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第三章
第27話 ヴァルクリスチームの暗躍 その1
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魔王フェリエラから教えてもらった内容では、現状およそ三分の一程度の領地が滅んでいるようであった。
近辺では、ここバジェル伯爵領と接しているビーレット男爵領、セリュール準男爵領はもちろん、さらに隣のゼガータ侯爵領、リハリス子爵領も滅亡しているようだ。
ハーズワート公爵領、フィアローディ侯爵領はなんとか持ちこたえている。
そして今回は、大陸の内陸部が壊滅的ダメージを受けている様子だった。
俺は、フェリエラに言われた通りにチェックを入れた地図を改めて見る。
内陸部を中心に広がったバツ印。
しかしその中に、明らかに絶望的に魔物の領地に囲まれているのに、持ちこたえている領地がある。
そこには確実に聖女か魔法使いが居るはずだ。
サンマリア男爵領とフィアローディ侯爵領。この二つは周辺領地が滅んでいるのにも関わらず持ちこたえている。
そして確実にクロなのは、ヴィエリディア伯爵領である。
ちなみにここは元ランドラルド伯爵領だ。後にどっかの公爵家の次男だか三男だかが領地をもらい受けたらしい。
ヴィエリディア伯爵領は、南西のガルダ準男爵領、未復興のままになっていた、南の元ジャドニフ子爵領、そして西のポージャ子爵領と、周辺全ての領地が滅んでいる。完全孤立にも関わらず生き残っているのはやはり、そういう事なのだろう。
そこで俺は、二手に分かれて、情報を集める事にした。
チーム分けは、俺とドーディア、ミューとバルガレウス。
ミューたちのミッションは、ここから東に向かい、フィアローディ侯爵領、サンマリア男爵領、そしてヴィエリディア伯爵領にいる可能性が高い魔法使いの実態を探って来ること。
もしも聖女だった場合は非常に危険だが一応対策は取ってある。
もしもこの三領地に隣接するどこかの領地が奪還された場合、そこには聖女がいる可能性が高い。
それらの奪還情報は、フェリエラから念話で幹部魔物の二人に届くので、そう言った情報が入り次第、すぐにそこから撤退すれば良いのである。
ちなみに、魔法の扱いが不得意なバルガレウスとゲージャは、念話は受信しか出来ないらしい。
まあ、一方通行でもフェリエラからの情報を共有しておけば、そこまで危険な状況に陥ることは無いだろう。
もちろん、その三領地以外の奪還情報が入れば、逆にその隣接領に聖女がいる可能性が高いので、ミューたちは安全である。それと同時に、こちらも動きやすくなる、と言う訳だ。
そう、俺とドーディアのチームは、ここより北に向かい、王都に近くの地域で情報収集をしつつ待機。聖女の情報を待つ。
なぜなら、聖女は必ず王宮に向かうからだ。
そして……。
俺はそこで聖女と接触を図る。
そういう作戦なのである。
「ミュー、少しのお別れになってしまうけど、大丈夫かい?」
出がけに、ミューを引き留めて俺は言った。
いくら俺の提案だとは言え、俺と別行動を取ることをミューはどう思っているのだろうか。
「とても寂しいです。でも、今の私は坊ちゃまと共にこの世界を救う戦士の一人。私は、私の信じる坊ちゃまの立てた作戦を成し遂げたい、それだけです」
ミューの目に迷いは無かった。
心配した俺が愚かだったようだ。
「坊ちゃまは……その、大丈夫ですか? ……その」
迷いは無かったはずだったのだが、そう言って再び口を開いたミューは、少し不安と照れが入り混じったような表情になっていた。
馬鹿にするなよ。
俺にだってそろそろ女心ってものが少しは分かってきたところなのだ。
「大丈夫な訳ない」
俺はそう言って、少し目を潤ませながらもじもじしているミューをそっと抱き寄せた。
「だから、必ず成し遂げよう。聖女のルールブレイクを」
「はい」
「そして、その暁には……結婚して、一緒にカートライアで暮らそう」
「……はい」
ほんの少しの別れがこんなに名残惜しいとは。
お互いにかけがえのない人だから。
それももちろんあるだろう。
しかし、いまこの時空を超えた世界で、俺たちはたった二人きり。
ロヴェルもヒューリアも、エミュもフッツァもいない。
きっとその状況も、この心に拍車をかけているに違いなかった。
いつの間にか交わしていた口づけに勇気を貰い、俺たちは共に優しく微笑みあった。
そして、近い再会を約束して旅立ったのであった。
