めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞

マルシラガ

文字の大きさ
69 / 100
第三章 童貞勇者の嫁取り物語

ち、違うの。誰もそんなことは望んでないの、どうしたらわかってくれるの……

しおりを挟む
「さて、やって来ましたバーグマン侯爵領!」

「うおっ!? びっくりするじゃねぇか、いきなり大声を上げんなよお嬢。とうとう脳みそが弾けたか?」

 広い草原を貫く一本道を一台の箱型馬車がゴトゴトと車輪を鳴らして進んでいると、突然馬車の中から暴走メイドのナタリアが顔を突き出して大声を上げたので、今回の護衛役を引き受けたウェールズが御者席で心底面倒そうな顔をしながら突っ込みを入れた。

「失礼ね。私はいつだってマトモで常識のあるご令嬢よ」

「自分でご令嬢とか言うな。それから『マトモ』と『常識』を辞書で調べてみな。きっとお嬢は新しい発見をするはずだ」

「それはさておき「さておくな」さっき領境の標石を越えたからここはもうバーグマン侯爵領です」

「それがどうかしたか?」

「そろそろ具体的なプランを練っておくべきじゃないでしょーか?」

「お嬢にしてはまともな提案だな。しかし余計なことは考えなくていいぞ。むしろ考えるな。そして何もするな。俺が全部手配しておくからよ」

「手配って?」

「今回の目的は勇者のガキにハニートラップを仕掛けて、王女様が婚約を断る口実を作ればいいんだろ? んなら俺が夜の繁華街でプロのお姉さんを数人雇っていい具合にハメてやるさ」

「え? おじさんにそんな交渉なんて出来るの? おじさんが奥さん以外の女の人と喋ってるの見たことないけど大丈夫? 逆に夜のお姉さんにメロメロにされちゃうんじゃない?」

「お、俺をみくびるなよお嬢。俺だって若い頃は「あ、トンボ飛んでる! でっかい! あれオニヤンマ!?」だから人の話は真面目に聞けって!」

 ナタリアとウェールズを乗せた馬車はゴトゴトと草原の道を行く。

 ターゲットのいるのはバーグマン侯爵邸があるホワイトヒルだが、先に色仕掛けができそうなお姉さんを雇う必要があるので、馬車は領内屈指の繁華街があるアイアンリバーに向かった。



 一方、ナタリアを追いかけて王都を出たアルフラウル王女はバーグマン侯爵領までの間にあるオロローム子爵領の領主館(ナタリアの実家)に立ち寄った。

「これはこれは王女殿下。この度は災難でございましたなぁ。ですが大丈夫です、ウチの娘がしっかりと殿下の意を汲み取っていますからね。万事お任せくださいませ」

 王女を迎えに出たオロローム子爵の第一声で王女はナタリアがもう行動を開始しているのだと察して絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになった。

「あぁ姫様! しっかり!」

 今回の『ナタリア生け捕りツアー』に同行したメイド長のインジャパンが倒れそうになった王女を慌てて支える。

「おや、王女殿下は大層お疲れのようですな。王城ほど立派なものではありませんが当家自慢の客間でごゆるりと御休息をなさってください。ちょうど南方より取り寄せました銘茶が届いたところでして。気持ちの軽くなる作用もあるようですからぜひご賞味あれ」

 子爵は商人のように揉み手をしながらアルフラウルを屋敷の奥へ案内しようとするが、

「いいえ、ここで休んでなんかいられないわ。捕まえなきゃ、すぐにでもあの子を捕まえて連れ戻さないと絶対とんでもないことをやらかすわ、あの子は絶対やらかすわ。あぁ心配、すごくすごく心配……」

 王女は子爵のエスコートを拒絶してフラフラと屋敷の外に足を向けた。

「おや、殿下どちらへ?」

 まるで夢遊病のように頭を揺らしながら出ていこうとするアルフラウル王女にオロローム子爵が追いすがる。

「そのように疲労した状態で旅路を急いではよけいに体調を崩してしまいますぞ。当家でゆるりと旅の疲れを癒していかれてはどうでしょう。何も誇るところの無い当家ですが一族総出で王女殿下を歓待いたしますぞ。ささ、なんなりとお命じ下さい」

