勇者として召喚されましたが、魔王になります。

雪蟻

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第二幕

お前との契約を破棄する! ちょっと待ったあ!

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各自の持ち場に私が転移させる。
魔力は一気に溜め込んでおいたから大丈夫。
周りから、どんだけ食べるんだと怒られたけど。
「さあ、黒姉さんやってしまいましょう」
「行ってきな、ここはあんたの森になってるんだろ? なら、私でも精霊王とやりあえるさ」
さあ行くぞー!
と、勢いづけていた私に、グサリとささる言葉が飛んできた。
『あら? 何でわたくしの前に現れているの? とっとと消えてくれる?』
私の半身、全てを受けいれたのに、酷い言われようである。
泣きたい。
「……ムカつくね、今のお前があの子に声をかけるなんて許せないね、ほら、アイナ! さっさと行きな! やる事があるんだろう?」
正直、かなり辛かったけれど、前を向く。
振り返らない。
「任せます!」
黒姉さんを信じて任せる。
私は、この戦況を打開しないといけないのだから。

「ほう、小さき者が来たか。勇気と無謀は違うぞ?」
「来たれ森の巨人。汝、我が敵を潰す暴威となれ」
フェリーシア様の所に2体。
黒姉さんの所に1体。
ミアの所に1体。
そして、私のところに1体。
「ほう、トレントゴーレムか。愉快愉快、そのような木屑で我と戦うつもりか、良いぞ、身の程を教えてやろう」
言うが早いか、トレントゴーレムを消え去った。
ブレス1発でやられるとは情けない。
ねぇ? 聖龍さん?
あなた、私の支配領域に入ったまま戦うなんて、身の程を知りなさいよ。
ここは、私の森だと言うのに。
「何が起き──」
「美味しかったわ。なかなか、良い魔力ね」

ー生命魔法ー
生きとし生けるものが持つ生命力を魔力に、または魔力を生命力に変換する魔法。
※人間でも持っている、さほど珍しくはない魔法。
私の場合規格外になるほどの力があるけれど、生命魔法を扱えるものには、この魔法の対象にならないから、ほとんどの相手に使えない。
本来なら。

「生命魔法がなんで、龍に効くのかな?」
「なんで、あなたに教えないといけないの? どうせ、同じ末路にな──」
「えっ? ならないよ? だって、ここは僕の領域だもの」
ミスった……。
「ふふ、お嬢さん? いいかい、僕は勇者だ。この世界に平和をもたらす存在だよ? 君はまだ僕のことを知らなかったからこんな、間違いを犯してしまった、でも安心して欲しい、今からでも遅くないんだ、さぁ共に戦おう」
頭が痛い、間違っているって分かってるのに心が支配されていく。
これが、対象を1人に絞った本気のスキル行使。
滅多に使わないのだろう、発動条件が厳しいはずだ。
身体が、心が、彼を求める。
捧げたいと思う。
ああ、ここまでされたから捨てられたならもっと諦めがついたのに。
「僕の魔力を受け入れて」
そうして、私は酷く甘ったるい口付けをされた。

「あなたを受け入れるほど、私は愚かじゃない」
私の森が起動する。
「危ないなー、だめだよこんなことをしちゃ」
脳が痺れる。
心がざわつく。
あー、鬱陶しい。
でも、やっと聖龍の魔力が馴染んだ。
そして気づく、私男の人に触られるの肌に合わないかも。
「油断しましたが、もう効きません。私も似たようなスキルを持っているので」
誤認。
初めて、正常な状態に認識し直すなんて誤認をかけた気がする。
「へぇ、でもね、僕のスキルは魂にまで刻まれる。僕が解かない限り、君は一生僕を欲するよ」
悔しいけど、現状その通りだろう。
誤認が解けたら、間違いなくそうなる。
幸い、正常な状態というのは違和感なんてないから何とかなるけど、ふとした瞬間に持っていかれそうなぐらい危険な状態ではある。
「ええ、悲しいことに多少のエクスタシーを感じるぐらいには、あなたを欲する自分がいます」
でも、揺らいでなるものか。
こんな変態に、奪われるだなんてごめんだ。
「その熱に任せればいいんだよ、精霊は移ろいやすいものさ。そうだろう? アデリシア」
不覚ながら、完全に虚をつかれた。
危うく、抵抗を忘れるぐらいには、衝撃の一言だったのだ。
だって、その名前は、私の、私にとっての、譲れない名前。
「なん、でよ。なんで、そんな簡単に開け渡せるのよ……」
その名前は、私の契約精霊であるはずの、精霊王の真名だった。
『え、だってあなたはわたくしの邪魔してくるから、いらないでしょう? だったら契約を破棄して、彼に教えるのが筋じゃない?』
そっか、あいつが呼んだ時点で発動するようにしてたんだ……
だから、今こんなにも空虚な気分なのだろう。
ぶん殴って、怒って、それでまた話し合おうとか思っていたのに、こんなにも簡単に捨てられるものだったんだ。
「もう、いいや」
そうして、私は奥の手を切った。
ー魔王(継承者)ー
魔族の王たる証、継承者は魔の王として君臨する。
あらゆる魔法に関して強い抵抗を持ち、魅了や洗脳に対し完全なる耐性を手に入れる。
生来スキルに対応して、得意な魔法を作り上げる。
※私の場合は誤認。
だから、認識を歪める魔法を使える。
と言ってもそんな便利なものじゃない。
閉ざされた空間内において、一つだけ感覚を狂わせられるだけだ。