******
『全く、ヴァルクリスよ。そんなにミューの事が心配なら、お前がミューと二人で行けば良かったのではないか?』
うーん、すみません。
またドーディアにため息をつかれてしまった。
既に魔王城を出立して二カ月。
ハーズワート公爵領とグリメーズ侯爵領を抜け、俺たちは、アダワナ子爵領にいた。
「今のところ、聖女が王宮についたという知らせは無いようだな」
到着早々、王都周辺の情報を仕入れるために、そちらの方から来たらしき商人を探し出し、何とかそれを確認することが出来た。
『それにフェリエラ様からも何の連絡もないな』
「そうか」
そんな訳で、俺たちはひとまず前線の街の食堂でミーティング中なのである。
ドーディアは前線地域であれば、人間に化けて街に入れるので非常に動きやすいのが助かる。
「う、いやまあ、それはそうなんだが、この組み合わせがベストだからな」
『そうなのか? お前がそういうならばそうなのだろうが……だったらせめて、腹を括れ。お前が心配したところでどうにもならん』
いやあ、まさか幹部魔物に諭されてしまった。
しかも超絶ド正論で。
……いや、それにしても、だ。
始めはただの殺戮マシーンだと思っていた幹部魔物だったが、こいつらも話してみるとなかなかに人間味があるんだよなあ。
それにしても、こいつらも人間の食事は食えるんだな。
てっきり人の生肉しか食わないのかと思っていた。
俺がそのことについて尋ねると、ドーディアは不服そうに『別に食えるなら人間以外でも構わん』と言った。
『それにしても、ここに来るまでに、魔法使いの一人にでも会えるかと思っていたのだがな』
「確かに、俺もその可能性も考えてはいたが、いなかったものは仕方ないさ」
結局、ハーズワート公爵領にも、グリメーズ侯爵領にも、そしてここ、アダワナ子爵領にも、魔法使いらしき情報は入って来なかった。
幹部魔物であるドーディアの便宜上、前線を沿うように動かなくてはならない。ドーディアが、聖女の決めたルールを破れない以上、いきなり内陸に行くことは出来ないからだ。
そして当然、魔法使いがいるとしたら前線の街であると思われるわけで、つまりここまで出会わなかった以上は、その行程上に魔法使いは居なかった、と断言しても差し支えないだろう。
『なあ、ヴァルクリスよ』
「なんだ?」
『何故魔法使いを殺してしまうのは駄目なんだ?』
出立前に、ドーディアとバルガレウスにしっかりと言い聞かせたのだが、納得いってはいないようだ。確かに、理由までは説明してなかったしな。
ちなみに、「聖女以外の罪のない人間を殺すなんて、そんな事出来ないよ!」なんていう、クソ偽善的な理由なんかでは当然無い。
「聖女を倒すならば、その仲間を減らしておくというのは確かに有効かもしれない。しかし、それだともっと大きな問題が生じる可能性があるんだ」
『もっと大きな問題だと?』
「ああ。例えば、もしも魔法使いを全滅させたら、聖女は一人旅になってしまう。身近な仲間と友情ごっこをしたい聖女からすれば、そんな孤独な一人旅なんてまっぴらごめんだろう。
それにもしもそうなったら、思いもよらない行動に出てしまう恐れもある」
退屈した聖女が、旅や冒険といった行程を無視していきなり魔王城に乗り込んでこないとも限らない。一人で現れた聖女は、仲間の目を気にする必要がない分、恥も外聞も形式美も無く、最終魔法を連打するだろう。
それに、最悪自殺して、リセットしてしまう可能性だって否めないのだ。ルールを変えられるインターバルに、これ以降、一度でも聖女を戻すのは正直阻止したい。予測不能な要素を増やし過ぎるからな。
『なるほどな、あくまでも、聖女には気持ちいい冒険の旅をしてもらう必要がある、という事か』
「ああ、それにまあ、無理だとは思うが、魔法使いを利用する、という可能性もありうるしな」
『仲間に引き込む、というのか? そんなことが可能なのか?』
「いや、ほとんど不可能だろう。しかしまあ、人間や世界を憎んでいる者が魔法使いに選ばれないとも限らないしな」
いや、実際魔法使いを仲間にするのは無理だと思う。人間を恨んでいたスヴァーグだって無理だったんだから。
アイシャの聖女っぷりはそれくらい徹底していた。
でも、前回のルレーフェの時に俺は思ったのだ。
アイシャは確実に俺に好意を寄せていた。
あの時、もしも俺がアイシャに告白していればきっとそういう仲になったと思う。
では、もしも今回、聖女が魔法使いの誰かと恋仲になったりしたら?
