七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

文字の大きさ
46 / 53
【初級者 編】

手紙

しおりを挟む
「ちと遅れたが、今後の話をする前に、この手紙の送り主を知っておかねばならぬの」

 ゼンキは、こう言って米子へと手紙を差し出す。
 その手紙を受け取り封筒の裏を確認すると、書き記された名前は、米子の良く知る人物であった。

「え? これって」

 手紙の送り主は『リーザ』である。

「そうじゃ。その手紙は儂宛でもあるが、お主のために送られてきた――と、言うたほうが正しいじゃろう」

 リーザは米子の安否を気遣い、手紙をタッタ村へ送った。

 米子がタッタ村にいると知れたのは、普段から嘘を付かない米子なら、必ず森へ向かったと信じて、このタッタ村に居るのではないかと予想。

 これはベニネコとトークした際、ベニネコが『米子と会えなかった』と、聞いたことを含む。

 そして、プレイヤーであるリーザがタッタ村のことを知っているのは、幻惑魔法用のアイテム製作を行っているから。

 タッタ村で使用する幻惑魔法は、諸事情が複雑に絡んだアイテムを使用しなければならない。

 その全ての事情を話さなければ、まず製作を断られてしまうであろう危険なものであり、その製作難易度は高い。
 製作を可能としたのはリーザの力量だが、リーザ以外にも製作を可能とするものは存在する。しかし、製作者は住み人にとって信頼できる人物と限定される。

 これは村の秘密を厳守するための必須条件。

 タッタ村の存在を守る理由は多々あるのだが、ひとつだけ言うならば『この村は己の居場所を失った難民が集まる村』だからである。

 リーザは住み人の事情を聞いていたからこそ、タッタ村の場所を知っていたのだが、このリーザとは住み人たちにも信用されているのだろう。

「では、お聞き。突然の話となろうが、お主は暫くのあいだ始まりの街へ立ち入ってはならぬ。転送陣が使えぬ以上、移動が困難なプレイヤーは街に留まり続けるじゃろう。それゆえに危険なのじゃ」
「わたしが住み人だから、ですね。けど、これから何処へ行けば……」

 米子は不安な気持ちから一寸ほど肩を落とす。

「マイコや、話はここで終わらんぞえ。そのこともリーザは考えておる。安心せい」
「はい……」
「まずは、この村で夜を待ったのちサーパスへ向かうとエエじゃろう」
「サーパス、ですか?」

「ふむ。今晩、創造主様がこの世界の改変を行うらしい。つまり、改変を行っている時間帯はプレイヤーがおらぬゆえ、お主ひとりでも安全にサーパスへ辿り着けるということじゃの」

 『改変』とは、プレイヤー側で言うアップデートのことを指す。

 ゼンキの言葉をプレイヤー側として要約すると『本日の夜アップデートが行われるため、プレイヤーは強制ログアウトを虐げられる。そのアップデート作業中はプレイヤーが居ない。つまり、住み人は安全であろう』と、なる。

「なるほど。では、そのサーパスからはどうすれば良いのでしょうか?」
「サーパスへ着いたら、儂の知り合いを訪ねるのじゃ。改変後、お主の知るベニネコとかいう者に、そこへ向かわせるよう手筈を整えておくでの」

 ゼンキが待ち合わせ場所をサーパスと指定したのは、ベニネコ含むパーティーがサーパスへ向かっているから。

 リーザは手紙でこれを知らせ、彼女の考えからサーパスと言った。

 それは現時点で転送陣が使えないことを踏まえ、サーパスへ向かったベニネコたちは、始まりの街へは本日中の移動は不可能だと察したからである。

「ベニネコさん、かぁ。はい、お願いします!」

 米子はベニネコを思い出し、懐かしさや嬉しさから緊張感は薄れ、顔も綻ぶ。

「ふむ。そのベニネコとやらは、信頼のおける者らしいのう」
「あ、はい。ベニネコさんが、わたしをどう思っているのかは分かりません。それでも、わたしは信頼できるかた……友達と、思ってます!」

 ベニネコは信頼のおける人物。
 そのような人物など他にもいる。
 今目の前にいるゼンキそのひとり。
 そう思う米子はベニネコを特別に思い、友達と言い換えた。

「ならば、問題は無さそうじゃの。して、本来の目的はその者と合流することではないぞえ。お主の目指す場所は、サーパスから東へと半月ほど馬車で向かった先にある都じゃ」
「そこってアルメキア王都、ですか? なぜ、そのような所まで……」

 『アルメキア王都』とは、東の国にあるアルメキア王国の主要都市である。

「そんな事は決まっておろう。お主自身がクエストを終えてくるのじゃ。今回のクエストは、転送陣を封じた首謀者がその都へおると思って、まず間違いないじゃろう」

 ゼンキの言葉は、勘などではなく根拠があって言ったこと。
 それを信じていない米子ではないが、自身の強さは良く知っている。

「え? 転送陣が使えなくなるような大規模クエストを、わたしにクリア出来る……と、でも?」

 これは、米子の実力ではクエストのクリアは不可能だとの考えから言った。
 生半可な実力でクリアできるほど甘くはない、今までにないような大規模なクエストなのだから。

「マイコや。お主は自身の力を、少し勘違いしておるようじゃの。ホロウを取り込んだ者は、例外なく強大な力を持っておる。お主は未だ、その力を引き出せてはおらぬようじゃがのう」

 同じ境遇の者とされるハザマが、プレイヤーが恐れ戦くほど強者だという事は分かる。
 しかし、ハザマとの戦闘力差は天と地に位置するほどだ。
 米子は、どう考えてもハザマに近づける気にはなれなかった。

「そんな、わたしが強大だなんて恐れ多い……です。一カ月ほど戦闘を繰り返しましたが、それほど強くはなれませんでした。たかが半月で強くなれるのでしょうか?」

 それでもゼンキは何かを感じとっているのか、米子の気持ちとは裏腹に自信に満ちた表情を浮かべ言う。

「なれる。 ――とは言えぬが、強き者と同行し、旅をすれば自ずと道は開けるものじゃて。そのためにも都へは行かねばならぬの?」
「王都へ行けば、わたしは何か変われる? ……ので、しょうか?」

 アルメキア王都へ行くことは、米子にとって重要なこと。
 そんなことを、ゼンキが言ったような気がした。

「ふぉっふぉっふぉっ。それは都へ着いてからのお楽しみじゃて。苦行じゃが頑張れよ、マイコ。まあ出発は夜じゃ、それまではこの村でゆっくりと身体を休めてから向かうとエエぞい」
「はい。では、そうさせて頂きます」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...