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はじまり34
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~少女~
その日、シキに夕食に誘われたものの、二人は断って
別荘に戻りました。
クローディアは、祭でシキと踊ってから、ずっと
気持ちが落ち着きませんでした。
黙っていると、何度も何度もシキの顔が思い浮かびます。
その映像を振り払うかのように、ソウに時計の話を
持ち出します。
「時計、どう思う?」
頬を高潮させているクローディアの様子におかしいと思いながらも、
ソウは口を開きました。
本物かはわからないけれど、おそらく本物であるだろうことと、
もう時計を詮索しない方がいいことを告げます。
「なんで?」
「彼も言っていたでしょう?」
気まぐれにしろ、なんらかの理由があったにしろ、
時計を預けたまま月日が経っています。
「あのまま、あの時計は靴屋に置いてあった方がいいんです」
これで、時計のことはおしまいですね、と結論付けた
ソウにクローディアが食い下がります。
「でも、私、あの時計のことをもっと知りたいわ」
勢い込んで言うクローディアに眉をひそめます。
今日、一日、ずっとクローディアの様子がおかしいのです。
「また、行って、シキに話を聞いてみましょうよ」
何か思い出すかもしれないわと、しつこく話し続けます。
普段から好奇心が旺盛なこの姫が、時計に興味を持つのは
わかります。
しかし、明らかにおかしい。
ぽかんとしながら、クローディアの話を聞いていて、
瞬時に閃きました。
「シキと、何か話したんですか?」
ソウは、何か確信があって言った訳でもなく、
ましてやそういう意味で言ったわけでもありませんでした。
それでも、シキという名前に真っ赤になって顔を伏せた
クローディアを見て、一瞬固まります。
いつから、クローディアは変だったのか。
それは自分とはぐれた祭りの最中でした。
クローディアの腕を強く握ります。
「クローディア、彼と何を…」
「…一曲踊ったわ」
その言葉で、すべてを理解したように思えました。
おそらく本人も自覚がないのでしょう。
クローディアは、靴屋の主人に恋してしまったのです。
「ソウが、心配してるとは思ったけど…でも、」
「帰りましょう」
ソウのぴんと張り詰めた声に、クローディアは目を見開きます。
知らぬ間に、自分は何か、まずいことでもしてしまったのでしょうか。
「ごめんなさい。でも、私、シキと」
「なんですか?」
いつも優しい兄が、心底恐ろしいと思いました。
つかまれた腕が痛く、話すまでは離してもらえそうにありません。
「明日も一緒に踊ろうって約束したの」
クローディアの言葉にすっと体から力が抜けました。
目の前の、まだ幼さの残る少女になんと話したらよいものかと
ソウは深く息を吐きました。
つづく
その日、シキに夕食に誘われたものの、二人は断って
別荘に戻りました。
クローディアは、祭でシキと踊ってから、ずっと
気持ちが落ち着きませんでした。
黙っていると、何度も何度もシキの顔が思い浮かびます。
その映像を振り払うかのように、ソウに時計の話を
持ち出します。
「時計、どう思う?」
頬を高潮させているクローディアの様子におかしいと思いながらも、
ソウは口を開きました。
本物かはわからないけれど、おそらく本物であるだろうことと、
もう時計を詮索しない方がいいことを告げます。
「なんで?」
「彼も言っていたでしょう?」
気まぐれにしろ、なんらかの理由があったにしろ、
時計を預けたまま月日が経っています。
「あのまま、あの時計は靴屋に置いてあった方がいいんです」
これで、時計のことはおしまいですね、と結論付けた
ソウにクローディアが食い下がります。
「でも、私、あの時計のことをもっと知りたいわ」
勢い込んで言うクローディアに眉をひそめます。
今日、一日、ずっとクローディアの様子がおかしいのです。
「また、行って、シキに話を聞いてみましょうよ」
何か思い出すかもしれないわと、しつこく話し続けます。
普段から好奇心が旺盛なこの姫が、時計に興味を持つのは
わかります。
しかし、明らかにおかしい。
ぽかんとしながら、クローディアの話を聞いていて、
瞬時に閃きました。
「シキと、何か話したんですか?」
ソウは、何か確信があって言った訳でもなく、
ましてやそういう意味で言ったわけでもありませんでした。
それでも、シキという名前に真っ赤になって顔を伏せた
クローディアを見て、一瞬固まります。
いつから、クローディアは変だったのか。
それは自分とはぐれた祭りの最中でした。
クローディアの腕を強く握ります。
「クローディア、彼と何を…」
「…一曲踊ったわ」
その言葉で、すべてを理解したように思えました。
おそらく本人も自覚がないのでしょう。
クローディアは、靴屋の主人に恋してしまったのです。
「ソウが、心配してるとは思ったけど…でも、」
「帰りましょう」
ソウのぴんと張り詰めた声に、クローディアは目を見開きます。
知らぬ間に、自分は何か、まずいことでもしてしまったのでしょうか。
「ごめんなさい。でも、私、シキと」
「なんですか?」
いつも優しい兄が、心底恐ろしいと思いました。
つかまれた腕が痛く、話すまでは離してもらえそうにありません。
「明日も一緒に踊ろうって約束したの」
クローディアの言葉にすっと体から力が抜けました。
目の前の、まだ幼さの残る少女になんと話したらよいものかと
ソウは深く息を吐きました。
つづく
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