はじまり

天鳥そら

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はじまり11

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~対極~


「私、お母様のようになりたいわ」 

石畳の上を歩きながら、クローディアはぽつりと呟きます。 
王様をたててはいるものの、実質的にこの国を支えているのは、 
王妃様の力が大きいと感じていました。 

「お父様ってば、お母様に任せきりのような気がするのよ」 

「それは、どうでしょうか」 

王妃様のそばにいることが多いクローディアに、ソウは答えます。 
実際、ソウ王子は、父王に連れられてあらゆる家臣の元で 
学んでいます。 
町への視察も父王とだけではなく、実際に町役場で働く人たちとともに 
まわり、交渉も行います。 

ひとつの機関だけでなく、国を支える重要な機関から、 
もしかしたらとるに足らないような小さな部署まで自分の足で出向きます。 

父王のそばにいることの多いソウ王子は、クローディアの見方が、 
偏っているように思えました。 
言葉を選びながら、自分の考えを述べると、 
クローディアは思い切り顔をしかめました。 

「これだから、女はっていうのかしら」 

ぶすっとした表情のクローディアに、ソウ王子は苦笑します。 
王妃様に対して、あまりよく思っていない家臣の言葉でした。 

「そんなこと言っていませんよ」 

王様は、クローディアをとても可愛がっています。 
だからこそ、国の、王宮の影の部分にあまり触れさせたくないと 
考えているのをソウ王子は知っていました。 

そして、クローディアが大人しく父王の言うことを聞くような 
娘ではないということも、ようくわかっていました。 

二人で肩をならべて、お互いの意見を交し合っていた時、 
クローディアが石畳の小さな段差につまづきました。 

小さく声をあげて、転びそうになるクローディアをソウが支えます。 
そのはずみで、クローディアの靴紐がぷつりと切れてしまいました。 

「靴紐が…」 

怪我がなかったものの、紐のとれた靴で町を歩き回るのは困難です。 
ここは、一度王宮に帰りましょうと声をかけようとした時、 
クローディアが大きな声を出しました。 

「ソウ、靴屋よ」 

新しく綺麗な家々が立ち並ぶ中、まるで時代に置いていかれたような 
古めかしい一軒の店が目にとまりました。 

「ここで、直してもらいましょう」 

ソウ王子の返事も聞かずに、さっさと先へ進んでいきます。 
ソウ王子は、さりげなくそばについている護衛に目配せをしてから、 
クローディアの後をついていきました。 


つづく 
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