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【初級者 編】
浪漫と極み
しおりを挟む「そう? そうしてもらえると助かるよ。信用できるひとじゃないと僕も困るからね。君たちの知り合いなら問題なさそうだ」
ふたりの言葉を聞いて、安心したような表情を見せるバリュート。NPCキラーとは、主にプレイヤーがする行為を指すのだから、素性も知れぬプレイヤーに護衛を頼むのは愚策であり危険。
それはNPCキラーを行った前科がないプレイヤーでも、繋がりを否定できないからである。
PKやNPCキラーを一度でも行ったプレイヤーは、罪人としてギルド会館へ登録される。
たとえ使用不可制限の期間が終えたとしても、前科のあるプレイヤーは信頼度を求められるクエストを制限されてしまう。
NPCを誘き寄せるため、まだ制限されていないプレイヤーを用いてクエストを受注し、依頼したNPCを誘導して全てを奪う。受注したプレイヤーがNPCに手を出さなければ罪人とはならず、全くの無罪となってしまうのだ。
実のところこれは仕方のないこと。罪人に制限があるからこそ、一度でも罪を犯したものは再び更生することを選ばず、悪業に手を染め続ける。
そしてこの世界でプレイヤーが罪人となっても、制限されるだけで牢獄へ入るわけでもなく、また死罪になることもないのだから……況してや制限されることに腹を立てる者のほうが多数派。
罪の意識は無に等しい。
ベニネコはログアウトを行い、現実世界のチキンと力士山へ連絡をとり、今からゲームへログインできるか尋ねる。
チキンは夏休みの課題に大忙し。ただ面倒だと後回しにしたツケが回ってきたのだが、ベニネコの迫力におされ「ごめんなさい」を連呼しつつ承諾。
そして力士山は「秋葉原で相撲と萌えのコラボイベントがあるから無理っす」などと、訳の分からぬことを言い腐って拒否した。
ベニネコがログインして戻った頃、チキンは既に広場へ来ていてが、来たばかりなのか肩で息をしながら「間に合ったよね?」とベニネコの顔色を伺う。
詳細は不明だが、脅迫にも似た言い回しでチキンを急がせたのであろう。
「お、驚いたな……チキン君が来るなんて思ってもいなかったよ」
こう、バリュートが目を丸くして話す仕草から、どうやらチキンを知っているらしい。
ベニネコはさっそく力士山が来れないことやチキンへ詳細を伝え、あと一人信頼できる者を模索。
「力士くんが来れないなら他の人しかいないよねー。ねえ、どしよ?」
「NPCキラーなんぞ、俺様ひとりで余裕のよっちんイカなんだが?」
「依頼人の言うことは……絶対。だから……です」
「はははっ。すまないね。もちろんチキン君の強さは知っているつもりだけど、僕はとても臆病なんだよ」
ゲーム世界に来たチキンは傲慢ではるが人気者。
突然豹変したチキンをバリュートは知る由もなく、名声が高いこともあり頼りにはしている様子。因みに『よっちんイカ』は税込み三三円で購入可能な、大人にも愛される現実世界の駄菓子である。
「そうだよー チキン。変なことばかり言ってると、謝罪モードのスイッチいれちゃうんだからねー!」
「あ、うん。ごめんなさい」
「チ、チキン君を黙らせるなんて……べ、ベニネコちゃんは凄いコなんだね」
「……」コクリ
プレイヤーからの人気は高く、チキンの名はNPCであるバリュートの耳にも届くほど高名と言えよう。
そのチキンを黙らせるのは、現実世界を知らないバリュートにとっては驚くべきことなのだ。
「とりあえず、あとひとりなんだけどー。お兄さんの好みとかあるのー? あ、お兄さんが女の子好きなのは知ってるから。そうじゃなくて職種とかだからね?」
「ベニネコちゃん、痛いとこついてくるね。お兄さん年甲斐もなく泣きそうだよ。そうだな……出来れば回復してくれるひとがいいかな? 更に女性なら言うことないんだけどね?」
「「う、うん(です)……」」
ベニネコやレイカには、バリュートの女好きがとっくに知れている。
彼は回復職を希望し、更には女性を求めるのだからベニネコとレイカは多少なり引き気味。
しかし、しかと地を踏みしめ力強くバリュートへ歩み寄ったのはチキンだ。
ふたりは互いに真剣な眼差しで暫し見つめ合うと――
「兄貴……」
「チキン君……」
こう言った後、高速移動にて謎の触れ合いを始めた。
「「ヘイ、へい! ホイ、ほい、
ハイ、はい、ソォイ、そぉい、
セーイ、せぇぃいいいい!!」」
物凄いスピードで、手のひらを合わせたり、腰を合わせたり、お尻を合わせたり……そして言ってしまう――――
「「”ヘェアラァムッ!!”」」
((……なんだ(です)コレ))
肘と肘をも重なり合う、堅い握手。
熱い。
「ハーレムは男の浪漫だぜ、兄貴ッ!」
「その通りだよチキン君。ハーレムとは、即ち女体好きの極み。君とは気が合いそうだ……だがしかしっ! 君の存在は邪魔でもある」
「へへっ。じつは俺様も同じことを考えていたところ。もちろん消えるのは兄貴のほう……だぜ?」
全力で腕相撲をしているかのように拳に力を込め、プルプルと振動する熱い闘い。真意には触れないが、ふたりは良い汗をかいている。
それを見兼ねたベニネコは呆れたような仕草で言う。
「お二人さんは、仲が良いのか悪いのか良く分からないけどー。とにかく回復職欲しいってことでいいんだよね?」
「「!!?」」
ベニネコを恐れているのか即座に反応し、奇妙な馴れ合いを解くふたり。
「はあ、はあ……どうやらチキン君とは、同じ志を持った永遠のライバルとなりそうだね。その志に敬意を払うよ」
「ゼェ、ゼェ……いくら兄貴でも、ここは譲れねえ。だが、強かったぜ兄貴ィ」
「あのー……」
精魂尽き果てたのか、チキンとバリュートはたいそうご満悦した様子で互いを称え合う。
「いや、失礼した! ベニネコちゃんの言う通り回復職でいいよ。誰かいるかい?」
バリュートの要望は回復職であり、希望は女性だが限定しているわけではない。皆、いろいろと考えてはいるが結局思いつく人物はただひとりであった。
その人物とは……――
「「「マイコ(ちゃん)ッ!」」」
と、バリュート以外の三人は声を合わせて言った。
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