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三章

暗躍という言葉に憧れて

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面倒くさい小イベントが終わり、例によって訓練場に戻る。


気分転換にジャストテクニックの練習をし始める。ワタナベ曰く、契約恩恵が非常に優秀で難易度が非常に下がってる。とはいえジャストテクニックが決まるとなんとも言えない爽快感があるのだ。


木剣で協力してくれているけんさんの斬撃をジャストで防ぐ。そして、たてさんに木剣で攻撃し、ジャストインパクトを決める。ちなみに、けんさんとたてさんは俺の師匠として手合わせしてくれている。めちゃくちゃ手を抜いているのはわかるのだが、ジャストテクニックが成功すると二人共めちゃくちゃ喜んでくれる、褒めて伸ばすタイプの師匠だった。


つまりは、けんさん師匠とたてさん師匠との手合わせがめちゃくちゃ楽しく、俺の承認欲求が満たされ、精霊の可愛い動きも見れ眼福なのである。


ジャストテクニックは本当に力がいらず、互いの斬撃がかち合っても一切衝撃を感じない。むしろ、こちらの方が力が上として押し込めてしまう。物理法則とは? という感覚が実際に体で体験出来て不思議なのも合わさりとても楽しい。


ちなみに俺が理解したジャストテクニックのやり方は、斬撃やら盾による受け流し時武器に魔力を波を流す。その波が標的の接触タイミングと同時の場合に発動する。恩恵による受付が長いという事から、魔力の波をパパパッと3つ位流し保険的な運用をしている。そのおかげか7割強は成功しており、ここに関しては全くハードモードを感じない。可能であればもっと成功率を上げたいものである。


そして、俺の最近のスタイルは二刀流。右手には通常の長さの木剣、左手には少し短めの木剣を持っている。左手は相手の斬撃等の攻撃を弾く事をメインに持っている。盾で良いじゃんと思われるだろうが、二刀流というスタイルがカッコいいのでしょうがないのだ。それに盾は咄嗟に出せるエアーシールドがあるしね。

師匠二人と戯れるように練習していると


「ツキシマくーん、申し訳ないんだけど、またお客様なの。今度は騎士の方なのだけど。」

「あーっと、はい。わかりました。」

またか、面倒くさいな。でも、騎士か。もしかしてさっきの事で文句でも言いに来たのだろうか。気が乗らないが応接室に向かう。

「失礼します。」

「はい、どーぞ。」

声の感じからどうやら報復ではないようかな? と部屋に入ると、次の言葉に備え息を深く吸う。



「ワタナベじゃねーか! 騎士ワタナベじゃねーか!」



そこには最近と装いが違い、馬車イベントの時と同じ鎧のワタナベがいた。

「はっはっは! カティアさんにお願いしてな! 最近面会が多いんだって? 人気者か?」

「うるせーよ。噂に尾鰭が付いて面倒くさい事になってるんだよ。」

「あー、それなー。俺がおまえを巻き込もうとしてるのに、全部俺の名前出して追い返してるだろ? 王族相手によくやるよなー。」

「嫌なものは嫌だと言いたい。つか、ワタナベ、おまえが原因かよ!」

「うむ。今、この町と王都が面白くなっててな! どろどろな王族の継承争いとこの町に潜む王都転覆を目論む反乱軍がいてだな!」

とワタナベが楽しそうに王家のダメさ、それに耐えきれずに集まった者達の対立をペラペラと話し始める。

「ちょいちょい、ワタナベ、おまえ詳しすぎない?」

「まぁ、まぁな。」

もしかして、ワタナベがその辺りかき回したりしてないよな? とジト目でみると慌て始めるワタナベ。

「あ、そうだ。そろそろ魔物討伐行くか? どうせ今も特訓してたんだろ? そろそろ自分の腕を試してみたいんじゃないか?」

「お、遂にか? 行く行く! じゃあカティアさんに適当な討伐依頼受けに行こうぜ!」

と二人で応接室を出る。受付に向かう廊下で、背後に何かを感じた瞬間。

あっさりと背後から首元に刃物を当てられる。暗殺部隊の手練なのか殺意も何も感じなかった。

「ツキシマ様、御機嫌よう。ワタナベ様はどちらにいらっしゃるのですか? あなたにはワタナベ様との仲を取り持っていただきたいのです。」

さっき断った姫だ。

「わ、ワタナベなら、隣に。」

と騎士ワタナベを指差そうと横目で見るが、誰もいない。

は? ワタナベ、あいつ逃げたのか? 瞬間移動とかマジでやべーな。そして、この展開もやばいな。

「ツキシマ様、何を仰ってるかわかりませんが、つまりはワタナベ様に力を借りたいのです。ご協力いただけますわね?」

と整った顔を笑顔にした姫。その顔に恐怖を覚え、拉致される。

俺を殺す気はない事が逆に動き、精霊達は気付かないようだ。

幸いカティアには遭遇せず、巻き込まなかった事は良かったが馬車に押し込められ、目隠しをされる。

果たして、ワタナベは助けに動いてくれるのだろうか? と一抹の不安を持ったまま馬車は走り始める。
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