ー無色の魔眼ー
7種類の効果を有した魔眼を魔法として発動できる。
※普段は白いから効果が出ない。
魔力を込め、色を変えることで、魔眼を発動する。
視界に入らないと使えないという欠点はあるが、補ってあまりあるほど、強力な効果を持つ魔眼である。

「蝕の魔眼」
効果は、視界に映る全てを魔力へと変換し、取り込む。
注視することで、目標を絞り込める。
私の奥の手の1つ。
魔力を無限に取り込める私にとって、ある意味で最強の攻撃方法。
弱点は、敵味方を区別しないから、危険極まりないというのと、発動するだけで莫大な魔力を消費すること。
つまり、事前にかなり溜め込んでいないと魔力が足りなくて、枯渇死する。
「お前ごときの保有魔力じゃ対抗できないよ。そして、もう私にお前のスキルは通用しない」
「僕は、世界を──」
消え失せろ。
『あら? わたくしも巻き込むの?』
「……いいえ、でも、殴り飛ばします」
魔眼を切って、本気で殴る。
『痛っ、ちょ、待って、話し合いま、ごふぇ』
ふん、私の怒りを知ればいいんだ。

「契約は破棄したんだね」
「いえ、破棄されました」
黒姉さんと再度合流した。
幸い、大した怪我もしていなかったようなので、良かった。
「そうかい、なら遠慮はいらないね、叱られてきな」
黒姉さんが何かの魔法を使ったのだけは分かった。
「え、あの! どこに飛ばしたんです」
「落ち着きな、私の知る精霊王のとこだよ。精霊王とはどういう存在なのか勉強させに行っただけさ。まったく、妬けてくるね」
良かった。
やっぱり、私の半身だからどうしても本当の意味で嫌いになれない。
って、ん? 妬ける? 黒姉さんが?
「そうだ、ちょっと贈り物をしてあげようかね、じっとしてな」
「黒姉さんが私にですか? んー、手短にお願いしますね。ミアの方だけ不安なので」
言われた通りにじっとしていたら、首の辺りが温かくなったので、触れてみた。
「あれ? 黒姉さんこれなんです?」
「大したものじゃないから安心しな。ほら、不安を解消しに行っておいで」
いや、その、これ首輪だよね?
なんで、黒姉さんが私に首輪?
御守りの1種だと思うんだけど。
「因みに、それは私の使える唯一の加護の魔法だから、感謝するんだね」
「見た目はちょっとどうかと思いますけど、ありがとうございます。どういった効果なんですか?」
やっぱり御守りの1種か。
良かった、何か変な意味かと思ってたよ。
「私が許可しない限り、あんたと同格までの精霊は一切あんたと契約できなくなる代わりに、私があんたの力になるよ。どんな時でも、求めてくれるならね」
「え?」
「ちなみに、真名はアリアだから、覚えときな」
ちょ、なんてことしてくれるの!
戻ってきた時に改めてアディと真剣に話し合ってからとか思ってたのに!
「黒姉さん! 解除して! 黒姉さんの事は好きですけど、そういうのじゃ」
「あんたが泣かなくて済むなら、解除してやるよ」
あっ、無理。
アディと一緒にいる限り、黒姉さんに泣きつく気がする。
「さあ、行っておいで。本契約ってわけじゃない。私は正確には精霊ではないからね。でもね、親和性ならアイナほど高い相手はいないんだよ。そう言えば、アイナなら分かるだろう?」
ずるい、それずっと私の事見守って、我慢してたってことじゃない。
「……それは、変質する前からですか」
「そうだね、変質する前から驚くくらい高い親和性があったよ。そして、今は高いなんてものじゃないね。アイナを超える存在とは二度と出会うことは無いよ」
諦めてなんて言えない。
アディは私じゃなくてもいいと思う程度の親和性。
高くても、別に他に探してもいいと思える程度。
それが、黒姉さんは私を超える親和性なんて見つからないと。
いずれ精霊になる私からしたら、それがどれだけの出会いなのか想像が着いてしまう。
「アリア様、私の気持ちはまだ変わっておりません、アディとの未来を望んでおります。ですが、またアリア様が許せない事で私が泣くことがあったら、私を持っていってください」
「……あんたは泣くよ。間違いなくね。だから、貰っていく。誰にも譲らない、その首輪はそれまで外さないよ」
うん、きっと泣くんだろうなって思ってる。
さて、行こう。
ミアが心配だ。
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