その魔法使いを人質に取り、交渉に使うことも出来るかもしれない。
少なくとも、そいつを盾にすれば聖女は最終魔法をぶっ放しはしないだろう。
は? 悪役ムーブ、大いに結構だ。
相手は反則級のゲームマスターなのだ。
ともあれ、例え脅威になろうとも、聖女に出会う前の魔法使いを排除して回るのは得策ではない。
そういや、ミューたちは大丈夫だろうか?
フィアローディとサンマリア辺りはもう調べられたはずなのだが。
全く、バルガレウスが念話の発信を出来ないのはもどかしいぜ。
『ん!?』
突然、ドーディアが立ち上がった。
まさか、来たのか?!
『来たぞ! フェリエラ様からのお言葉だ』
まるで俺の念話が届いたかのようにドーディアが応えた。
俺は、息を飲んでその通話が終わるのを待った。
『奪還情報だ。お前が置いて行った地図でいうところの、内陸部の北東、〔ナーヴェ伯爵領〕が人間たちに奪還された、という事らしい』
……来たコレ!
奪還されたナーヴェ伯爵領と接している、生きている領地は二つ。
つまり聖女はそのどちらかにいる。
「ドーディア、直ぐにフェリエラに連絡を。『聖女はレバーシー伯爵領かトラジアーデ男爵領にいる。これをバルガレウスにも伝えてくれ』と」
『ああ、了解した』
よしよし、これでひとまずバルガレウスが出合い頭に聖女と遭遇してあっさりやられてしまうなんてことは無いだろう。
そして、レバーシー伯爵領と接している領地の奪還が終了した以上、近々王都に向けて出立するに違いない。
後は、レバーシーから向かってくる聖女とすれ違いにならないためにも、隣のゾマリシア伯爵領の東端に移動して、そこで……。
あ、そうだ。
「そういや、ドーディアはどんな姿にでもなれるんだよな?」
『ああ。あまりに大きすぎるものや、小さすぎるものは無理だがな』
ドーディアさん! なんて便利なんだ。
「じゃあドーディア、可愛らしい少女に変身してくれる?」
『……は?』
(第28話 『ヴァルクリスチームの暗躍 その2』 へつづく)
近辺では、ここバジェル伯爵領と接しているビーレット男爵領、セリュール準男爵領はもちろん、さらに隣のゼガータ侯爵領、リハリス子爵領も滅亡しているようだ。
ハーズワート公爵領、フィアローディ侯爵領はなんとか持ちこたえている。
そして今回は、大陸の内陸部が壊滅的ダメージを受けている様子だった。
俺は、フェリエラに言われた通りにチェックを入れた地図を改めて見る。
内陸部を中心に広がったバツ印。
しかしその中に、明らかに絶望的に魔物の領地に囲まれているのに、持ちこたえている領地がある。
そこには確実に聖女か魔法使いが居るはずだ。
サンマリア男爵領とフィアローディ侯爵領。この二つは周辺領地が滅んでいるのにも関わらず持ちこたえている。
そして確実にクロなのは、ヴィエリディア伯爵領である。
ちなみにここは元ランドラルド伯爵領だ。後にどっかの公爵家の次男だか三男だかが領地をもらい受けたらしい。
ヴィエリディア伯爵領は、南西のガルダ準男爵領、未復興のままになっていた、南の元ジャドニフ子爵領、そして西のポージャ子爵領と、周辺全ての領地が滅んでいる。完全孤立にも関わらず生き残っているのはやはり、そういう事なのだろう。
そこで俺は、二手に分かれて、情報を集める事にした。
チーム分けは、俺とドーディア、ミューとバルガレウス。
ミューたちのミッションは、ここから東に向かい、フィアローディ侯爵領、サンマリア男爵領、そしてヴィエリディア伯爵領にいる可能性が高い魔法使いの実態を探って来ること。
もしも聖女だった場合は非常に危険だが一応対策は取ってある。
もしもこの三領地に隣接するどこかの領地が奪還された場合、そこには聖女がいる可能性が高い。
それらの奪還情報は、フェリエラから念話で幹部魔物の二人に届くので、そう言った情報が入り次第、すぐにそこから撤退すれば良いのである。
ちなみに、魔法の扱いが不得意なバルガレウスとゲージャは、念話は受信しか出来ないらしい。
まあ、一方通行でもフェリエラからの情報を共有しておけば、そこまで危険な状況に陥ることは無いだろう。
もちろん、その三領地以外の奪還情報が入れば、逆にその隣接領に聖女がいる可能性が高いので、ミューたちは安全である。それと同時に、こちらも動きやすくなる、と言う訳だ。
