俺とリンさんは」
緑の葉が揺れる草原に、一軒の家が建っています。家というよりも簡易キッチンと休息所がある作業小屋のようなものです。とがった屋根の先には何もついていません。以前は風見鶏が立っていました。白い木の柵で囲まれた小さな庭には、春の植物が植わっています。春の花々が咲き乱れ、白いハツカネズミが庭を世話するために忙しそうに動き回っていました。
「何ともなくてよかったわね」
目の前で春の女神がにっこり笑います。白くて丸いテーブルの上に、赤いギンガムチェックのテーブルクロスがかかっています。中央にはパウンドケーキが切り分けられ、小皿に好きなだけとれるようにしていました。甘酸っぱい香りと、赤い色合いのお茶はローズヒップ。ビタミンCが豊富に含まれています。春の女神の手元には金色の小さなカギと一緒に白い小箱がおいてありました。
「ああ、リンさんも怪我はしたが大したことはなかった」
「風の精霊が教えてくれたけど、本当に驚いたわ。だって、ちっとも闇オークションの尻尾を掴ませてくれなかったんだもの」
「リンさんは、すごいな」
オークション会場での出来事と、協会に関する噂話が至る所で騒がれています。しばらくの間は、闇オークションに関する実態や、他の協会への非難がありそうですが、すぐにおさまり別の話題が世の中を騒がせるでしょう。自分には関係のないことだと、ショウがゆったりお茶を飲んでいると春の女神が呆れたようjな声を出しました。
「リンちゃんだけじゃなく、ショウだって注目を浴びているのよ」
「俺はリンさんのボディーガード。それ以外の仕事はしなかった」
ふと思い出したのは闇オークションに出品される商品の中に、生き物が混ざっていたことでした。本人の意思ではないでしょう。もしもリンがいなければショウは、あの暗闇の向こうに足を踏み入れていたかもしれません。リンが扉の方へ行きたがったように。ですが、ショウは化粧室の前に行くことはなかったでしょうし、空間の裂け目に足を踏み入れることもなかったでしょう。オークションに行くこともなかったはずです。リンのボディーガードを受け入れなければ起こらなかった出来事でした。
「まあ、いいけどね」
そこがショウの良いところだと思うしとパウンドケーキを指でつまんで、口の中に放り込みました。気の置けない間柄であれば、春の女神はずいぶん親し気な様子で接します。フォークはありますが、ショウに対する気遣いのために出しただけで、ただの飾りのようになっていました。
「ところで、闇オークションの商品はどうなるんだ?泥棒が全部盗み出したと聞いたが」
別空間で出会ったふざけた様子の青年と、ブラックパールを落札した赤髪の少女は兄妹で泥棒。おそらく他にも仲間が潜んでいたのでしょう。ショウからは伺い知れぬことばかりでしたが、綿密に計画を立てて事を運んでいたようでした。
「ああ、本来の持ち主に返すそうよ。行き場所がない場合は、良心的な場所へ持って行くとか」
「…泥棒は自分の物にしないのか?」
「協会側のスタッフと警察関係者から依頼を出したそうよ。とにかく保管している場所が分からないし、協会側のスタッフがあまり嗅ぎまわるわけにいかなかったんですって。正当な捜査じゃ何も出てこないし、潜入捜査や結構危ない橋を渡っても何も出なかったの。不本意だったみただけど、有名な泥棒ファミリーに依頼を出したのよ」
「詳しいな」
驚いて春の女神の顔をまじまじと見つめるショウに、女神は思い切り顔をしかめました。
「私もオークションに行くはずだったし、落札して欲しいって頼んだ手前、ちょっと責任を感じてるの。だから風の精霊たちに頼んで情報を集めてもらったのよ。それでも全部じゃないわ。泥棒に依頼した件は協会側も警察も誤魔化したいから、一般客が偶然見つけたっていうリンちゃんに焦点をあてて発表してるのよ」
「リンさん、また何か巻き込まれるのか?」
「名前は出さないわ。高時と通鷹がずいぶん立ち回ったみたいね。表彰や金一封が出る話も全部潰してるの」
偶然とはいえ、リンは闇オークションの実態を明らかにするため、大きな貢献をしたことになります。その栄誉をたたえて表彰と金一封をという話がでたそうです。騒ぎの中にリンがいることを良しとせず、高時と通鷹は栄誉と金一封を断ってしまいました。もしも受け入れていれば、リンは英雄のような扱いを受けたかもしれません。
「まあ、リンさんのこと恨むやつらもいるかもしれないしな」
「ええ、だから、私もほっとしてるの。あまり関わらない方が良いわ」
ショウの脳裏で銀髪が揺れます。高時や通鷹、ハクトがリンにあれこれ世話を焼く様子をどこか面白がっていましたが、笑いごとではないなと気がつきました。
「なんか、リンさんのこと心配になってくるな」
思わずこぼすと春の女神がふふっと笑いました。
「まあ大丈夫よ。今回だって大丈夫だったでしょ?」
「まあ、そうかな」
つられて笑うと風が吹きました。穏やかに流れる時間に心がほどけていきます。時間に追われ、しばらくこうした時間を取っていなかったことに思い至りました。自分も誰かに心配をかけているんだろうなと、目の前で笑う春の女神に微笑みました。
おわり
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