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三章
執事は舞台で踊る
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ギルドで拉致され、最悪は地下に幽閉とか拷問とかなんらかの苦痛を受けると勝手に想定していました。
「···。」
「···あ、あの。ゴメスさん? でしたよね?」
「はい。ゴメスと申します。」
先日、面会で姫と呼ばれた女性の前にモノクルを置いた執事っぽいダンディな男性が側に控えている。
「それでこの豪華な食事は?」
「はい。主からの指示に御座います。ツキシマ様はワタナベ様の知人。丁重に持て成せと仰せつかっております。」
とゴメスは綺麗にお辞儀する。
うーん、拉致しておいて高待遇とか意味不明だが、そこまでワタナベの力を借りたいのか。ワタナベの言ってたお家騒動、完全に巻き込まれたかな。
「ツキシマ様、スープやメインが冷めてしまいますので、どうぞお召し上がり下さい。」
「あ、はい。ご馳走になりますね。」
◇◆◇
食事に自白剤とか物騒な事を疑ってましたが、回避策は食べない事ぐらいしかなく、空腹に耐え切れない俺は結局美味しくいただきました。
「ゴメスさん、ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
とお礼を伝えると笑顔で会釈を返される。
「ツキシマ様は冒険者様と伺っております。やはり男性はそうでないといけませんな。気持ちの良い食事で御座いました。そうそう、訓練などされるのであればお声掛け下さい。運動場をご案内させていただきます。」
「え? 外に出てもよろしいのですか?」
「はい。主より事前に許可を取っておりますのでご安心下さい。」
あれ? 待遇的に緩くない? 正直長く滞在しても良いかもしれない。
い、いや、ワタナベの返答次第ではどうなるかわからんし、素直にワタナベが対応するとも限らない。何かしらの準備は必要か。と心許ないが食事で使用した先割れスプーンを手に取りポケットに何故か忍ばせてしまう。
少し休憩した後でゴメスに運動場の事を聞く。
「かしこまりました。今の時間だと騎士達が訓練しておりますので、手合わせも可能でしょう。」
「あー、そうなのですね。」
騎士は非常に感じが悪かった記憶しかないがしょうがないか。
「はい。では参りましょう。」
◇◆◇
「ツキシマ様、着きました!」
「ああ、はい。」
運動場と言うだけあって広い。なるほど、建物に囲まれた場所にある敷地ね。確かにここなら自由にさせても構わない、か。
「さて、やりましょうか。」
「は? え、何を、でしょう?」
とゴメスはどこからか持ってきた木剣を持ち、俺にも渡してくる。
「'あ、始める前にちゃんとストレッチして下さいね。」
少し強引だが、俺に剣術を指導してくれるのだろうか。ゴメスに流される俺は素直にストレッチし、呼吸を整える。
しかし、全力は当然ながら出さない。高待遇とはいえ、拉致には変わりがない為だ。
「ツキシマ様、では始めましょうか。」
というとゴメスは木剣を横にし高さを顔の前にして構える。
「では、こちらに打ち込んで下さい。」
「は、はい。」
折角だから、両手持ちでの動きの型を見直してみよう。
その後、色々試した。剣道のような打ち込みや単純に力任せに打ち下ろしたり、片手持ちだったり、逆手に持ったりである。
俺は剣術に関しては完全に素人、テレビや漫画で見た動きをトレースしているだけである。
「ツキシマ様は流派などなく、現在模索の途中というところでしょうか。」
「はい。そうですね。剣術なんて最近始めましたし。」
「左様でしたか、しかしながら体の使い方はお上手なようだ。少し手直しすればもっと軽やかに動きが出来ましょう。」
「本当ですか? ありがとうございます。」
恐らく、それも呼吸法のおかげと思われる。呼吸法によって全身の体の感覚がはっきりわかる。まぁ力が入らないように手抜きをしているが。
「では、今度は私がこの場で向きを変えますので、それに合わせて動きながら打ち込んでみて下さい。」
「は、はい。わかりました。」
それからはゴメスの向きに合わせてゴメスの木剣に斬撃を打ち込んでいく。
しばらく経つと、遠目にいた騎士達がこちらに気付きぞろぞろと周りを囲んで見物している。
「ふむ、ツキシマ様はタフでいらっしゃいますね。だいぶ時間は経過しましたが、汗すらかかないとは。」
と疑いの目をかけられ、やってしまったと後悔する。まぁ全力じゃないのはバレるよなぁ。と木剣で右肩をポンポンと叩く。
「いやー、素晴らしい。ツキシマ様は優秀な運び屋としてこの町でも有名ですからね。噂は本当でございましたか。」
運び屋と言われるとあれだが、優秀と言われるとお世辞でも嬉しい。そして、気付くとゴメスも息が切れていない。結構運動したのにスーツに汚れもなく皺もない。相当な使い手という感じか?