そう、俺とドーディアのチームは、ここより北に向かい、王都に近くの地域で情報収集をしつつ待機。聖女の情報を待つ。
なぜなら、聖女は必ず王宮に向かうからだ。
そして……。
俺はそこで聖女と接触を図る。
そういう作戦なのである。
「ミュー、少しのお別れになってしまうけど、大丈夫かい?」
出がけに、ミューを引き留めて俺は言った。
いくら俺の提案だとは言え、俺と別行動を取ることをミューはどう思っているのだろうか。
「とても寂しいです。でも、今の私は坊ちゃまと共にこの世界を救う戦士の一人。私は、私の信じる坊ちゃまの立てた作戦を成し遂げたい、それだけです」
ミューの目に迷いは無かった。
心配した俺が愚かだったようだ。
「坊ちゃまは……その、大丈夫ですか? ……その」
迷いは無かったはずだったのだが、そう言って再び口を開いたミューは、少し不安と照れが入り混じったような表情になっていた。
馬鹿にするなよ。
俺にだってそろそろ女心ってものが少しは分かってきたところなのだ。
「大丈夫な訳ない」
俺はそう言って、少し目を潤ませながらもじもじしているミューをそっと抱き寄せた。
「だから、必ず成し遂げよう。聖女のルールブレイクを」
「はい」
「そして、その暁には……結婚して、一緒にカートライアで暮らそう」
「……はい」
ほんの少しの別れがこんなに名残惜しいとは。
お互いにかけがえのない人だから。
それももちろんあるだろう。
しかし、いまこの時空を超えた世界で、俺たちはたった二人きり。
ロヴェルもヒューリアも、エミュもフッツァもいない。
きっとその状況も、この心に拍車をかけているに違いなかった。
いつの間にか交わしていた口づけに勇気を貰い、俺たちは共に優しく微笑みあった。
そして、近い再会を約束して旅立ったのであった。
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『全く、ヴァルクリスよ。そんなにミューの事が心配なら、お前がミューと二人で行けば良かったのではないか?』
うーん、すみません。
またドーディアにため息をつかれてしまった。
既に魔王城を出立して二カ月。
ハーズワート公爵領とグリメーズ侯爵領を抜け、俺たちは、アダワナ子爵領にいた。
「今のところ、聖女が王宮についたという知らせは無いようだな」
到着早々、王都周辺の情報を仕入れるために、そちらの方から来たらしき商人を探し出し、何とかそれを確認することが出来た。
『それにフェリエラ様からも何の連絡もないな』
「そうか」
そんな訳で、俺たちはひとまず前線の街の食堂でミーティング中なのである。
ドーディアは前線地域であれば、人間に化けて街に入れるので非常に動きやすいのが助かる。
「う、いやまあ、それはそうなんだが、この組み合わせがベストだからな」
『そうなのか? お前がそういうならばそうなのだろうが……だったらせめて、腹を括れ。お前が心配したところでどうにもならん』
いやあ、まさか幹部魔物に諭されてしまった。
しかも超絶ド正論で。
……いや、それにしても、だ。
始めはただの殺戮マシーンだと思っていた幹部魔物だったが、こいつらも話してみるとなかなかに人間味があるんだよなあ。
それにしても、こいつらも人間の食事は食えるんだな。
てっきり人の生肉しか食わないのかと思っていた。
俺がそのことについて尋ねると、ドーディアは不服そうに『別に食えるなら人間以外でも構わん』と言った。
『それにしても、ここに来るまでに、魔法使いの一人にでも会えるかと思っていたのだがな』
「確かに、俺もその可能性も考えてはいたが、いなかったものは仕方ないさ」
結局、ハーズワート公爵領にも、グリメーズ侯爵領にも、そしてここ、アダワナ子爵領にも、魔法使いらしき情報は入って来なかった。
幹部魔物であるドーディアの便宜上、前線を沿うように動かなくてはならない。ドーディアが、聖女の決めたルールを破れない以上、いきなり内陸に行くことは出来ないからだ。
そして当然、魔法使いがいるとしたら前線の街であると思われるわけで、つまりここまで出会わなかった以上は、その行程上に魔法使いは居なかった、と断言しても差し支えないだろう。
『なあ、ヴァルクリスよ』
「なんだ?」
