はじまり

天鳥そら

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第二部 はじまりは美しい9

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~娘~


「さて、それで?君は手放す決心をしたのかい?」 

ひとしきり笑った後、屋敷の主人は尋ねました。 

友人は、少し情けなさそうな顔をしていましたが、すぐに表情を改めました。 
眉間に皺を寄せて、あらぬ方をみています。 
空になった友人のカップにお茶を注ぎ、穏やかに語りかけます。 

「あなたが、後生大事に握りしめているものは、それほど価値があるようには思えないよ。」 

窓の外から小鳥のさえずりが聞こえます。木漏れ日がさしこんで、爽やかな朝であるはずなのに、
部屋の中は重く垂れ込めた空気が漂っていました。 

「わかってはいるんだが…。」 

カップの中の柔らかな緑の色彩を眺めます。 
カップを持つ手に力が入り、ぎゅっと握りしめています。 

まるでカップを手放してしまえば、たくさんの災いが降りかかるのではないかと
恐れているように見えました。 
黙りこんでしまった友人に、ため息をついて話題を変えました。 

「ルエラは、うちで預かろう。」 

「ルエラを?」 

「あの屋敷にいない方がいい」 

屋敷の主人の申し出に、少し迷うように視線を泳がせました。 
けれども、この問いに答えるのに、それほどたくさんの時間はいりませんでした。 
大きく人気のない綺麗な屋敷の中で、何をするでもなくぼんやりと過ごす娘の顔が思い浮かびます。 

「…娘をよろしく頼む」 

うなだれて言った友人に、苦笑しました。 

「もう一つの決断もそれくらい早いといいんだけどね。」 

もう、あまり時間はないよと落ち込んでいる友人に、追い討ちをかけたのでした。 


つづく
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