主の指示とはいえ、食事のお世話や剣の指導も受けた身として。この執事さんとは将来戦う事にはならないといいなぁと思っていると
「おい、貴様ら我らが騎士団員の前で、剣遊びとは良い度胸だな。」
と体はでかいが頭の足りなそうな騎士が足を踏み出す。その後ろではそれを静止しようと「おい、やめろ!」と声が聞こえるが騎士はやめようとしない。
「騎士様、大変失礼致しました。ただいま当家のお客人であるツキシマ様と軽い運動を···。」
客人? 拉致されたんですが、それは。
「軽い運動だぁ? 剣を舐めるんじゃねぇ! それなら俺が指導してやる!」
とあからさまに本当に騎士か? と思える発言だ。どうしたものかとゴメスを見る。
「はぁ、では仕方がありませんね。ツキシマ様、この騎士の剣を見て頂いてもよろしいでしょうか?」
は? え?
「何? 俺が見て頂くだと?」
と面白いように怒りを顕にする騎士。その手に握られるのは騎士剣。
え? 木剣同士じゃないの? この執事、いや、こいつらハメやがったな。
執事と騎士の台本のような絡みで手合わせをする流れになる俺。だからといって騎士剣を渡されても困るが、周りの騎士達も仕掛け人なのか盛り上がり始め、後に引けなくなってしまうのだった。
「···。」
「···あ、あの。ゴメスさん? でしたよね?」
「はい。ゴメスと申します。」
先日、面会で姫と呼ばれた女性の前にモノクルを置いた執事っぽいダンディな男性が側に控えている。
「それでこの豪華な食事は?」
「はい。主からの指示に御座います。ツキシマ様はワタナベ様の知人。丁重に持て成せと仰せつかっております。」
とゴメスは綺麗にお辞儀する。
うーん、拉致しておいて高待遇とか意味不明だが、そこまでワタナベの力を借りたいのか。ワタナベの言ってたお家騒動、完全に巻き込まれたかな。
「ツキシマ様、スープやメインが冷めてしまいますので、どうぞお召し上がり下さい。」
「あ、はい。ご馳走になりますね。」
◇◆◇
食事に自白剤とか物騒な事を疑ってましたが、回避策は食べない事ぐらいしかなく、空腹に耐え切れない俺は結局美味しくいただきました。
「ゴメスさん、ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
とお礼を伝えると笑顔で会釈を返される。
「ツキシマ様は冒険者様と伺っております。やはり男性はそうでないといけませんな。気持ちの良い食事で御座いました。そうそう、訓練などされるのであればお声掛け下さい。運動場をご案内させていただきます。」
「え? 外に出てもよろしいのですか?」
「はい。主より事前に許可を取っておりますのでご安心下さい。」
あれ? 待遇的に緩くない? 正直長く滞在しても良いかもしれない。
い、いや、ワタナベの返答次第ではどうなるかわからんし、素直にワタナベが対応するとも限らない。何かしらの準備は必要か。と心許ないが食事で使用した先割れスプーンを手に取りポケットに何故か忍ばせてしまう。
少し休憩した後でゴメスに運動場の事を聞く。
「かしこまりました。今の時間だと騎士達が訓練しておりますので、手合わせも可能でしょう。」
「あー、そうなのですね。」
騎士は非常に感じが悪かった記憶しかないがしょうがないか。
「はい。では参りましょう。」
◇◆◇
「ツキシマ様、着きました!」
「ああ、はい。」
運動場と言うだけあって広い。なるほど、建物に囲まれた場所にある敷地ね。確かにここなら自由にさせても構わない、か。
「さて、やりましょうか。」
「は? え、何を、でしょう?」