『何故魔法使いを殺してしまうのは駄目なんだ?』
出立前に、ドーディアとバルガレウスにしっかりと言い聞かせたのだが、納得いってはいないようだ。確かに、理由までは説明してなかったしな。
ちなみに、「聖女以外の罪のない人間を殺すなんて、そんな事出来ないよ!」なんていう、クソ偽善的な理由なんかでは当然無い。
「聖女を倒すならば、その仲間を減らしておくというのは確かに有効かもしれない。しかし、それだともっと大きな問題が生じる可能性があるんだ」
『もっと大きな問題だと?』
「ああ。例えば、もしも魔法使いを全滅させたら、聖女は一人旅になってしまう。身近な仲間と友情ごっこをしたい聖女からすれば、そんな孤独な一人旅なんてまっぴらごめんだろう。
それにもしもそうなったら、思いもよらない行動に出てしまう恐れもある」
退屈した聖女が、旅や冒険といった行程を無視していきなり魔王城に乗り込んでこないとも限らない。一人で現れた聖女は、仲間の目を気にする必要がない分、恥も外聞も形式美も無く、最終魔法を連打するだろう。
それに、最悪自殺して、リセットしてしまう可能性だって否めないのだ。ルールを変えられるインターバルに、これ以降、一度でも聖女を戻すのは正直阻止したい。予測不能な要素を増やし過ぎるからな。
『なるほどな、あくまでも、聖女には気持ちいい冒険の旅をしてもらう必要がある、という事か』
「ああ、それにまあ、無理だとは思うが、魔法使いを利用する、という可能性もありうるしな」
『仲間に引き込む、というのか? そんなことが可能なのか?』
「いや、ほとんど不可能だろう。しかしまあ、人間や世界を憎んでいる者が魔法使いに選ばれないとも限らないしな」
いや、実際魔法使いを仲間にするのは無理だと思う。人間を恨んでいたスヴァーグだって無理だったんだから。
アイシャの聖女っぷりはそれくらい徹底していた。
でも、前回のルレーフェの時に俺は思ったのだ。
アイシャは確実に俺に好意を寄せていた。
あの時、もしも俺がアイシャに告白していればきっとそういう仲になったと思う。
では、もしも今回、聖女が魔法使いの誰かと恋仲になったりしたら?
その魔法使いを人質に取り、交渉に使うことも出来るかもしれない。
少なくとも、そいつを盾にすれば聖女は最終魔法をぶっ放しはしないだろう。
は? 悪役ムーブ、大いに結構だ。
相手は反則級のゲームマスターなのだ。
ともあれ、例え脅威になろうとも、聖女に出会う前の魔法使いを排除して回るのは得策ではない。
そういや、ミューたちは大丈夫だろうか?
フィアローディとサンマリア辺りはもう調べられたはずなのだが。
全く、バルガレウスが念話の発信を出来ないのはもどかしいぜ。
『ん!?』
突然、ドーディアが立ち上がった。
まさか、来たのか?!
『来たぞ! フェリエラ様からのお言葉だ』
まるで俺の念話が届いたかのようにドーディアが応えた。
俺は、息を飲んでその通話が終わるのを待った。
『奪還情報だ。お前が置いて行った地図でいうところの、内陸部の北東、〔ナーヴェ伯爵領〕が人間たちに奪還された、という事らしい』
……来たコレ!
奪還されたナーヴェ伯爵領と接している、生きている領地は二つ。
つまり聖女はそのどちらかにいる。
「ドーディア、直ぐにフェリエラに連絡を。『聖女はレバーシー伯爵領かトラジアーデ男爵領にいる。これをバルガレウスにも伝えてくれ』と」
『ああ、了解した』
よしよし、これでひとまずバルガレウスが出合い頭に聖女と遭遇してあっさりやられてしまうなんてことは無いだろう。
そして、レバーシー伯爵領と接している領地の奪還が終了した以上、近々王都に向けて出立するに違いない。
後は、レバーシーから向かってくる聖女とすれ違いにならないためにも、隣のゾマリシア伯爵領の東端に移動して、そこで……。
あ、そうだ。
「そういや、ドーディアはどんな姿にでもなれるんだよな?」
『ああ。あまりに大きすぎるものや、小さすぎるものは無理だがな』
ドーディアさん! なんて便利なんだ。
「じゃあドーディア、可愛らしい少女に変身してくれる?」
『……は?』
(第28話 『ヴァルクリスチームの暗躍 その2』 へつづく)
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