乳房星(たらちねぼし)

佐伯達男

文字の大きさ
52 / 153
第11話・メモリーグラス

【泣き上手】

しおりを挟む
その一方で、兼次は出向で今の職場に移ったことが原因でいらだちをつのらせるようになった。

兼次は、今の職場で周囲からいびりを受けていた。

課長さんと従業員さんたちは、兼次が出向で来た時からだらけるようになった。

ワープロが使えないことに加えて、兼次以外の従業員さんたちが決められた当番をせずに兼次ばかりに押しつけるなど…従業員さんたちの勤務態度が極力悪化した。

『(お茶が入ってる)やかんが重たい。』『郵便物あったかいのぉ~』などと言うて決められた当番をしない…

その割に、定時になったら帰宅する。

与えられた仕事に文句ばかり言うことだけはいっちょ前で社会のジョーシキがないドアホばかりだ。

それなのに、上層(うえのもん)は『彼らはやりたくないというてるから…』と言うてかれらを甘やかしている。

これでは、兼次がヘキエキするのも無理はないと思う。

その上に、兼次が食べる晩ごはんがない。

優香と由芽が味見でつまみ食いしていることが原因で兼次が食べる分がない。

それなのに、優香と由芽が『エーヨーバランスがどーのこーの…』といよるけん、ホンマにドアホや。

話しは変わるけど、兼次はこの日体調を崩して仕事を休んでいた。

その日の夕方6時半頃であった。

たつろうさんの実家の大広間に3・5世帯の大家族が集まって晩ごはんを食べようとしていた。

しかし、優香の電話が長びいているので食べることができない。

優香は、政子から逸郎さよこ夫婦の知人の家に電話してと言われたので、片っ端から電話をかけていた。

逸郎もさよこも、尾鷲市内と周辺の熊野市と紀伊長島町しか知人がいてへん…

その他の三重県と県外にはひとりも知人はいてへんし、行くアテもない…

優香は、心配げな表情で電話をかけていた。

「そうですか…逸郎さん来ていませんか…すみませんけど、もし逸郎さんがたずねてきたら電話をするように言うてください…よろしくお願いいたします。」

一度電話を切った優香は、書き抜き帳をみながらダイヤルを回した。

優香みつろう夫婦のふたりの子供は、いつになったらごはん食べることができるのかとみつろうに言うた。

「お腹すいたよぅ~」
「ねえ、いつになったらごはん食べられるの?」
「(過度にやさしい声で)ああ、今おかーちゃんが電話しよるけん、もうちょっと待っていてね。」

みつろうはつらそうな表情で『はよせえや。』と優香の背中に向けてつぶやいた。

(ジー、ジー、ジー、ジー…プルルルルルルルルルルルルルルルルル…ガチャ…)

「もしもし、あのすみません…そちらに逸郎さん…すみません…すみません…」

(ガチャン)

優香は、間違い電話をやらかしてもうた。

「ああ…またやらかしたわ…どないしょー…」

(ガチャ…ジー、ジー、ジー、ジー、ジー…ガチャン!!)

「キーッ!!」

優香のイライラが頂点に達した時であった。

(ジリリリリン!!)

けたたましいベルの音が鳴り響いたので、優香は受話器をあげた。

「多賀でございます…もしもし逸郎さん!!どこにいるのよ!?みんな逸郎さんのことを心配して…ああ、すみません~」

電話は、お弁当工場に勤務している近所の奥さまからであった。

優香は、ものすごく赤い顔で『すみませんでした…』と言うた。

このあと、優香は奥さまから兼次がお弁当をたべていないことを聞いた。

「もしもし…兼次さんがお弁当を食べていないと言うのはどう言うことでしょうか?…アタシにはよくわかりませんけど…そんなはずはありませんわ!!…兼次さんは、お弁当おいしいおいしいと言うて食べていたわよ!!」

その時であった。

ボストンバッグ1つを持って、だまって家を出ようとしていた兼次を優香が見た。

優香は、兼次を止めるために受話器を放りすてて外へ出た。

「兼次さん!!兼次さん待ってよぅ!!どこへ行くのよぉ!!お弁当工場の人が心配して電話をかけてきたのよ!!ねえ兼次さん!!」

その間、電話は受話器があがったままの状態になっていた。

受話器の向こう側から奥さまの叫び声がひっきりなしに聞こえている。

兼次は、優香の呼び声をかき消してそのまま家出したあとたつろうさんの実家に2度と帰らなくなった。

同時に、職場に対して徹底抗戦を構えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...