とゴメスはどこからか持ってきた木剣を持ち、俺にも渡してくる。
「'あ、始める前にちゃんとストレッチして下さいね。」
少し強引だが、俺に剣術を指導してくれるのだろうか。ゴメスに流される俺は素直にストレッチし、呼吸を整える。
しかし、全力は当然ながら出さない。高待遇とはいえ、拉致には変わりがない為だ。
「ツキシマ様、では始めましょうか。」
というとゴメスは木剣を横にし高さを顔の前にして構える。
「では、こちらに打ち込んで下さい。」
「は、はい。」
折角だから、両手持ちでの動きの型を見直してみよう。
その後、色々試した。剣道のような打ち込みや単純に力任せに打ち下ろしたり、片手持ちだったり、逆手に持ったりである。
俺は剣術に関しては完全に素人、テレビや漫画で見た動きをトレースしているだけである。
「ツキシマ様は流派などなく、現在模索の途中というところでしょうか。」
「はい。そうですね。剣術なんて最近始めましたし。」
「左様でしたか、しかしながら体の使い方はお上手なようだ。少し手直しすればもっと軽やかに動きが出来ましょう。」
「本当ですか? ありがとうございます。」
恐らく、それも呼吸法のおかげと思われる。呼吸法によって全身の体の感覚がはっきりわかる。まぁ力が入らないように手抜きをしているが。
「では、今度は私がこの場で向きを変えますので、それに合わせて動きながら打ち込んでみて下さい。」
「は、はい。わかりました。」
それからはゴメスの向きに合わせてゴメスの木剣に斬撃を打ち込んでいく。
しばらく経つと、遠目にいた騎士達がこちらに気付きぞろぞろと周りを囲んで見物している。
「ふむ、ツキシマ様はタフでいらっしゃいますね。だいぶ時間は経過しましたが、汗すらかかないとは。」
と疑いの目をかけられ、やってしまったと後悔する。まぁ全力じゃないのはバレるよなぁ。と木剣で右肩をポンポンと叩く。
「いやー、素晴らしい。ツキシマ様は優秀な運び屋としてこの町でも有名ですからね。噂は本当でございましたか。」
運び屋と言われるとあれだが、優秀と言われるとお世辞でも嬉しい。そして、気付くとゴメスも息が切れていない。結構運動したのにスーツに汚れもなく皺もない。相当な使い手という感じか?
主の指示とはいえ、食事のお世話や剣の指導も受けた身として。この執事さんとは将来戦う事にはならないといいなぁと思っていると
「おい、貴様ら我らが騎士団員の前で、剣遊びとは良い度胸だな。」
と体はでかいが頭の足りなそうな騎士が足を踏み出す。その後ろではそれを静止しようと「おい、やめろ!」と声が聞こえるが騎士はやめようとしない。
「騎士様、大変失礼致しました。ただいま当家のお客人であるツキシマ様と軽い運動を···。」
客人? 拉致されたんですが、それは。
「軽い運動だぁ? 剣を舐めるんじゃねぇ! それなら俺が指導してやる!」
とあからさまに本当に騎士か? と思える発言だ。どうしたものかとゴメスを見る。
「はぁ、では仕方がありませんね。ツキシマ様、この騎士の剣を見て頂いてもよろしいでしょうか?」
は? え?
「何? 俺が見て頂くだと?」
と面白いように怒りを顕にする騎士。その手に握られるのは騎士剣。
え? 木剣同士じゃないの? この執事、いや、こいつらハメやがったな。
執事と騎士の台本のような絡みで手合わせをする流れになる俺。だからといって騎士剣を渡されても困るが、周りの騎士達も仕掛け人なのか盛り上がり始め、後に引けなくなってしまうのだった。
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