 子爵にはナタリアの他にも子はいる。ナタリアの姉二人と兄と弟だ。

 昨日王女が非公式にここへ立ち寄ると先触れの使者が来て、子爵はすぐ屋敷の大掃除を命じて、泊りがけの狩りに出かけていた長男を急いで呼び戻した。

 そして現在、長男にかっちりと盛装をさせて応接間で待機させている。

 子爵はこの機に王女と息子をしっぽり交流させて特別な関係にさせようとの腹積もりでいた。

 自分の息子を王女の婿にと望むのは貴族であれば当然のことでオロローム子爵にもその願望はあった。

 ただ、自家よりもはるかに格上の侯爵家や伯爵家が本気で争っている椅子取りゲームに参戦して勝てる自信がなかったのでオロローム子爵は最初から傍観を決め込んでいたのだ。

 しかしここにきて千載一遇のチャンスが飛び込んできた。

 そのチャンスを掴み取って来たのは家族の中で一番の問題児だったナタリア。

 人の話は半分も聞かないくせに誰よりも行動力があるせいで数々のやらかしを起こしまくるナタリアを子爵夫妻は厄介払い同然に王宮へメイドとして放り込んだのだが、歩く爆弾のような娘がとんでもないチャンスを運んで来た。

 娘の話によると王女はこの婚約をひどく嫌がっているらしい。婿に選ばれたイーノックが世間から『最弱勇者』だの『ヘタレ勇者』だのと半笑いで揶揄されているからだとか。

 ナタリアの説明では王女は婚約破棄を望んでいて、ナタリアは彼女の望みを叶えるべくこれからバーグマン領に潜入して暗躍するのだという。

 婚約破棄を成功させるための作戦名は『悪役令嬢』。

 これを成功させるだけでもオロローム子爵家は次代の王妃に大きな恩を売れる。

 さらに、王女がお忍びでやって来たこの機会を利用してイーノックを排除した後釜に自分の息子を捻じ込むことができれば万々歳! オロローム家は一気に王家の外戚にランクアップだ。

 オロローム家が栄光を掴むか、それとも鳴かず飛ばずのままで終わるかは今回の騒動をどこまで活用できるかに掛かっている!

 ――と、子爵は胸を高鳴らせていた。

「そういえば我が娘が勝手に殿下の元から勝手に離れてしまったようで申し訳なく思っております。不出来な娘に代わってお詫びします」

 子爵は下手な演技でわざとらしく深々と王女殿下に頭を下げた。

 子爵はこう考えている――、

 王女は立場上謀略に直接関与するのはまずい。だからあくまでも彼女からは何も指示していない……というていで計画を進めなければいけない。

 けれど、今回は自分の将来の伴侶が決まる大事おおごとなので任せっきりにするが不安だったに違いない。

 ナタリアがちゃんと動いているのか心配して様子を見に来たのだろう。

 ならば親として、我々はきちんと状況を把握していて『悪役令嬢』作戦の遂行に全力で取り組んでいることをアッピールしなければ!

 子爵は揉み手から煙が出そうな勢いで滔々と語り続けた。

「娘はさる高貴なお方の御心痛を察して彼女の為ならば自分が『悪役令嬢』と言われてもかまわないと行動をはじめたようでして。その固い決意に胸が熱くなった私は当家騎士団の団長を補佐につけてやり――あぁ! 殿下の顔色がさらに蒼く!? よ、よほど心労が掛かっているようですな」

 子爵の話を聞いた王女はナタリアが嬉々としてイーノックに襲い掛かっている姿を想像してしまい、顔から血の気を失わせた。

「姫様、お気を確かに!」

「ち、違うの。私は婚約破棄そんなことなんて望んでないの、どうしたらわかってくれるの……」
 インジャパンに支えられながらぐったりと項垂れて半泣きになっている王女の様子に、オロローム子爵は勘違いを加速させて握った拳をワナワナと震わせた。

「おのれ史上最弱の卑劣なヘタレ勇者め、王女殿下このような心労をお掛けするとは不届き千万! 王女殿下自身が今はっきりと明言されたように王女様は『婚約そんなことは望んでない』のだ! 我らは王女殿下の心の安寧のためあらゆる助力を惜しみませんぞ!」

 子爵はこの時、自分こそが王女殿下の真の理解者だと確信していた。

「どうして? どうしてこの家の父娘は人の話をちゃんと聞かないの?」

 もちろん王女のつぶやきなんて彼の耳に入っていない。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...